第31話 見つからないもの
行方不明の人達の特徴として、男女は関係ないこと。
とはいえ年齢が大体十代後半から二十代の人が集中しているようだ。
行方が分からなくなる少し前に、その人達の心境や環境が大きく変わっている。
これが品子達の資料で分かったことだ。
つぐみは改めてリビングの机にある、沙十美の資料を見る。
写真の服はヒイラギ達と初めて会った時のまま、つまりあの日に何かが起こったということだ。
他の人達もそうなのだが、鞄の中に財布や身分証明、スマホなどはそのまま入っていた。
つまりは物取り目的ではないということ。
沙十美の所持品のリストを見て、違和感を覚えたつぐみは品子に尋ねた。
「先生、沙十美の所持品なのですが。彼女がいつも身に着けていたアクセサリーがリストにありません。……あ」
……そういうことか。
つぐみは理解した。
「そう、だから私は千堂君のスマホで、グループラインにアクセサリーの話を聞いていた。結果は振るわなかったけどね」
「彼女は……。自分の行っているお店を知られるのを、嫌がっていた気がします」
鈴木に行きつけの店を尋ねられた時。
さらにはつぐみに蝶のピアスのことを聞かれた時もだ。
彼女の拒絶はそこに繋がっていたのだ。
「つまり、そのお店が行方不明の人達の手掛かりなんですね?」
「そうなんだけどね。肝心のその店が、全く見つからないんだよ」
「沙十美はそのお店は、多木ノ町の駅から歩いて五分位と言っていましたが」
「もちろんそのあたりも調査済み。だが無いんだよね。どれだけ調べても」
確かにつぐみも、沙十美にプレゼントをするために店を探したのだが見つけられなかった。
普通に探していては見つけられない店とは、一体どういうことなのだろう。
考えているつぐみの前に、コップが静かに置かれる。
見上げた先に、シヤがお盆を抱えて立っていた。
「どうぞ」
それだけシヤは言うと、そのまま台所に戻っていく。
「ありがとう。シヤちゃん」
コップには半透明な水が入っていた。
一口、飲んでみる。
スポーツドリンクのようだ。
これも、ヒイラギが買ってきてくれたものだろう。
礼を言おうと台所に向かうが、ヒイラギは居ない。
今いるのはシヤだけだ。
「シヤちゃん、飲み物をありがとう」
「……兄さんが、お茶よりはこちらのほうがいいからと」
「そうなんだ、気を遣ってもらったんだね。ありがとう。ヒイラギ君は?」
「今、お風呂に入っています」
以前との雰囲気の違いにつぐみは戸惑う。
「何か?」
「い、いえ特に何もないです。えーとシヤちゃ、……シヤさんとお呼びした方が?」
「特に怒っているわけではありません。これが本来の私の性格です」
「え、そうだったの!」
驚きのあまり、つぐみはつい大きな声を出してしまう。
「あなたとの接触の際、普段のこの対応だとあなたが警戒すると判断しました。いわばこの間の態度は、あなたを騙していたことになります」
「……」
「あなたは今、不快な思いを感じたかもしれません。ですが、仕方ありません。あの時のような快活な態度を今後、求められても私はするつもりもないですから。今のうちにはっきりと言っておきます」
その言葉を聞き、つぐみはぽつりと呟く。
「……ごめんね、シヤちゃん」
「何がでしょうか?」
「お仕事だったんだろうけど。偽物の、本当ではない態度を私がさせてしまったんだね」
偽物の自分を演じなければいけないのは、とても辛い。
本当の自分であることが許されないのは、とても苦しい。
それをつぐみは知っている。
「我慢して接するのはとても辛いです。今のままのシヤちゃんでお願いします」
ぺこりと礼をして、つぐみはリビングへと戻っていく。
『お前は
つぐみの頭の中で響く言葉。
痛くないのに、無意識にわき腹を押さえてしまう。
あれから随分と時間が経っているのに。
まだこの癖を、つぐみは治すことが出来ない。
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