第3話【小学生の男の子】

自分で言うのも何ですが、優等生なら絶対にしないはずの『遅刻』を繰り返した時期があります。


それは1年生の夏でした。



ある朝。登校途中に1人のランドセルを背負った小学生の男の子と出会いました。

その子は1人で歩いていて。通学路を歩いてはいましたが、その時間にそこを歩いていては、完全に遅刻。その割には慌てている様子も無く。

“…あ。学校に行きたくないんだろうな”

と、明らかに分かりました。

それでも素通り出来ず。自転車を降り、話しかけてみました。


今の時代なら話しかけた時点で完全に『変質者』扱いで、警察に連絡されそうですが。


今思えば…普通の人なら素通りしていたはずなのに、僕達は自転車を降りました。

その子に、『何か』を感じたのかもしれません。



その後も数週間。その子を見かける度に、自転車を降り、一緒に話をしながら、その子を小学校まで送り届け、自分も遅刻をし、杉崎先生には「寝坊しました」と嘘をつき…という生活が続きました。


先生には「悩みがあれば話を聞くよ」と優しく言われてはいましたが、自分からはその子のことは話せず。

美由の母親にだけは、真実を話していました。



しかし、【『校則はしっかり守る優等生タイプ』のはずの僕達が何故寝坊で遅刻を繰り返すのか】杉崎先生は、年齢こそ20代半ばと若かったけれど、教師生活の中で初めてクラスの担任を受けもったということもあってか、責任感も強く、熱血漢で生徒のことをとてを大切に考えてくれる素晴らしい先生でした。


相当心配してくれていたのでしょう。

1学期の2者面談の際、彼女の母親に遅刻の理由を聞いてきたそうです。いたたまれなくなった美由の母親は、その子のことを話したそうです。

彼女の母は、「真実を知り、納得したようだった」と言っていました。



その後。不思議なことに、夏休みが明けるとその子を見かけることは全くなくなりました。


それからはもちろん、遅刻する事も無くなりました。

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