【第十四話】魔法医師 ⑨

「それで……?アンタには、あの黄泉ヶ丘をどうにかするアテはあるのか?ミッドカオスもディオラスも……あの丘には悉くやられちまってんだ。流石にそれがどうにもなんなきゃ、俺たちでもどうにもならないぜ?」



スパイルは尋ねた。


メルセデスも三大国の一つだ。


そもそもたった3人で潰そうと思って潰せるほど、ヤワな国でもない。


なんだかんだ言っても、あのミッドカオスやディオラスと昔からずっと渡り合ってきたのだ。


その2国に侵攻を止めさせた『元凶』がどうにかならないと、いくら2人でもどうにもならない。


しかし、


ウィクシルは再びクスリと笑った。



「その辺りのことは大丈夫よ。対策はあるわ。なんせ私は……その"メルセデスの出身"なんだもの」


「あー……予想はしちゃいたが……やっぱそうなんだな……」



スパイルは頷く。


この色んな国の人間が集まるドラルスにおいても、メルセデス人を見ることは非常に珍しいことだった。


メルセデスは最近ではなかなか表舞台に出てこないこともあり、メルセデス人がどういうものかを皆知らないのだ。


ドラルスはかつての敗残国の生き残りたちが多いこともあって、人種だけではなかなか見分けをつけられない。


だから、


ウィクシルにそう言われても、驚きはむしろ少なかった。


というより、納得する力の方が大きかった。


黄泉ヶ丘のこともあって、メルセデスについては色々と噂があるのだが、その一つが、『メルセデスは魔法国家である』というものだ。


人智の及ばぬ黄泉ヶ丘のことを考えれば、こんなことを可能にする術など、魔法のような力以外に考えられない。


その魔法を使えるウィクシルがメルセデス出身というのは、ある意味当然と感じられた。



「この話をオーケーしてくれるのであれば、勿論、あの丘の攻略法を教えるわ。ミッドカオスやディオラスが大喜びするような、トッテオキの情報よ?それを基に、"同志として"、一緒にメルセデスと戦ってほしいの」


「「…………」」



恭司とスパイルは、お互いに顔を見合わせる。


あの丘の攻略法を知れるのであれば、確かに2人にとって有益な情報となるのは間違いなかった。


ミッドカオスやディオラスとの交渉の材料にもなるし、知っておいて損はない。


それに、


ウィクシルの言う『同志』には、相手の言うことに従う必要がないし、2人にとっては都合よくもあった。


しかし、



「まだ具体的な所を聞いていない。一緒にメルセデスと戦うと言われても、結局、俺たちに何をしてほしいんだ?まさか、黄泉ヶ丘を越えて、俺たちに特攻してこいとでも言うつもりか?」


「まさか。ただの同志なんだから、流石にそんな無茶言わないわよ。ただ、ちょっとした"お願い"をしてみるだけ」


「……?お願い?」



恭司は尋ねる。


ウィクシルはそこで、ニヤリと笑った。


口角が嫌らしく吊り上がり、妖艶な笑みを浮かべる。


そして、


ゆっくりと言葉を紡いだ。



「このドラルスの街を、壊滅させてほしいのよ」

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