【第十三話】ドラルスの街 ③

「とりあえず…………寝るか」


「あぁ…………。そうだな…………」



2人きりの状況の中、気まずい雰囲気が立ち込める。


何故こんなことになったのかと考えずにはいられなかったが、疲労度は既に限界近かったし、もう入ってしまった以上、我慢するしかなかった。


そうして、


2人はベッドに寝転がる。


男2人でベッドはギシギシと辛そうな音を立てたが、それくらいはもう仕方がなかった。


背に腹はかえられないのだ。



「あっ、悪い…………」


「いや、別に構わない…………」



そして、


寝転がってみると、スパイルの体が大きいせいで、ベッド1つだとつい身体が触れ合ってしまった。


元々"そういうこと"をするためのベッドなのだから、仕方がない。


この部屋独特の空気感もあり、変に意識してしまう。


妙な緊張感で体が汗ばみ、思わず吐息が熱くなっているような気がした。


あまりに近い距離にーー。


あまりに無防備な状況ーー。


普通に同じベッドというだけならともかく、ここはラブホテルなのだ。


密室ということもあって、今にも心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。


立ち込める甘い雰囲気にーー。


緊張の一時ーー。


恋人のような距離感ーー。


ドキドキと、胸が高鳴る。


新しい扉が開きそうになる。


股間が、胎動するように意識をし始める。


思わず、スパイルは叫んだ。



「いや、誰得の展開だよッ!!」



謎の展開に謎の場所で、謎の雰囲気の醸し出されるこの部屋で、スパイルの声が虚しく響いた。


恭司はため息をつく。



「まさか…………初めてのラブホテルが、こんな筋骨隆々の男相手になるとは思わなかったよ…………」



その声には、幾ばくかの悲しみも含まれていた。


恭司は美形で、顔もカッコ良さよりは美しさの方が際立つし、スパイルと違って体も細身だ。


格好を変えれば女性に見えてもおかしくない。


受付の目には、確実に『受け』として映っていただろう。



「いや、だから仕方ねぇだろって!!普通の所なんて俺らいけねぇんだから!!指名手配されてんだからッ!!これぐらいの苦痛は我慢しろッ!!」


「満身創痍でドラルスまで走ってきた時の方が、まだマシだったぞ……」



2人とも戦闘のプロで、痛みや苦痛にはめっぽう強い方だが、これは別種だった。


別にそういう人たちに偏見があるわけではないが、ノーマルな人間にとっては辛いものだ。


今度はスパイルがため息を吐き出す。



「まぁ、今回限りなんだから今だけは目を瞑ってくれ。明日は変装用の服買って、普通の所に泊まろうな…………」


「あぁ…………。そうだな…………」



そうして、


2人は嫌々ながらも同じベッドで寝て、すぐに寝息を立てた。


なんだかんだ言っても、体力は既に限界だったのだ。


こんな状況でも、ベッドがあるだけありがたかった。


まだ昼だが、一度寝た以上、しばらくの間は起き上がれないだろう。


1日とはいえ、出血多量に骨折までしているのだ。


そこに2度も戦闘も行ったのだから、疲労による睡眠欲は抑えきれない。


こうして、


ドラルスの1日目は、ただただ眠るだけで過ぎ去っていったのだった。



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