【第九話】スパイルの過去 ②
「…………」
少し黙ってしまった。
正直なところ、話すべきかどうか迷う。
スパイルは今や仲間だ。
だが、
そうにしても、今日の今しがた提携を結んだばかりの人間を信用しきるには、恭司は少しばかり疑心が強すぎる。
それに、
会ったばかりの男にいきなり話すには、三谷一族のことは重すぎる話題だ。
父や皆が無惨にも殺された記憶など、できることなら思い出したくない。
しかし、
恭司のそんな心境とは裏腹に、スパイルはとても聞きたそうにしている。
その表情を見るに、どうやら食い下がる気はなさそうだ。
だから、
恭司は敢えて別の話題をふった。
「……その質問に答える前に、俺もお前に聞きたいことがある」
「ん?」
その返しは予想してなかったのか、スパイルは目を少しだけ見開いた。
「お前の素性だ。見た目的にもディオラス人だということは分かるが、何故こんな森の中にいたんだ?それに、俺にいきなり襲い掛かってきた理由も気になる。あと、俺みたいな奴に誘われてひょいひょいついて来る理由もな。国を離れるのに、国にいる者に対して何も報告をしないのも少し変じゃないか?それと……」
「待てよ。そんな一気に質問するな。ずいぶん沢山あるみたいだから、簡単な奴から順番に答えていってやる」
「…………」
「まず、俺がお前に襲い掛かった理由……だっけ?そんなの簡単だ。一目見て、お前が強いだろうことは簡単に予想がついたからな。ちょうどムシャクシャしてたし、一度戦ってみたいって思ったんだ。だからちょっかいかけた。以上」
「………………」
「あと、お前について行こうって考えたのも似たようなもんだ。面白そうだと思ったからついて行く。以上」
「……………………」
「んで、残りの質問なんだがなぁ……」
そこで、スパイルは少し言葉を止めた。
迷っている。
恭司に話すべきかどうかを。
恭司としては、そこが最も知りたい所だ。
スパイルが何者なのか明確になる。
襲ってきた理由やついて行く理由など、さっき聞いた答えじゃアテにならない。
スパイルが嘘をついているとは言えないが、適当に答えても本当かどうか分からない箇所だ。
その点、残りの2つは一番嘘をつきにくい。
国境の森の中など、用事がなければ絶対に入るような場所じゃないし、国を出る際、報告を出すのはどこの国でも当たり前の作業だ。
出さなければ、下手をすれば犯罪になる。
恭司が恐れているのは、スパイルがディオラスやミッドカオスからの刺客である可能性だ。
スパイルが現れたのはちょうど恭司がシェルやビスと戦い終わったその直後。
命からがら逃げ延びた王族狩りを仕留めるために待機していたのではないかと、恭司は疑っているのだ。
ミッドカオスにとって害である王族狩りをわざわざディオラスが狙ってくる理由は分からないが、恭司もミッドカオス人。
その辺の見境はないのかもしれないし、悪名高い王族狩りの首を討つことで国内の兵士の士気を上げるのが目的かもしれない。
まぁ……どちらも可能性の低い話ではあるのだが……。
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