第136話

(……いない)


いるのは医療関係者の人たちだけだった。忙しそうに医療器具を運んだり、準備をしている。


花音はホッとして、部屋から出た。


きちんと断ると決心したものの、やっぱり父となるべく顔を合わせたくないのも本音だった。まして今日は郷田も一緒だというのだ。


(古城さんはここを通ってママの病室に来ると思うんだけど……、どうかパパと一緒じゃありませんように)


ここを曲がるとアンディの部屋まで一直線になり、もう身を隠すところがない。花音は出ていくか迷った。


自分の心臓の音が、ドクンドクンと鳴っている。


(どうしよう。行く? ここにいる?)

花音はゴクンと唾を飲んだ。その時、ポンと誰かが肩をたたいた。


ゴホゴホゴホ!


花音は思い切りむせてしまった。


「花音ちゃん! 大丈夫?」


アンディーだった。


「ゲホゲホ……、せ、先生!」


「どうしたの? こんな所で……」


「花音ちゃん。僕の部屋に来て休めばいいよ。大分顔色が悪いよ」


「有り難うございます」


「賢はまだ教授と話してる。あとでこっちに来ると思うよ」


(え? 父はまだ挨拶に来てないのかしら?)


「さっきはどうしたの? 出たり引っ込んだりして」


(見られてたんだ……)


花音は恥ずかしくて、穴があったら入りたい気持ちになった。


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