第127話

あの人は多忙なミラー先生を「こっちに来いよ」の一言で呼んで、母を助けてくれた。


昨日、病院で見た母の顔は、頬に薄っすらと赤みが差して、やつれた感じがしなかった。「食事がおいしい」と言っていただけあって、体にほん少しだが、ふくらみが出て来た様に思う。


古城にどう感謝したらいいのか分からない。


あの日、古城が傘をさしかけてくれた時から、花音の世界が目まぐるしく変わった。自分の心の変化も環境の変化も驚きの連続だった。


♪ピコン


スマホが鳴った。ママからだ。


《花音、おはよう! ママ、すごく気分がいいの。花音からいいお話が聞けそうな気がするの》


昨日から、母が絶えずメールを送って来る。花音はそんなメールに励まされるというよりも追い込まれていた。


≪早く、古城さんを捕まえて良い返事を聞かせてね≫

≪ボディガードをお願いした期間は、私が死ぬ時か、手術が済んでの数日間よ、頑張れ花音≫

≪花音、女は度胸よ。ママだってダメ元でパパにアタックしたんだから≫


内容は急かす言葉ばかり……


「……ママ……」


(朝の話をすれば、ママはきっと喜んでくれるだろうけど、ママに追い立てられて告白することになる。ママが私を心配してくれる気持ちはわかるけど、それで良いはずないもの)


自分から話す勇気の出ない花音は、小さくため息をついて、スマホをこつんとおでこに当てた。

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