第121話

二人がマンションを出て話しながら歩いていると、近くで小さくクラクションが鳴った。花音が振り向くと黒い高級車が古城の横に静かに止まった。


「賢? 賢じゃないか!」


「あっ、会長、どうしてここに?」


「このマンションの最上階を持っとるんだ。大阪に来た時は大抵ここで泊ってるから、お前もここをわしと一緒に使えばいい。ところで?」


「今から出社です。今日は東京本社で会議がありますので」


古城は爽やかに笑いながら言った。


「じゃあ、今は大阪に居る事が多いのか」


「はい」


「こんな所で話をするのも何だから……まあ、乗りなさい。送って行こう」


大垣会長はそう言いうと、古城に席を譲るため奥へと体を移動した。


「お嬢さんも一緒にいかがですか」


「私は……」


(この人がママの話していた三友商事の大垣会長さんね。すごく威厳があってコワイくらい……、どうしよ……本当に乗っていいのかな……)


会長に声をかけられたものの、花音がマゴマゴしていると、古城が代わりに答えた。


「ええ、ご一緒します」


古城が真ん中に座り、花音は体を小さくして端っこに座った。


「初めまして。伊藤花音と申します」


花音は車に乗ると、すぐに会長に挨拶した。


「もしかして……、伊藤不動産の?」


「はい」


「そうですか。それはそれは……おじい様とは親しくさせて頂いているのですよ。句会やら、茶会やらと」


「有り難うございます」


花音は丁寧に頭を下げてお礼を言った。

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