第116話

運転する彼の横顔を見つめていると、花音は幸せな気持ちになって来るのだった。


メッセージの着信音が鳴った。母だ。


≪今朝、花音の行く末を頼んだら、嫌な顔されなかったわ。もしかしたら、お嫁さんにして貰えるかも……がんばれ、花音、ママはいつも花音を応援してるわ≫


自分の体も大変なのに、ベッドの上で必死にラインを送って来る母の姿が浮かんできて、花音の胸を締め付ける。


(ママ、ありがとう。私だって古城さんのお嫁さんになりたいけど……、古城さんは私たちのこと見かねて助けてくれてると思う。手術のことでこんなにお世話になってるのに、厚かましいお願い言えないよ。ごめんね。ママ)


大きな手術を受ける前に、母に結婚の事で安心して貰いたいと思うけれど、なかなか、花音には難しい事だった。花音は母のラインをもう一度読み返した。手術を控えて、花音を心配する気持ちが更に切実になっているのが伝わってくる。


(頑張るってどうしたらいいの? お嫁さんにして下さいって言うの? 私が一方的に一目ぼれして、お嫁さんになりたいって思ってるだけなのに、ビックリされちゃうよ。もしかしたら会ってくれなくなるかも……ママ。私、告白するのは怖い)


「大丈夫? きっと、お母さんはよくなるよ」


花音が黙ってしまったので心配したらしい。


「は、はい。」


(古城さん、ママのことが心配で考え込んでると思ってるんだわ。ごめんなさい。……古城さんはママの手術に手を尽くしてくれてるのに……それなのに私は、どうやって告白しようか、告白して嫌われないかの心配ばかり……)


花音は古城に気づかれないように、自分の頭をこつんと叩いた。とは言っても、古城は忙しい仕事だ。母の手術のことが済めば、会うことも無くなってしまうかもしれないと思うと、焦る気持ちも本当だ。花音はまた考え込んでしまった。

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