第115話

母の病室からの帰り道……花音は車の中で深く頭を下げて言った。


「本当にいろいろ有り難うございます」


「どうしたの? 急に」


「母のこと、ずっと不安でした。会えないところにいってしまうんじゃないかって……。だから、古城さんに母の容体を詳しく教えていただいたとき、悪い予感は当たっていたんだとゾッとしました。でも、アンディ先生を紹介していただいて、ほかにも立派な先生に来ていただけて……。本当に、本当にありがとうございます」


古城は痛ましそうな表情で花音を見た。おっとりしているようで、母の容体は感じ取っていたのだ。


「そんなに深刻にならないで」


花音はRinのチャームを見つめてそっと撫でた。


「……私は凜ちゃんに何にもしてあげられなかったのに、申し訳ないです。それに私が古城さんのために何かしたいと思っても役立てそうなことが思いつきません」


花音は小さくうつむく。古城は困った顔になって笑いながら言った。


「そんなこと、気にしないで。……でも、お礼を言われるのは嬉しいことだね!」


古城は花音の頭にポンと手を置くと嬉しそうに笑った。花音も幸せそうに微笑む。駆け引きなどなく素直にお礼を言われることは少ない。


嬉しそうな花音の様子を見ていると、ほっとした気持ちになる。


(これもアンディのお陰だな)


花音の不安そうな雰囲気が消えている。母親の病気の回復に希望が見えたからだろう。

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