第51話
「すみません。私にも詳しく教えて頂けませんか。どうも世情に疎くなっているようで…」
花音のママが瀬戸医師に訪ねた。
「ああ、これは三友……あ」
「構いません。どうぞ……」
「すみません。三友商事がLCM社から販売権をとった薬剤を、使用した患者に重篤な症状が出まして」
「まあ……」
「病院側は三友商事を訴えました。そこで、三友商事はLCM社に情報開示を請求しましたが拒否されました。そのLCM社の御曹司なのですよ。アンディ・ミラーは、それも一人息子で……」
「そんな……」
瀬戸医師の言葉に花音のママは言葉を失った。
「相手は米国企業ですからそう簡単にはいきません。製薬業界最大手のLCM社は金にものを言わせて名立たる弁護士を集めて三友商事を叩き潰そうとしましたからね。迎え打つ三友商事の方はハーバードを出たばかりの新鋭の弁護士で相手にならんと、マスコミが煽るものだから、あの頃、私も毎日、新聞に目を通していましたよ」
「それで、どうなったのですか? 裁判の結果は」
「複雑な薬剤の分析から初めて、持病を会わせ持つ重篤患者を綿密に治療し、双方を平和的な話し合いに持ち込んで、最後は和解に持っていったその若手弁護士の評価が上がって、日本を甘く見るなよって感じで、スーとした事を覚えています」
瀬戸医師は、その当時の事を思いだすのか少し興奮して続けた。
「医療関係のトラブルは、なかなか難しいのですよ。企業秘密が詰まっていますからね、早々、うまくいきません。それに問題の薬は世界中で使われている良い薬なので、三友商事としては販売権を失いたくないから大変だったと思いますよ」
瀬戸医師がまるで自分の事のように話すので、古城は苦笑して言った。
「話を戻しても宜しいですか?」
「すみません。つい、夢中になってしまって」
瀬戸医師は、照れ臭そうに頭を掻いて詫びた。
「先程のお話では、アンドリュー・ミラーが適任という事でしたが」
「はい。伊藤さんの主治医でもある香川教授の意見なんですが、ドクター・ミラーは無理と思います。米国でも沢山の患者さんが治療を待っているのに、日本に来て下さる事はまず無いと思います。それにもし、診察を受ける事が出来たとしても、伊藤さんの体では米国までの移動に耐えられないと思います」
「……」
古城は黙って頷いた。花音の母は悲しそうに手元に視線を落とした。
「あ、こんな時間だ。すみません。回診の時間ですので失礼します」
瀬戸医師は一礼すると部屋を出て行った。
「古城さん。私も休みますね。少し疲れましたわ。何だか眠くて」
花音のママはうつらうつらしながら、目を閉じた。
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