第50話
「いいお嬢さんですね」
瀬戸医師の言葉に。
「有り難うございます。私も、そう思います。娘には助けられてばかりで……」
花音のママは素直に喜んだ。
「なかなか、今どき珍しいくらい真面目で誠実なお嬢さんですよ」
「……有難うございます」
花音のママは、花音を誉められて嬉しそうにほほ笑んだ。
「……先生、無理を言ってすみませんでした」
「いいえ、こちらこそ。伊藤さんが不安な気持ちでおられたのに、申し訳ありませんでした」
瀬戸医師は、改めて花音の母に謝った。
「私も言い過ぎましたわ。お許しください」
花音の母は、瀬戸医師に深く頭を下げて詫びた。
「いえ、そんな…」
瀬戸医師も丁寧に頭を下げた。
さっきから古城は黙ったままだ。花音のママも不安げに見ている。
「どうですか?」
瀬戸医師が古城に声をかけた。
「大変、著名な医師たちが治療に当たっておられます。落ち着いた心で治療を続けられるのが一番かと……」
「そう、そうなんです!」
瀬戸医師が力強く言った。
「心臓のバイパス手術の経過は良好ではあるものの体力の低下が、肺に支障を来たしているのですね」
古城の的確な言葉に驚きながらも、平静を保って静かに答えた。
「そうなんです。こうなったら、叱られるのを覚悟で言ってしまいますが、伊藤さんの場合は事故による各臓器の損傷に加えて……ちょっと困った問題が」
瀬戸医師は、気持ちの置きどころに困って、カルテをめくりだした。
「免疫系に問題が?」
古城の問いに、瀬戸医師が反応した。
「そうなんです。特に伊藤さんの場合は先天的な物なので……す」
瀬戸医師は、言葉を詰まらせて黙ってしまった。
「この状態で、よく手術に踏み切られましたね。」
古城はカルテを見ながら、関心したように言った。
「はい。弱っている心臓の機能に重点を置き、私達医師団はバイバス手術に踏み切りました。免疫力の低下はコントロールできましたが、その後、脊髄の損傷による影響が出始めまして」
「それを何とか食い止めようと、努力しています」
「え、でも、脊髄損傷って、動けなくなってしまうでしょう?」
花音のママが驚いて聞いた。
「損傷の内容にもよるのです。外見では脊椎にひびが入っているものの脊髄には問題ないと診断されましたが……」
「血液ですね」
「はい……。アメリカのアンディ・ミラーという医師が、この分野の権威なのですが、打診したところ……断られまして」
「断られた?」
「はい。折り悪く、裁判の最中でして……」
「薬剤訴訟……ですか?」
古城が、小さく溜息をついて聞いた。
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