第45話

「あの、おまたせし……」


花音は声をかけようとして、ためらった。海を見つめる古城があまりにも悲しそうで……


「どうしたの?」


「あ、いえ……、ごめんなさい」


「ん?」


「その、無理なお願いばかり聞いてもらって……、あの……、嫌じゃありませんか?」


花音がそこまで言うと、古城も思い当たったのか


「……ちょっと仕事のことで……、何でもないよ」


「そうですか?」


花音が不安げに見上げた。チャッピーが思いついたように立ち上がると、屋敷の中に入っていった。古城が不思議そうにチャッピーの消えた方を見た。


「どうしたんだろ?」


「あ、食事の用意をしているから、様子を見に行ったんだと思います」 


「なるほど……」


「あの、プレイルームがあるので、それまでどうですか?」


「うん」


「こちらです」


花音はテラスから玄関にまわった。扉を開けると、大理石の敷かれた玄関ホールの左右からカーブしたした階段があり、高い天井からはステンドグラスから、優しい光が差し込む。


花音が好きな場所の一つだ。中津も便利でいいけど、このどこか日本の風情が薫る欧風の建物は趣があっていい。


2階に上がると、ペルシャ絨毯が敷かれている。


「小さい頃、よくメリーと寝転がっていて注意されてました。あ、この奥の部屋のベランダからも海が見えるんですよ」


「また、違う景色で良いね」


「はい! ここは私の部屋なんです。大阪に移るまで使っていました」


「というと、お母さんの……」


「はい。母は大阪の病院で手術を受けたんですけど、事故の後遺症で病院から離れられない生活になってしまって、病院に近い中津に移ることにしました。


それで、私も大阪で就職しました。

三田へは、空気がキレイで設備もよい病院があると聞いて、移ることになったんです」


「心配だね……」


「……はい……」


「お母さん、仕事が忙しくて寂しい思いをさせて悪かったとおっしゃってたよ」


「寂しかったですけど、みんなに尊敬されている母が誇らしかったです。家にいる時は私を一番大事にしてくれていましたし、大好きです」

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