第40話

「今、花音と古城さんが広場で話してるんだけど、ホント楽しそう……。なに話してるのかしら……」


二人は、人工池の畔のベンチに座っていた。


「へぇ……そうか……、花音が古城君とな」


「ええ、あなた! ほんと幸せそう。あら、花音が古城さんを引っ張てるわ。彼、遠慮してるのね。わたし、テラスで待ち合わせしてるの。行くわね。またね」


「ああ、無理するなよ。気分が悪くなったら、すぐ先生に言うんだぞ」


「はい。分かってます。じゃあね」


そう言って、母は父との電話を切った。


約束したテラスに母が来ないので、花音が心配そうな顔で病室に入ってきた。

続いて古城も一礼して入ってきた。


「ママが、なかなか来ないから、心配で来たのよ」


「ごめんなさい。お医者様との話が、少し長引いて……」


「ママ? お医者様のお話って?」


不安そうな花音に母がほほ笑んだ。


「何か良い事あったのですかって、聞いて下さったから、ついつい……ね。ごめんね。花音」


「ううん。それなら良かったわ。ママ、ケーキ食べよう。私、コーヒー淹れてきます」


花音が部屋を出て行ったのを確認すると、母は胸に手を当て苦しそうに息をした。


「大丈夫ですか? 医師を呼んできましょうか?」


「大丈夫です。いつもの事ですから」


母は淋しく笑ってから、思い詰めたように言った。


「古城さん、あなたにお話があります。聞いて下さいますか?」


古城は突然のことに戸惑った様子だ。


「……初めてお会いした方に、お願いだなんて厚かましいことは重々承知ですが、ぜひ、聞いて頂きたくて」


花音の母にとっては、切実な願いだった。


離すまいと古城の腕を掴んだその手は細く力の無いものだった。


「僕に出来る事でしたら」


彼は少し緊張した声で言った。


「……私は、生まれつき心臓が悪いうえに、事故の後遺症であらゆるところがダメになってしまいました。お医者様が教えてくれなくても、そう長く生きられないことは分かります。心残りは花音を一人残して逝かなくてはならない事です」


苦し気な息の下から祈るように訴える母親の言葉に、古城はただ頷くしかなかった。

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