第二一匹 旅団の愚者達Ⅲ(追放SIDE)

 その日の旅団では、不穏な空気が漂っていた。


「今日もまた肉がないじゃないか・・・」


「ああ、今日もスープとパンしかない」


「こんなんじゃ、力がでねぇよ」


その肉のない食事の献立に旅団の下級冒険者達は不満を漏らす。


前に旅団内で起きた食あたり事件以降、肉料理が出てくる回数は極端に減ってしまうこととなった。


安全を考えた末の判断であろうが、一部の旅団員達からは体の調子が悪い、いまいち力が発揮できないなどの不調を覚える者も出てきだしていた。


この肉不足は、彼らの知らぬうちに自身の強さの源である活力を枯渇させていくのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 この日の旅団は、大規模な人数を動員してダンジョンに潜っていた。


「両翼、動きが遅いぞ。前に出ろ。何してるんだ! 」


旅団長が吠えながら命令を出す。そう吠えれば、いつも通りすばやく両翼が前進すると考えていた。


「おおおおおお」


両翼が雄叫びを上げて突き進むが、明らかに中央の進行速度に追いついていない。


そして、陣形は左右が引いたままの状態で、前に出ていた中央が大型モンスターの接近を許してしまう。


「グワァァァッァァァァ」


モンスターが巨大な爪を振り下ろす。連携が乱れた軍勢は為す術なく攻撃を受ける。


「うわぁああああ」


「ぐはぁっ」


中央にいた幹部達が深手を次々におっていく。


前線の乱れからか、両翼の連携がうまくいかず、大型モンスターに隙を突かれ、旅団長は決断する。


「まずい、このままでは陣形が崩れてしまう。一度引くぞ、引けぇぇぇ、引けぇぇぇ!! 」



今までなら、この大人数でこの階層のモンスターに手こずるようなことはなかったはずだった。


しかし、旅団長も参加したこの軍勢で撤退したという事実は、それまで常勝軍団としてなんとかまとまっていた旅団に重大な亀裂を生むこととなった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 ダンジョンから戻った旅団員達は満身創痍で拠点に帰ってくる。


「俺たちが・・・あの程度のモンスターに負けた・・・」


旅団の幹部の一人がそう呟く。それをきっかけに他の旅団員達も同じように嘆く。


「前の俺たちならあんな奴らには遅れをとらなかったのに・・・」


「旅団長や幹部達の全員が参加した遠征だったのに・・・」


誰もが今回の遠征は成功するものだと高を括っていた。


だが、旅団の最高戦力を以てしても、以前のような成果を得られないようになっていた。


それに危機感を感じた旅団長は、後日、全団員を召集し決定事項を通達する。


「前回の遠征の敗因は、我々の練度が下がったものだと思われる。故に今後は習練をより厳しくしていく方針である」


習練の地獄と恐れられるほどの戦闘訓練を行っていた旅団員は、さらなる地獄の底が深くなっていくのに戦々恐々した。


「これ以上、習練を増やすのはあまり得策ではないのでは・・・」


「現状でも厳しいのにさらにきつくなるのか・・・」


「無茶だ、無茶苦茶すぎる・・・」


大多数の旅団員達はその方針に疑問と絶望を抱きながら、その強権的な決定に異を唱えれない。


そうして、その日から旅団員達の顔は痩せ細っていくのであった。

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