2 戦乙女の猛攻

 「おせーぞ!いつまで待たせるだよ!」

 「こっちも色々大変だったんだよ!にしても、戻って早々に戦乙女ヴァルキリーがいるってどういう状況だよ。ヴァイシュはどうした?」

 「戦乙女に撃ち落とされて下にいるぞ」


 組み合った状態から戦乙女が退き左手の平からエネルギー弾を乱射してくる。それを盾で防ぎながら目だけを動かして下を見ると白い機体が先生の結界の傍にいるのが見えた。


 「くそっ、空戦隊は?」

 「さっき来て今は向こうの方で戦っているぜ」


 エネルギー弾を体に受けながらも果敢に戦乙女に雷撃を放ちながらルカが言う。それを補足するようにオペレーターの少女が戦闘に復帰したショウに現状を簡単に報告する。


 ≪現在、超巨大種『方舟』への直接攻撃を準備中です。その先鋒として鳩子さんたちには前線に出てもらっています。また戦乙女出現とほぼ同時に『剣聖ムサシ』が出現、その対処にも回ってもらっています≫

 「機神が2体ってマジかよ。なぁ、騎士王ペンドラゴンは来たのか?」

 ≪騎士王は……いえ、こちらでは確認していません。援軍の到着まであと少しなので何とか持ちこたえてください!≫

 「了解!」


 オペレーターが何か言い淀んだのが気になったがいつまでもお喋りしながら戦えるほど目の前の相手は甘くはない。高速で移動を繰り返しショウとルカに大鎌から変形した大型マシンガンを放ってくるのを何とか凌ぎながら攻撃のチャンスを窺うが隙を見出すことは出来ないでいた。


 「ちょこまか動き回りやがって!」

 「どんな攻撃も当たらないと意味はないって思い知らされる相手だよな。盾の力が使えればまだ何とかなるかもしれないけど……!」


 ショウの盾の真価は嵌められた五つのオーブにある。高速で動ける上に力場を発生させ攻撃、防御を遠隔で行えるオーブがあって初めてショウは空中戦をこなすことが出来るのだ。

 しかしそのオーブはまだラーの姿をした龍見を守る為に動かすことは出来ない。純粋な空戦能力では戦乙女と雲泥の差があるためショウは守りに徹するしかない。

 ルカの方も飛行速度だけなら勝負が出来るが小回りが利く戦乙女に完全にいいように振り回されていた。

 戦乙女が周囲の喰らうモノを焼き払ってくれたのでヴァイシュを含め傷を癒した地上部隊からも攻撃が飛ぶが、その全てを戦乙女は軽々と避けていく。僅かにでも速度が鈍ればと思うが、その考えを嘲笑うかのように戦乙女は曲芸飛行の様な機動を見せつけながら先ほどよりも本数は減ったビームを放ち地上を爆撃する。空中でショウたちを相手にしつつ地上も相手にする。空中戦では相手の方が何枚も上手だと認めざるを得ない事にショウは唇を噛む。

 せめてヴァイシュが空中で援護してくれたらと思うが、絶え間ない攻撃にヴァイシュの自動修復機能も追いついていないようだった。

 ルカも長い体を振って戦乙女の軌道を邪魔しようとするがスルリと避けられ逆に通り抜け様に大鎌で切られ血が噴き出す。頑強な竜族がそう簡単にダウンすることはないが蓄積するダメージが増えてくればいずれは限界を迎えてしまう。

 そうこうしている間にも前線を抜け出た『ドラゴン』たちが再び迫ってくるのが見える。しかし、その動きを見ていたのはショウだけではなかった。

 『機神』と『喰らうモノ』は根は同じだが思考は違っている。喰らうモノはあくまで種全体の事を考え行動するのに対して機神は個、つまり自分の事しか考えていない。だから喰らうモノは機神を攻撃することは無いが機神は平気で喰らうモノを攻撃する。そうして喰らうモノ自身や喰らったモノを横取りすることがある。今回の戦乙女と剣聖の乱入も『支配の力』という極上の餌の匂いを嗅ぎつけたからに他ならない。つまり戦乙女としても『ドラゴン』たちよりも早く龍見を喰らう必要がある。

 邪魔が入る前に本来の目的を果たすために、今までのあそびいを切り上げて戦乙女がより速くより鋭く標的龍見に向けて一筋の光となって駆ける。


 「行かせるかよ!」


 相手の行動が変わった事に気づいたルカが雷球を飛ばしそこから蜘蛛の巣のように雷撃を放射するが、戦乙女はその網の僅かな隙間を抜けてルカの体を切りつけるのも面倒とばかりに何もせず突破する。


 「このっ!」


 ルカの攻撃である程度戦乙女の軌道を絞り込む事が出来たショウが浮遊する力も全て推力に変えて疾駆する戦乙女に渾身の突撃チャージを仕掛ける。

 だがショウの全身全霊の一撃も戦乙女の圧倒的な機動力の前には止まっているのに等しく一瞬で振り切られてしまった。

 ヴァイシュを始め地上からも戦乙女を攻撃するが、それを嘲笑うかのように慣性を無視した急上昇で攻撃を避け、そして大鎌を構え龍見を守る力場に目がけて急降下して一撃を加えた。

 それまでの攻撃を耐えてきたオーブが限界を示すかのように激しく明滅する。そのままでいれば力場は破壊され龍見が切り刻まれ『支配の力』が奪われてしまう。

 だが、あと少しという所で突然戦乙女が再び急上昇した。間髪入れずに先ほどまで戦乙女がいた場所を光弾が通過する。逃げる戦乙女に対して更に遠方から放たれた光弾が追いかけていく。そして遂にその内の1発が戦乙女の肩に当たり衝撃で戦乙女が宙を舞う木の葉のように回転し落下するが、すぐに態勢を立て直し大鎌を大型の二丁拳銃に変化させ戦場に近づく相手に向けて乱射する。


 「そんな攻撃で私を止められるとでも?」


 先ほど戦乙女が見せたような動きをし6枚の純白の翼を持つ少女が黒い光弾を最小限の動きで避け手にした翼と同じ純白の美しいライフル銃を連射して戦乙女に果敢に反撃してする。


 「戦乙女の相手は私に任せてショウ君たちは『ドラゴン』の迎撃を!」


 すれ違いざまにショウにそう言い勇者ギルド空戦部隊大隊長、風見真白かざみましろは戦乙女と異次元な機動力を発揮してドッグファイトにもつれ込んだ。

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