7 逆転の秘策
「ど、どうなっているんですか?」
『接触を恐れている?融合……いや、吸収したか。ふむ、危険じゃが娘と輝石に賭けるしかないか……』
「あの~、意味ありげな不穏ワードばら撒いていないで説明をお願いできますか?」
『詳しい説明はお前さんが現実に戻った時にしよう。今は行動じゃ。残された時間はそう多くないじゃろうからな。お前さんの役割は簡単だが重大じゃぞ』
「そんなの今更ですよ!で、何をすればいいんですか?」
『お前さんが抱えておる龍見ともう1人の龍見をぶつけるのじゃ』
「……はい?」
今まで守っていた人を盾に、いや投擲武器にしろと言われればイルマが絶句するのも無理はないだろう。
「先生、おかしくなっちゃいました?」
『それは昔からよく言われるが違うぞ。見捨てろと言っている訳ではない。要するに無理やり分離させられた精神を強引に1つに戻すのじゃよ。痛めつけられた精神を手っ取り早く回復させるのにはこれしかあるまい』
「理屈はなんとなく分かりますけど大丈夫なんですか?女王の方が強いから今の状況になっているんでしょ?」
今様子見している龍見モドキも女王の影響を受けているという。そんな存在に龍見をぶつければまた捕らわれることになるのではないかとイルマは案じたのだが、先生はそれを否定する。
『お前さんは、なぜショウが圧倒的不利を承知でココに来たと思っておるんじゃ』
「知りませんよ。聞いてませんし」
なぜか自分が無知みたいに言われむくれるイルマだが、確かにショウがどうやって女王の支配から龍見を救い出すのか具体的な事を今の今まで聞いていなかったのは我ながら間抜けだとは思う。
『女王と龍見。二者の力に差があるというのなら、その差を無くす。いや、覆してしまえばよい』
「覆すって、そんなのどうやって……」
言いかけて今までに見聞きした物が頭をよぎった。先生が教えてくれた勇者の力の源。そして自分が拾いショウが女王の体に押し付けた物。大いなる力を秘めた石。その名は――。
「輝石……!」
『そう言う事じゃ。後はこの娘の意志に賭けるしかないが、先ほどの接触を見れば勝算は十分にあるじゃろう』
「これが、私がここで出来る最後の仕事ですね」
『うむ。思いっきりやるのじゃぞ』
「女の子を武器にするなんてしたくはないですけどね」
慎重に距離をとり移動し続けている龍見モドキの動きを目で追いイルマはタイミングを計る。そうしている間にも瞼がどんどん重くなってくる。それでもあらん限りの力を振り絞り目を開きチャンスを待ち続けた。
龍見の体を片手で支えイルマはもう片方の手で現実と変わらずそこにあるペンダントに触れる。
(お父さん、どうか私に力を貸して……!)
龍見の体から手を離したイルマは知らず胸に光るペンダントに左手を当てる。それは本物ではなくイルマの記憶が生み出した物だ。けれどイルマは確かにはっきりとペンダントが発する力を感じ取ることが出来た。体に流れ込む力でイルマの感覚が覚醒する。
今までの経験で龍見モドキが向かってくるときには常に動き続けている翼が力を溜めるように一瞬動きを止めるのを見切っていた。
そして今まさに翼の動きが止まった。
「勝負!」
痺れを切らせたのか、あるいは片腕を失った焦りからか龍見モドキがイルマを狙って突っ込んでくる。
「遅い!」
イルマがそうであるように龍見モドキもまたダメージを負ったせいで先ほどよりも動きが僅かに遅くなっている。
ペンダントを通して力を得たイルマは龍見から手を離し逆にモドキへと接近、接触する寸前にモドキの頭を飛び越えるようにして背後を取ることに成功する。
「無抵抗の相手より向かってくる方がぶっ飛ばしやすいから。ゴメンね!」
龍見の一部であるモドキに(形だけは)謝りイルマが闘気に包まれた両手を目の前の背中に叩きつけた。
「ヴィルガルド流奥義、流牙絶掌(りゅうがぜっしょう)!」
闘気を込めたイルマ渾身の一撃は龍見モドキを狙い通りの場所へと吹き飛ばす。
龍見とモドキ、2人がぶつかった瞬間、眩い光が2人を包んだ。
「はぁ、はぁ、上手くいきました?」
『後はあの娘次第じゃな。よくやってくれたぞ、イルマ』
「それほどでも。でも流石にもう限界ですよ……」
『うむ、もう休んで良いぞ。後はショウたちに任せればよい』
「なら、お言葉に甘えますね~」
イルマが力を抜くと体が薄れていき消えてしまった。
『後はあの娘次第じゃが、まぁなんとかなるじゃろ。のう、《見守りし者》よ』
そう言い残し、先生の姿も掻き消えた。
そして残された2人の龍見を包んでいた光が周囲の記憶をブラックホールのように吸い込んでき、そして――。
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