26話 おまえもかぃぃぃぃ 改訂版

「はぁ、最悪……。」


ちょうど太陽が真上から嘲笑うかのように輝く頃の人の姿がまるでいない電車の中にただ一人。 

俺は誰もいないことをいい事に思いっきり溜息を吐く。

最悪だ。

本当に最悪な日だ。

地方の大学から就職してようやくそれなりな都会の会社に入ったかと思えば、こんな田舎の田舎のような老者原なんて所に向かう羽目になるなんて…。

むろん、俺の街に比べたら随分と整備が整ってはいるが…。

しかも、よりによって無能な先輩がそんな場所に住んでて、そこに会社の重要書類を置き忘れるなんて…。

その本人はプレゼンテーションで出世してる最中…っと。

全くもって、腹立たしい。


「それにしても、何もなさすぎて故郷思い出すな。畑と山ばっかであとはジジイとババだけ…。なんだか、帰りたくなってきた…。」 


湧き出るように口から言葉が出てくる。おかしいな。独り言が多い性格ではないと思っていたが…。 


「あぁ、都会に行けば童貞が捨てられると思ったのに会社じゃ変な役回りを任せられるし、そのせいで休みも遊びに行けないし、もう会社辞めようかな…。実家に帰れば、農家手伝うだけで良いし…。でもなぁ、可愛い子が居ないんだよな。……ん?」 


突然、誰かの視線を感じるあたりを見渡すと、いつの間中に女子高校生が一人車両の端っこに座り込んでスマホを覗き込んでいた。

まずっ!?

慌てて、もう、時すでに遅いと言うのに口を両手でふさぐ。チラリと再び彼女を見る。

だが、スマホに夢中であるため俺の話は聞こえていないように思える。

まじまじと見ると高校生の割には随分と大人びたような雰囲気を醸し出していて、口元のホクロが魅惑的だ。それに制服越しからでもわかる胸の大きさ…けしからんな。田舎は田舎でも都会の近くの田舎はレベルが高いのだろうか。

しかし、この時間はまだ学校があっているのではないか?不良娘に違いない。

怖いし、俺もスマホゲームで時間でも潰そう。その内、着くだろう。

ポケットからスマホを取り出して、ゲームにログインしようとすると視界の端で何か彼女が動きがあった。どうしたのだろうと、横目で見てみると短いスカートの端をあげ、股を開けて真っ白な下着を覗かせていた。

(なっ!?)

慌てて、目をスマホに移す。

何をしてるんだあの娘は!?

暑いからって、そんなことするの……いや、今日はそこまで暑く無いはずだ。

もしかして、誘っているのか?

再び、目を向けると少女と目があった。向こうも目があった事に気づいたのか、ニヤリと俺を小馬鹿にしたように微笑み、上着の2番目のボタンを外してたわわな胸を見せてきた。

ヘヘヘッ。

我ながら、なかなかに気色の悪い笑みが浮かぶ。

相手は高校生だ。金を払えば黙ってくれるはずだ。しかも、俺と彼女しかいないみたいだし。運転手は三両先…。

聞こえんだろ。

いや、そうだな。

これは指導だ。

こんな時間に学校も行かず遊ぼうとする悪い子への指導だ…。

腰を上げて、ゆっくりと彼女の元へ歩いていく。あと、数歩のところで少女は立ち上がって向こう側の車両へとつながる連結のところへと行った。運転する方向とは真逆の。

そこで、振り返ると手を振ってこっちこっちと誘う。

まるで、フリスビーを投げた後の犬のように俺は彼女を追っていく。

ちょうど連結の上に足がついたところで電車が止まった。

まさか、もうついたのか…。

突然の静止で思わず前のめりになってこける。


「いてて。」


あたりを見ていると彼女の姿がどこにもいない。 


「そんな……。」


絶望した程に俺は肩を下ろすがすぐに空いたドアから真っ白な下着姿で現れた。そして、ゆっくりとあの少女がこちらを覗き込むように微笑んで僕を見下ろす。

ぞくりと身体が震えた。興奮で鼻息が荒くなる上司からの話を思い出した。

老者原は無人駅だからICで向かうなよ。あそこは誰も来ない辺鄙な場所だから…。

だったら、問題ないよな。ここでヤッても…。


「まってくれよ……」


ドアから飛び出したその先には彼女が大きく……それは、人一人飲み込めるほど大きく広げた口が俺を丸ごと喰おうとしていた。


「うわぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁ!?!!??」


ヤイバのような鋭さの歯が俺の頭を貫通すると思った途端横腹に衝撃が走った。

みしりとどこかの骨にヒビが入るのがわかった。

視界には蒼い……蒼い輝きが目に入った。







アビゲイルによって、転移された彼女はいつも通り蒼を基調とした姿へと変身し、人型のシャドウに殺されかけた男を蹴り殺した。

その後、私はすぐさま距離をとって相対した。このシャドウが男を殺すのに時間をかけていたからなんとか殺し切れた。

………違った。

助けた。そう、助けたのだ。

でも、あまりにも気色が悪くて、彼女は思いっきり蹴ってしまったのだ。………まぁ人間、肋骨の数本じゃ死にはしないだろう。

多分…きっと……恐らく……………絶対。

チラッと少女は男の様子を覗く。完全にノックアウトして痙攣している。

うん、生きてる。

血を吐いていないから、肺に肋骨は刺さっていない。


「ゴフッ」


(あ、歯が3本くらい飛んでた……。………きっと、乳歯だ。)

「ソラちゃんんんんんん!?何民間人を殺してるの!?」


頭に響くような声が彼女の鼓膜を叩きつける。遅れて、やった来た光の御子が変身した姿でやってきた。慌てた様子で蹴った男の元へ行くと治癒魔術をしっかりと施している。

男を蹴り飛ばした光の御子の正体は、紛れもなく椎名天だった。そして、治癒魔法を行なっているのは彼女の親友である友禅真莉だ。


「こっ、殺して無いわよ!いい、真莉聞いて!!ただ、ギリギリ間に合いそうに無いからスライディングでなんとか助けたのよ!ほら、盗塁王の背番号23の如く!」


あわあわと手をあちらこちらにやって、現状の理由を説明するも彼女の顔ははてなが浮かんでいるようだった。やはり、ユーモアというのはお互いが分かるように言わねばならぬ。


「え?だれ?背番号言われても分かんないよ…。」

「……もう、いい。」


そういえば、野球の話は彼女にしても無駄であることを思い出すと直ぐに現場を一巡する。


「それにしても、今日は随分と荒いねー。神室くんとの昼食は一緒に食べれたんじゃ無いの?もしかして、招集その前だった?」


なんだか、煽るようにツンツンと頬を突かれた。むっとするが、今は喧嘩している場合では無い。


「一緒に食べたし、それに、次のお誘いも受けた。」

「おぉ、やるぅ〜」

「でも、その後のデザートがなかった。」

「あらー。そうだね〜。ソラは甘いものを食べて喜ぶ神室くんが好きだもんね〜。」

「…………いいから、お仕事終わらせるわよ。」


顔を真莉に見られないようにしながら椎名は身長より少し短いくらいの杖を召喚すると魔力を充填させる。その耳は真っ赤だ。真莉にはその耳が見えているだろう。


「それにしても、久々だね。ここ最近は湊くんの経験だかなんだかだったし。」

「そうね。あのバカは、口だけの男だからそれくらいが一番彼のためよ。もしかして、感覚が空きすぎて体が鈍った?」

「はっはっは!まっさかー。」


友禅は六法辞典よろしくな程厚い本を取り出すとウインク一つで魔法陣を一気に五つ展開した。


「いくわよ。」

「うん♪」


目の前に対するのは、頭が異様にでかい女子高生のようなシャドウだ。






老者原駅から少し離れた電柱の上で神室は両膝と手をつけてがっかりとしていた。


「お前もかィィィィィィッ!!!いや、明らかにタイミングおかしいなと思ったよ。でもね、2回連続はないでしょ?なんなんだ。あいつら二人!?仲良しか!!」


目の前に映るのは、幼馴染である椎名とその親友である友禅が光に包まれて変身していく様子であった。やはり、リーファと佐倉、深田のような痴女のような服装だ。椎名の姿は羽の髪飾りをして青を基調とした姿。対して、友禅は紫を基調とした姿だった。

そして、シャドウに襲われかけていた男がなぜか椎名のドロップキックで吹き飛んだ。

そう、吹き飛ばしたのだ。助けるのではなく、確実にトドメ刺している。

あまりの出来事に、思考が停止した。


「うるさい、静かにしなさい。」


そんな中なぜか、宝石の中から飛び出したレヴィは何を思ったのか膝をつく神室の背中に腰を下ろして足を組んだ。

彼女の長い銀髪が風によって鼻のあたりをくすぐる。いい匂いがして、変な感覚に陥ったがわずわらしく顔を背けてレヴィに不満を口にする。


「あの、レヴィさん?重いんですけど…」

「私のために椅子になってくれたのではなくて?……あと、私は重くないわ。訂正しなさい。」


彼女は煽るように手を口元に当てる。随分と楽しそうだ。最後の一言にはドスが効いていたが。


「んなわけねえだろ。さっさと降りろ。……あと、重いは訂正しておきます。」

「よろしい。…まさか、あの子が光の御子だったなんて……しかも、あの動き。あなたの男の方の幼馴染よりも完全に格上ね。ずっと前から、光の御子だったって感じ。魔力の使い方が上手いわ。」


謝りのひとつもないが背中からは降りるレヴィは椎名たちをじっくりと眺めていた。

確かに、レヴィが強い反応があったと言ったがあのシャドウが強いかどうかはここからでは判断しかねる。しかし、彼女らの方が押しているようにも感じる。

表情からいってまるでウォーミングアップしているかのようだ。

本気でやり合っているようには思えない。


「ずっと前……だが、あいつはまだ高校生だそ?」

「私が光の御子のリーダーなら歳は関係ないわ。必要なのは才能よ。」


納得はするが、知らない間に彼女はあの化け物たちと戦っていたのか…。そして、自分たちの世界を守っていたと…。


「…………レヴィ。俺は何をすればいい?」


ゆっくりと立ち上がって、彼女の隣に立ち、指示を求めた。

戦闘の中にいる椎名を眺める。彼女も彼女で湊のように世界の救済とかを口にしているのだろうか。


「乱入。そして、シャドウの討伐……とそのカケラを手に入れなさい。」


レヴィが腕組みをして神室に目を合わせる。


「御意に…。」


例の姿へと変貌すると俺はすぐさまその場から転移した。





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