学園ハーレムのモブ役は必死で主人公達を支える

25話 独白と一歩前進 改訂版

「君さ、目立ちたい気持ちは分かるけど、あの二人の間にいっつもいるの正直気持ち悪いよ。」

浴びせられるのは罵詈雑言……そして目の前にはそれらを目一杯書き込まれた俺の机。

当時、中学生の一年の頃だった。

この頃ころからだったか…。湊と椎名と一緒にいることが辛くなって来たのは…。

自覚し始めたのは、入学式が終わって直ぐだ。はじめてのクラス分けで俺と湊と椎名は同じクラスになることができてこれから三人で中学という舞台で青春を謳歌するそう思っていた。

しかし、俺はその日の登校から二人と話せなかった。クラスメイトと打ち解けるためのオリエンテーションで二人はみんなからの注目の的でみんな彼らの元へと集まった。

それもそうだ。二人の容姿は学内でも群を抜いていた。誰だって、お近づきになりたいはずだ。

そして、俺は地味。

だが寧ろ、嬉しかった。

俺の幼馴染は凄い奴だと誇りに思っていた。それに、二人の前で起こる出来事はまるで、それこそ青春漫画の主人公みたいで見ていて華やかだった。

入学式が終わると椎名と湊は俺のところへやってきて、小学生の頃と同じく一緒に家路へと歩く。

少しの距離は出来てしまったけど、僕らは幼馴染で親友だ。

この関係は絶対に崩れることはない。

どこからもない安心感を俺は持っていた。

入学式以降はまた、いつもの三人組で学校探索を行ったり、クラスマッチをして湊がクラスを勝利へと導き一年生MVPを取ったり、初めての中間試験などの勉強会をして最終的に椎名が学年一位を取ったりと最高の生活を送っていた。

でも、それは結局のところ自分の首を絞めるようなものだった。

中間試験が終わって初めての学園祭が始まろうとしていた頃、俺はクラスメイトから嫌われた。

理由は単純明快あの二人といたからだ。

俺が二人と一緒にいるのはクラスで目立ちたいからだろ？

私たちの湊海と椎名天を利用して人気者になろうとするのをやめろと言われた時は訳がわからなかった。

別に目立ちたくて、二人と……湊と椎名の隣にに居たわけじゃない。幼馴染からずっと一緒に笑って、遊んで、泣いた。

そんな彼らと一緒にいるのがとても楽しかった。

だから、一緒にいた。

それだけだったのに……。

でも、周りはそれをよしとしなかった。

まぁ、それもそうか。

片や、運動神経抜群のイケメン。しかも性格もピカイチ。嫌う奴がいるはずがない。

片や、頭脳明細の美少女。性格はきつく、他人への当たりは強いが時折みせる優しいものに多くの人が魅了されていった。

そんな目立つ二人とともに俺は、何の取り柄もない俺は並んでいた。

だから、俺は彼らと並んでも遜色ない相応な人物とならなくちゃいけなかった。

遊ぶ時間を減らして、寝る時間だって減らしていって切り詰めて勉学に励んだ。

結果は椎名に敵わず2位。

それと同じく切り詰めて、野球の練習に取り組んだ。

投げて投げて投げ込んだ。

それでも、エースの座を湊が明け渡すことはなかった。

俺には才能が無かった。

いつも比べられた。

神室は湊さんみたいな速い球が投げられたらいいピッチャーになれるよ。

神室は椎名さんみたいにこの問題が解けたら百点なのにね。

湊だったら…椎名だったら…………。

耳にタコができるほど言われた。

どこまで頑張っても、どれだけ犠牲にしても俺は常に彼らの下。

その、無様な姿を見て誰かが俺は二人に付き纏う気色の悪い寄生虫だとも言われた。

……そうだとも寄生虫だとも。足掻いて足掻いて、汚くても卑怯でも彼らの隣にいたい。並んでいたい。

そんな愚かな俺の妄想はすぐに消え去った。

流石に走りすぎた。

もう、走る体力は使い果たした。

あいつらに並ぶには無理だったんだ。俺が彼らといるのは相応しくない。

神室陸という人間は二人と一緒に居ては迷惑である。

だから決めた目立たないことを決めた。

所謂、モブとなれば、こんな思いをせずに済む。

正直なところ俺は二人から逃げたかった。

そんな時でも、二人は俺に優しくした。いや、俺が嫌われていることなんて知る良さもないだろう。何せ、二人のことだ俺がいじめられていると分かればすぐに助けてくれる。

そんな奴だ。

だけど、二人はここで絶対的な地位を確立していてこれからも持って生まれた才能と運で楽しい青春を謳歌するだろう。

もし、あの二人が俺を庇ったらそれが泡となり弾けてしまうかもしれない。それだけは嫌だった。二人の重荷にはなりたくなかった。

だから、俺は彼らに嫌われようとした。

だから、俺はあの二人を恨んだ。

◇

四時限目を終えるチャイムが響く。

先生は未だに授業内容の説明を行っているが他の生徒はお構いなく筆箱に筆記用具を片付け始め、雑談の声が大きくなって行く。その様子に先生も諦めたのか、では、次の授業で…といって教室を後にして行った。

さて、どうするかねと横に振り向くと、しっかりと強行されていた先生の授業を聞いてノートに書き留める椎名の姿があった。

相変わらず、真面目だ。

先に食堂に行くか…。

重い腰を上げて、椎名に先に行くことを告げるようとすると彼女から裾を掴まれた。

「あと、少しで終わるからちょっと待ってて。」

視線はノートに釘付けだったが、絶対に逃さないという声色に押され、素直に席に座り直す。それにしても、窓側が静かだなっと湊たちの座る方を見るといつのまにか四人ともどこかへ行っていた。

「あれ？湊達はもう、どっか行ったの？」

前の席の田中に尋ねる。既に弁当は半分ほど減っていた。よく見ると教科書にご飯粒が見受けられた。

貴様、授業中食ってたな。

「ん？本当だ気付かなかった。でも、食堂はないと思うよ。湊はいつも弁当だもん。」

「そうか…。」

田中は再び食べる作業に移った。

(レヴィ？)

今日は随分と静かな銀髪の少女の名を口にする。

『学校にはもう、いないわ。』

その言葉で光の御子としての役割を果たしているのだろうと把握した。

『俺も行ったほうがいいか？』

『いいえ、流石に連続で湊海とリーファという光の御子に接触するのは良くないわ。……心配になる気持ちも分かるけどこれは命令よ。』

『分かった。』

「よし、出来た。……ごめん、待たせて…。」

レヴィとの会話が終わる頃に椎名が片付けを初めていた。

「おう。じゃあ、行くか。」

「うん。」

お互いぎこちなく席を立たった。

◇

「………」

「………」

食堂の中はちょうどピークが終えて多くの生徒が席につきそれぞれが購入した定食を口に運んでいた頃合いだったから随分と早い流れで昼飯の確保に成功し、ちょうど二人分だけ空いた席に腰掛けていた。

ちょくちょく、見られる視線が神室を刺す。

………久々の感覚だ。

(見んなよ。見るなら、椎名だけにしろ…。)

変に汗が背に滲み出るのを感じる。

「ごめんなさい。食堂のメニューほとんど残ってなかった…。」

俺の心情が顔にでも出ていたのか、椎名が申し訳なさそうに顔を逸らした。無論、見当違いな解釈であったが…。

この学校の食堂は人気メニューであるC定食なるものがある。いつも、買うのが遅れると売り切れとなってしまうのだ。無論、神室の大好きなチキン南蛮もダメだった。残っていたのは健康に良さそうなほど野菜がいっぱい入った辛さ十分な回鍋肉定食だけ…だが、まぁ、たまにはいいだろう。

椎名の膳を覗くと俺と同じく回鍋肉。

「気にしなくていいよ。腹に入れば何でもいい。それよりも、何でまた…俺を？」

「いろいろ、聞きたいことがあって…。」

聞きたいこと？別段今日は変なことはなかったはずだと思っていた神室は首を傾げた。

「今日さ、コンビニで誰かに何か貰ってたけどあれ…誰なの？」

(あー、見られてたのね。そりゃまぁ、篠柿女学園の人間と話してたらそりゃ目立つよな。待てよ、てことは噂が広がってるのか…。)

変な憶測が広まっていないか、不安であるが仕方がない。

「あー、それね。西園寺の妹にな。兄が弁当を忘れたみたいで渡してくれって頼まれたんだよ。あいつ、スマホ持ってくるの忘れてたみたいで。」

「ふーん。西園寺の忘れ物……ね。」

「なんか不満でも？」

見るからに前回のことのことを思い返しているのだろうか。

「ううん。寧ろ、安心した。」

ボソボソと神室には聞こえないほどの声で椎名は何か呟いた。周りの声が騒がしくて全くというほど彼に聞き取れない。

「なんか言ったか？」

「なにも。」

突然、眉に皺を寄せていた顔が元の表情へと変わっていった。

「なんなんだ…」

リーファのことと言い神室は女性の行動が理解できそうにはないだろう。もやもやな気持ちだけが残りつつ匙を動かしていると興味は他の方へ変わった。

突然、食堂の端の方で感嘆の声が響いたからだ。

不思議がってミーヤキャットよろしく首を伸ばして見てみると多くの生徒達が一人の男に視線が集まっていた。

「さぁさぁ、みたまえ。これが西園寺家の弁当の中身だとも！！」

あぁ、聞いたことある声だ。

西園寺があのでかい弁当を開けて、他の生徒がそれを物欲しそうな目で見つめていた。その姿はまるで大きな生物に群れておこぼれをもらう寄生虫のようだった。

(あいつらもそんな風に捉えたのかもしれないな…。)

だとしたらば、確かに嫌われるのも頷けるなと一人納得する。

「……なんだか楽しそうね。」

鼻で笑う俺をよそに椎名はクスッとはにかんだ。その姿に神室は目を丸くしていた。

思わず何故とでも言いたげな表情が出てしまった。

「そう……か？」

「だって、そうじゃない。みんな笑顔だし？」

「笑顔…まぁ、笑顔だけど…。俺から見たら、人気者に群がる奴ら…としか思えんな。」

「リクは捻くれてるね。…でも、そんなこと思うのは羨ましいからよ。」

「羨ましい……？」

椎名の言葉に首を傾げる。

神室は自分自身がそんな感情は一切持ち合わせていないと思っていた。嫉妬とよりも、鮮明に感じるのは憐れみだ。

「だって、気になってるんでしょ？何かしらの嫌味をいうということは。」

「………そう言うことはなるのか？」

「彼らが楽しそうにしていれば、それでいい。外野はとやかく言う必要はないんだよ？高校生は短いんだから。」

と、椎名は回鍋肉を小さな口へと運んでいく。その時に、周りに聞こえるか聞こえないくらいの大きさで一言、口にした。

「誰かの目なんて関係ない。自分がしたいことをすれば良い。」

この一瞬、神室は自らへと向けられる目線が薄れたような気がした。

それと同時に、うちから熱い感情が溢れ出そうになって荒々しく回鍋肉を口の中に放り込んだ。

湊は変わってしまって、世界を救うヒーローみたいなことをしていたが椎名はなんだかんだいつもずっと変わらず、いてくれているように思える。

そして、無意識とはいえ何処か神室が欲っしていた言葉を口にしてくれた。

「辛ぇな………。その、椎名。」

「うん？」

「………」

ここで、一歩先に行かなかったらもう二度とこう言うことはないかもしれない。

「よかったら、また…お昼、食べに行こう。」

「……うんっ。」

その声色から、嬉しそうな笑みを浮かべているのだろう。お互いに顔を見合わせはしないもののスプーンの動く手がちょっぴり早くなっていった。

いきなりは、元のような仲には戻ることはできないだろう。でも、少しずつ…少しずつなら椎名とも湊とも話せるようになれたら…。

そして、あの頃のように……。

「ごめん、リク！ちょっと、用事ができた。先に帰ってて良いよ！」

突然、椎名は立ち上がると定食の皿を直しにいった。彼女の皿は綺麗さっぱり無くなっていた。まだ5分しか経ってない…食うの早すぎないだろうか。

「……………」

取り残された神室は豆鉄砲を喰らった鳩のように呆然としていると脳内に彼女の声が響き渡る。

『下僕……恐らく出番よ。』

神室はこれ以上ないほど嫌な予感がした。

この流れ、めちゃくちゃ嫌な予感がプンプンした。

『いま、この街から離れた場所にシャドウの気配が出現したわ。』

「………湊には接触するのは危険じゃなかったのか？」

『早めに、退治する必要があるわ。あれだけの大きさだとカケラがでかいに決まってる。』

興奮しているのか、一切言葉が耳に入っていないようだった。

どうしたもんか…。

「場所は？」

「ここから、北へ向かったところね。確か……老者原という無人駅よ。」