第22話 妹さんと… 改訂版
神室の落ちた先は、金属板に覆われた床だった。
思ったよりも、深い深い地下であった。体感的に十メートルはあった気がする。
「よく生きてんな俺。」
これも、身体能力が上がったおかげか、果てまて自らの身体能力の賜物か足から着地したのに反動があまり感じられなかった。ゆっくりと立ち上がって状態を確かめる。地味に腰付近に痛みがあるがそこまで深刻ではない。打撲程度だった。
「おぉい、リクぅぅ!」
高い天井から西園寺の声が響き渡る。嫌に響く声色だ。
耳が痛い。
「生きてるゾォ!!」
「よかったぁ!!階段見つけたからそこから降りるそれまで待っていてなぁ!!」
「階段あるんかいぃぃ。」
だったら、わざわざ床ぶっ壊す必要なかったよなぁと不満たらたらでため息を吐く。そして、今度あの顔を拝んだら、ぶっ潰すという気持ちに溢れる。……だが、一度冷静になるとボディガードが硬そうからやめておいた方がいいだろう。特戦群とやりあうなんて、無謀にも程がある。
「まぁ、待っとけ言われても…。」
ふと、あたりを見渡すと黒いモヤが視界の中でウロウロと彷徨って…否、神室を見据えて隙を窺っているようだった。
「あれは…シャドウ?」
虚空に神室は問う。
そして、虚空が返す。
『シャドウというより、ここを拠点にしていた者の防犯システムのようなもの。でも、対処は変わらないわ。』
突然、シャドウが消えたからもういないと決めつけていたがそうでもなかったようだ。
『彼らがここに降りてくるのに3分はかかるわ。あと、奴らの奥に人の生命反応がある。』
「………変身。」
レヴィから情報を渡されると神室は低くつぶやいた。
纏うは漆黒の黒衣。
「こい、ヒヒイロカネ。」
ペンダントより、銀色の液体が飛び出すとそのまま刀の形へと形状変化した。
「クッキングたぁーいむ。」
底のない暗闇のような黒い塊が神室目掛けて弾けるように飛んだ。
強引に跳び、それをかわす。直後、さっきまで足をつけていた金属の床が黒い塊によって捲れるように抉っていた。遅れて、爆音が耳に響く。
「うわっ、怖。…おりゃ!!」
悠然と体を捻り、黒い塊の背後をとると刀の強烈な斬撃で振り払う。
真っ二つに裂かれた黒い塊はいつものように霧状へと変わった。そして、彼らからもカケラが見受けられない。
恐らく、使役されてるシャドウはかけらを持たないのかもしれないのだろう。
西園寺からもらったシャドウ用拳銃を左手に持ち蠢く影に何条もの弾丸を放つ。すると、全ての黒い塊は同じく霧状に消え去る。…と何かの内臓のような鮮やかなピンク色の壁が見えた。
その壁にめり込むように2人の少女の姿が目には入る。
篠柿学園の制服だ。
それを見て、神室は皇の話を思い出した。
(やはり、何人かここに誘拐されていたんだな。にしても、これはまた、なかなかコアだな…。)
壁付近に足を運ぶ。
1人は、短髪で何度か刃物で切られたのか痛々しい擦り傷だらけの顔だ。随分と衰弱している。
片方は見た目こそ損傷は激しくないが、服装が破れて所々露わとなっていた。
(白か…。いや、いかんいかん。)
頭を振って、視界に入ったものを消去しようと試みるが嫌に残った。
変身を解いて、2人の元に駆け寄ると口元に手を近づけると息がある。神室は、良かったと肩を下ろすと彼女らと壁の接合部分を確認した。
そして、上着を脱いで服が裂けている女子生徒に見えてはいけないところを隠すように着させる。
その時に思いっきり見えたがこれは合法、これは合法と自らを言い聞かせた。無論、合法なわけではない。
ヒヒイロカネで壁を切れることを確認すると彼女らの体にヒヒイロカネで傷をつけないように抉り出した。
◇
何か、浮き上がった感覚を覚える。
むせかえるような匂いが鼻をきつく刺激した。なんだろう、小学歳の頃雨の日に鉄棒を齧った時のような……いや!そんなはしたないことした覚えはありませんわ!!
飛び上がるように私は目を覚ました。
確か、あの変態が私たちを置き去りにして…どうなったの!?
「うぉ!!いきなり目覚めたのか。」
目を覚ました目の前には知らない男の人の顔がいた。
ん、目の前?
ゆっくりと状況確認する。
左を見る。男の人の胸があった随分と硬い。鍛えているのでしょうか…それとも大体男の人はこんな…。
右を見る。確かに、私を貼り付けていたあの壁だ。いつの間にかに抜け出していたのか。
前を見る足の膝が見えた。あれ、なんでわたくしは男性の制服を着せられているの?
そういえば、空いている感覚があるんだった。下を見ると確かに浮いていた。男の人の腕の上で……。
つまりは、お姫様抱っこというものでした……。
「な、ななななな、なにをしていますの!?」
身体中が熱く穴という穴から汗が一気に飛び出した。
「いや、壁から君を抉り出そうとしてたんだけど。」
「え、あ、その……すみません。は、恥ずかしいから、下ろしてくださいませんか?」
「すまん…立てるか?」
「大丈夫です。その、さっきはすみません。取り乱しました。ところであのへん…随分と尖った服装の女性の人を見ませんでした?」
「いや、気にしないでくれ……。違った服装の女性……恐らく撃退したんだと思う。」
「したんだと思う…?」
困惑するわたくしをよそに優しく、男の人は私を下ろしました。その時に、私はあの変態に服を切り裂かれていたことを思い出す。そういえば、体がスウスウする……まさか、この制服の下は!?
「あ、あの…」
「どうかしたか?なんか、痛いところでも…。」
「わたしくの記憶の限りでは…訳の分からない女性に服を切り裂かれて…その色々露わになっていたと思うの「みてない!!!」ひょえ!?」
肩を掴まれて引っ張られ、随分と食いつくような否定。真っ黒な目が私の目から離さないで一点に見てきた。初めての男の人との近距離に頭が真っ白になりかけるが必死に堪える。
確実に黒ですわ!
……カマをかけてみましょう。
「……わたくしの今日は水色でしたが本当に見てないのですか?」
「え、白じゃなか………」
沈黙。
あぶ汗が彼から湧き出るように垂れているのが見てとれた。
「あの……?」
「だ、誰にも言わないでくださいね。」
「わかりました。」
途中で恥ずかしくなって顔を真っ赤にして彼に忠告する。本来ならば、平手打ちをかましたいところですが助けてもらった恩人にそんなことはできません。
「そういえば、あの子は君の連れ?」
「あの子?……西野さん!?」
彼が視線で指す先には西野さんの姿があった。恐らく、ここにあったのだろう粗末な布団の上でぐったりと横になっていた。
「安心しろ。生きてる。」
「そう、ですか……よかった。」
彼女の腕を取ってその小さな手をぎゅっと握る。
「おぉーい!リクぅぅ!!!」
あれ、この声聞いたことがある。よく、家で聞こえるうざったらしい声だ。
その声の方向へ視線を向けると随分と雰囲気の変わった兄様の姿があった。
「兄様!!」
「え?」
わたくしを救ってくださった方は驚いたように目を見開いた。
◇
「え?兄様?」
壁から救った少女を西園寺が見るとそんなことを言った。
「な、なんで椿がこんなところに!?…てか、なんか久々って感じがする。」
「久々も何ももう……あの!今何日ですか!?」
「え?えーと5月8日…。」
「もう、3日経ってますの!?」
「椿よ。いったいなんの話をしてるんだ!?」
話が噛み合わない2人に特戦群の人たちも困惑していた。
「しんじられません!!私が三日間行方不明になってたっていうのにただのうのうとしていたのですか!?」
「そ、そんなこと言ったって…あれ?なんで記憶が曖昧なんだ?」
兄妹なのに記憶が曖昧。
それに首を傾げているとレヴィの呆れた声が聞こえてきた。
『あなたの知り合いの記憶が消されてた事、忘れたの?』
そういえば、そうであったとポンと掌に拳を乗せる。
佐倉と深田の記憶をみんな忘れていたことを思い出す。ということはもう、クラスの皆は二人のことを思い出したことだろう。
『ここの主はすでに撤退したみたいだからもうその効能はないわ。』
それ故に空白期間に記憶の齟齬が出来ているのだ。
「それは身内で終わらせる話だから後ででいいだろ?それよりも、他の人の救出が先だ。」
顔面の傷が特徴的な男が呆れたような声を上げる。顔色からさっさと仕事を済ませたいという雰囲気が出ていた。
「そうだな。リク、彼女らの他には?」
「恐らく、あそこだ。」
神室はピンクの壁を伝った先にある部屋の扉を指した。無論、レヴィに教えてもらったに過ぎない。が、先に散策をしていたと言えば怪しまれはしないだろう。
◇
「ぁぁあ…」
ベットに倒れ込み、深いため息を吐く。あの後、奥の部屋で鎖に繋がれていた被害者を回収してあとは西園寺たちに任せてそのまま神室は国の交通機関で帰宅した。彼的には、てっきり西園寺が自分を連れてきたように車で来てくれると思っていたので不満がある。
しかし、交通費が全て国が持つので別に金銭的損はないのでなんとも言えない。
それにしても、ここ2日間は怒涛の連続であったと振り返る。
物語展開的にここまで起承転々ってどういうことであろうか。
結が存在しない。
どこ行った結、帰ってこい。
「それにしても、湊に見られたけどこれからどうするの?」
レヴィは俺の学習机に座ってルービックキューブと睨めっこしていた。時々、唸るところから苦手なのかもしれない。
「そうね、せっかく政府の人間とのコネクトが取れたのだからしばらくは彼の手伝いをしながらシャドウのカケラ集めをしましょう。」
諦めたのかルービックキューブを元に戻す。絶妙に色が揃っていない。
「了解。」
「まぁ、今日はベットでゆっくり寝なさい。」
「…おう」
妙にレヴィが優しい。変な気分だ。
こんこんとまるで幼児を眠らせるように背中を優しく叩かれる。恥ずかしさが押し寄せてきたがそれを抑えるほどの眠気がどっと襲ってきた。
「あぁ、ようやく眠れ…「シャッタぁぁ!!チャンスぅぅ!!!!」なかったわ。」
ガンガンに目が覚めてしまった。
突然の大声に覚醒して扉を見ると女性がビデオを撮っていた。
神室の母であった。
「……あの、何を?」
「いやぁ、地味で存在感薄くて時折赤外線のドアが開かない我が息子が銀髪超美少女と同じベットにいるシチュエーションなんて何回輪廻転生繰り返しても拝むことはないと思っていたからこれに焼き付けようかと。あ、あと、構図の資料資料。」
随分と早口で途中から何か言ってるか聞き取れない。相変わらず、母が興奮した時はエンジン全開だ。母は漫画家でいつも仕事場で漫画を描いているから帰りが遅い。
「帰ってたの?」
「いやーね、
なんか、変なルビがある。神室はアシスタントさんと編集者の人が今日殴り込みに来そうとこれからの展望が見えて疲れに疲れが乗り掛かる。
「それにしても、リク〜あんた女の子の見る目ないかと思ったけど結構あるのね〜」
「うげっ!?」
わざわざ神室の背中に座り込んで頬を人差し指でぐりぐりと押し込んできた。神室は額に青筋が浮かぶ。
(あー、うざい。)
「レヴィちゃん。」
「は、はい。」
突然、レヴィに振ると真面目な顔で彼女を見つめた。昨日から気になってはいたが妙にレヴィは母に横暴な態度は見せない。自分にもそれくらい素直になってくれたら可愛いんだけどなと背中に手を当てて痛むところをさする。
「素直じゃない変な子だけど、これからもかまってあげてね〜。」
「変な子は余計だろ?」
神室が突っ込むと母はさっとレヴィの耳元で聞き取れないほどの小さな声で何かを囁く。レヴィはぶるっと震えると神室の方を見た。初めて見る顔だった。いつも、何か達観したような表情なのにその瞬間だけ人間っぽい恥ずかしそうな顔をした。
「それじゃ!私は一旦戦場へ帰るとする!」
しゅっと風のように去っていく外から「ゴラァァァてめぇ締め切り迫ってるってんだろぉぉ!!」という神室にとっては聞き馴染みのある彼女の編集者が怒鳴り声を披露。
また、近所迷惑している。
「私は先に寝るわ。ベットから降りなさいそこは私のところよ。」
「………さっき、今日はベットでいいって」
「……前言撤回。」
「はい……」
何言ったんだ母よ…と神室は母を恨むのであった。
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