第14話 始まり 改訂版

光の御子に選ばれる時はどうやって選ばれるのか…。

大きくふたつに分類される。

一つは、アビゲイル様の天啓である。

これは、海とリーファに当てはまる。

光の御子としての才能を有する者の元に光の御子の主人たるアビゲイルの声が聞こえるのだ。

それはさながら、ドン・レミ村の羊飼いの乙女が主のお告げを耳にしたかのよう。

光がその人を包み込みアビゲイルの白の間へと誘うのだ。

そして、アビゲイルは誘われた者にこう言うのだ。


『光の御子となり、その力を世界を救済するために使ってくれないか…』と。


その場面に海は、初めは何がなんだが分からなかった。

だが、彼女に連れられて目撃した光の御子が人々をシャドウなら守るために戦っている姿を目撃し、光の御子となることを決心し光の御子となったのだ。



そして、もう一つパターンとしてあるのは、光の御子とシャドウとの戦いに巻き込まれた被害者である。

何故か。

理由はシャドウに襲われた者は匂いマーキングがつく、その匂いは他のシャドウを呼び寄せて必ず襲いにかかるのだ。

しかも、一度ついた匂いは光の御子のような浄化の力を持たないと中々無くならないと言う。

無論、ならないことを選ぶこともできる。

その時は、シャドウとの遭遇などの記憶を全て消し、その人を光の御子に陰で守られながらの普段通りの生活を送ることができる。

そして、佐倉桔梗と深田つぼみ。

彼女達はその後者の境遇となった。

海にとって、光の御子の勧誘のようなものはこれが初めてではない。

その度に断られた。

そして、それが最善であると彼自身思っていた。

断らなかったら、戦場へと連れ出すということなのだから。


「と言うわけなんだけど……。正直、信じる?」


起きたこと、そして、これからの彼女達の選択を説明すると二人はキョトンとしていた。

無理もない。

信じられないことばかりだろう。

この場で判断しろと言うのも、酷な話だ。

記憶を消していつも通りの生活にか、光の御子となって戦えという二つの選択肢しかない。

後者に限っては、必要ないとも思える。

だが、光の御子はいないよりかはいた方がいいし数は増やしたいというもの。

真に必要なのは、才能ではなく勇気である。


「し、信じるも何も…。あれ…見たらね…。」


動揺の声で桔梗の視線が倒れたシャドウへと向けた。

たしかに、あれは説得力になる。

一気に常識という定義が彼女達の中で覆されただろう。

ある意味、なんでも受け入れるくらいに寛容な心さえ持ってしまいそうである。


「それに、ならなかったらずっと湊達に守られ続けるわけでしょ…?」


上目遣いで彼女は確認を取る。

確かに、彼女に近くにいる光の御子は海になるため、常にシャドウが出現するたびに戦うことになるだろう。

勿論、湊以外にも光の御子はこの街に二人もいる。

だが、桔梗において守られるということは気に食わなかった。

だったら、彼と共に戦いたい。

それに、リーファが海と共に戦っていると言うことを妬ましくも思った。

彼女にとって、彼は自分にどうしても振り向いていてほしい人だ。


「そうなるね。でも、その為に僕は光の御子になったんだ。」


周りの人々を一人でも救いたいそれが彼の願いであり原動力。それは、彼を見ていたら誰であろうと感じ取れる。

すごく、幼稚で考えなしでどんな状況下においても彼はそれを貫くのだろう。

そんな彼を支えたい、助けたい、力になりたい。

桔梗とつぼみの戦う光の御子となる決断をする理由に十分だった。


「そんなのやだ。自分の身は自分で守りたいし…その、は、話を聞いて、そんな湊を守りたい。貴方の力になり……たいの。」


手を胸に当ててそう宣言した。その姿につぼみも小さく何度も頷く。


「う、うん。私もそう。」

「二人とも…。」


勇気のある二人を讃えるように海は感嘆の声が漏れた。


「それじゃ、決まりね。嬉しいわ!仲間が増えた!」

「「ひゃあ!?」」

「ちょっ、どこ触ってッッ!?」


元気のいい声と共にリーファが佐倉と深田に抱きついた。彼女も同い年の、しかも同じ女性の仲間ができたことが本当に嬉しいのだろう。

すこし、スキンシップが過ぎる気がするが女の子では普通なのだろうか。海は気まずくなって顔を少し赤らめて少し視線を外す。

ふと、シャドウの方面を見るとあの男がいた。


「黒コート…。」


どっかに行ったのかと思ったけど、シャドウの影に隠れていただけか…。何か、探しているのか俯いてキョロキョロと見回している。

何故か強ばる体に大きく息をして酸素を送り、彼の元へと歩く。

海の足音に気付いたのか黒コートは振り向いた。


「………なんだ。」

「!?」


まさか、話しかけられるとは思っていなくてびくりと驚く。

マスク越しのこもった声だ。だが、どうしてか懐かしさを感じる。

初めて聞いた声なのに不思議な感覚を覚えていた。

ーどこかで…聞きたことがあるような……。


「た、助けてくれてありがとう。」


一応、さっき言ったが面と向かってもう一度感謝の言葉を伝える。


「………勘違いするな。俺はカケラを手に入れる為に倒しただけだ。」

「名前…聞いてもいいかい?」

「………ジョン・ドゥ。」


そう言い残すと彼は突然姿を消した。ワープの力だろうか。茂が使っていたのを海は目撃したことがあった。


「あれは、なんなの?」


リーファの手から逃れたのか桔梗が隣に来てそう問いかけた。


「わからない。けど、僕たちを助けてくれた恩人だ。」

「そうなんだ……なら、あの人にもありがとう言いたかったわね。名前わかる?」

「ジョン・ドゥ……だって。」

「………」


これに教えてもらった名前を口にした。すると、変な間があった。


「ん?どした?」


呆れたような顔で佐倉が僕を見つめていた。


「それ、教えてもらってないじゃん。名無しの権兵衛って意味でしょ、それ。」

「そうなの!?」


衝撃の事実に湊はおもわず、大きな声がでた。






「…………」


レヴィの転移魔術によって学校の大のトイレの便座の上に飛ばされた陸はというと無言でそのまま便座を上げてズボンを下ろして座り込んだ。

彼女の認識阻害と魔術隠蔽によって、学校の自分を知る連中には学校に来て一緒に勉学に励んだ。と言う事実だけがこの学校の生徒に埋め込まれるということになっているので、いつ戻ってもいいと言うのは聞かされていた。

そこらへんに関しては考える必要はない。

しかし、陸はというと震える手で両手で頭を抱えた。


(痛い…。痛過ぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)


誰もいないトイレ(多分)で悶絶する。

トイレットペーパーをぐるぐる回して芯が見えるまで腕に絡ませ続ける。


(は?エコ? 環境保全団体よ、許せ。この羞恥を抑えるためだ。目をつむっておくれ!!何がジョン・ドゥだ!?何が『勘違いするな。……カケラを集めるだけだ』……だ!!!

百歩譲って、湊を助けるまでは良かったよ。てか、ほんと危なかった。もし、自分が動いてなかったら湊が怪我したかもしれなかったんだから。いいぞ、良くやったよ、俺。

でも……その後の行動ダサいにも程があるだろおれ!?ぬぅぅぁぁぁぁぁぁああ!?!?

絶対、厨二病のやばいやつだって言うことになってるよ!!!)


身体中から今更になってへんな汗が穴という穴から溢れ出してぞわりとした包まれるような焦ったい何かで体が暑くなる。


「ぷぷぷっ……ジョン・ドゥ…くくっ、……。くすっ」


レヴィの堪えきれてない笑い声が聞こえて両耳を押さえるが頭に直接聞こえている為に無意味に終わり、再びトイレットペーパーに手をつけた。


「こっ……殺してくれぇ。」


自分でも驚くくらいの情けない声がでた。


「そうねぇ〜。ふふっ…どうか忘れて下さいレヴィ様……そう言ったらもう許してあげるわ。」

「ぐぅッッ!?そ、それは言ったら言ったで俺恥ずかしすぎて死ぬやつでは!?」

「あら、言わないのなら備忘録に記録しておこうかしら〜。」

「……ぐっ!どうか忘れて…」

「あらぁ?聞こえないけどぉー。」


声色だけでレヴィがどんな表情をしているか分かるくらい憎たらしい。

この女、いつか覚えておけよと心の声をなんとか抑え込む。


「どうか忘れて下さい……れ、レヴィさま。」

「ふふ、良いわ。あれほどでかいシャドウを屠ったのは素晴らしいわ。」


どうやら、ご納得いただけた様子だった。そして、同じ頃、トイレットペーパーが芯だけとなった。ようやく、落ち着いたのか床に散ったトイレットペーパーを回収して流し込む。

とてつもなく変な音が便器からしたが、壊れてはいないだろう。


「…… 悪いな、レヴィ。勝手に行動して…。」


初め、彼女は今朝と同じように傍観することを命令していた。彼女プランとしてどちらの陣営でもない謎の勢力というものを光の御子とシャドウに植え付けさせて親玉であるアズラエルという敵のボスの興味を惹かせて姿を現させることだという。だが、彼がシャドウを倒して光の御子である湊を助けたことでプランが台無しとなった。

光の御子は、ある程度の警戒心を持つものの味方と捉えることができるし、アズラエル側からしたら完全な敵である。


「全くよ。でも、プランはいくつかあるから。そこに関しては謎の勢力が絶対というわけではないわ。それより、気がかりなことがあるわ。」

「カケラ…だろ?」

「えぇ。」


ムカデ型のシャドウの元へ向かった際に彼女の指示でシャドウにあるアズラエルのカケラを探していたが一切見当たらなかった。


「あそこまでのシャドウになると必ず。あのものからカケラが与えられているはずのだけれど…。それに、あのシャドウには記憶を消すような力があるようには感じなかったわ。」


確かに、あのシャドウにはアスファルトに潜り込むと言った能力は見受けられたものの、ただただ、湊達を狙って体当たりやら噛み付いたりした物理攻撃が多かった。どうも、魔術的な攻撃は見受けられない。

人の記憶の操作のようなものは見受けられなかった。


「ということは…何か、記憶改竄とかいうのは、別のシャドウが行なっていたってことか?」

「……」


レヴィは肯定も否定もせずただ沈黙するのみだった。

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