その頃、瑞希はやっと会議が終わった梅沢に、昨日の事件についての報告をしていた。本屋で任務の内容を受け取ってからのことをすべて梅沢に話す。


「そうですか・・・ では黒スーツのインテリ風の男、中須は目の前には現れなかったのですね?」


「はい」


 瑞希の前に現れ、襲って来たのは捕まった男たち四人だけだ。それ以外は誰もいなかった。

 黒スーツのインテリ風の男が、捕まった男たちのリーダーと思われ、捜査一課が以前からずっと麻薬密売犯の一人としてマークしていた、中須和生だと推測していたのだ。


「では最近、何か変わったことはありませんでしたか?」と、梅沢は質問内容を変えて来た。


「変わったこと?」


「はい。バイト先や学校なんかで」


「いえ、特にはありません」


「そうですか・・・」


 変わったことと言えば、直美さんにやさしくしてもらったことや、由咲が転校して来て仲良くなったことくらい。他には何もない。そんなことは言う必要はないと思い、瑞希は身のまわりには何の変化もないと答えた。


「なら何故、中須は君の存在を知っていたのでしょうね・・・」


 中須和生、黒スーツのインテリ風の男。何故、中須は瑞希のことを知っていたのか。その謎が解けない。


「わかりました。下がっていいですよ。また任務が決まり次第、連絡します」と、梅沢。


「はい。失礼します」


 瑞希は本部長室を出て、緊張感から解放されるように一つ息を吐いた。


「また任務って、やっぱり死ぬような任務なのかな・・・?」


 そんなこと、考えていても仕方がない。その時はその時だと開き直る瑞希。そう心の余裕が持てるのは航平のおかげかもしれない。

そして瑞希は、航平を探し辺りを見渡す。しかし航平はまだ来ていないようだ。


「航平、まだ来てないんかな? それとも休憩所にいる?」


 瑞希は航平を探しに、休憩室へと歩き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る