第130話 王国との定期戦⑥


「なぜ??」


「なぜって、こうでもしないと弱いは君を止められないからさ。もう、戦うのは止そうよ、アーネ」


 アーネはうずくまり、目を閉じたのだった。


「なぜ、こんな事をするのです?アヤメ!あなたに言ったのですよ!そこにいるのでしょう?」


「・・・・うふふふ、わかりましたか?あははははは。でも、もう遅いのよね。あなたには、今、3重の拘束魔法をかけたわ。身動きできないはずよ」


「・・・・・・」

(傷が消えてる、痛くない・・・)


「これでお終い!喰らいなさい!フレイムクラッシャー炎火爆裂!!!」


 アーネの居るところに巨大な炎の柱が上がった。

 と、次の瞬間に爆発した。


 そして、あとには何も残っていなかった。



「・・・・あれっ?やり過ぎて、吹き飛んじゃったかな?」



「消え失せなさい!!」


 アーネはアヤメの目の前に現れると、レイピアをアヤメの心臓へ打ち込んだ。


「あなたの作り出したトーマ王子様が、僕なんて言ったり弱いとか言ったりしてるのには、久しぶりで可愛いらしかったです。でも、それだけです」


「・・・ふふふふふ、ちょっとはわかってきたようね、あははははは・・・」


 アヤメは、煙の様に消え失せた。


 筆者注)

 説明しよう!①


 既に試合前の会話の時点でアヤメの幻術は、発動されていた。

 そして、この幻術は、幻影を見せているのではなく幻の世界に精神をトリップさせるものであった。

 つまりは精神だけの幻の世界に、開始から少なくともこの時点まで、アーネは放り込まれたのだった。


 それに気づいたアーネは、目を瞑り、目に映る世界に惑わされないように、相手の魔力の根源を見極めようとした。

 そして、その世界で傷を受けると一瞬痛いが、意識を他へ移すと、傷は消えて、痛みも消えることで、アーネはこの世界の成り立ちを少し知ることが出来たのだった。


 注終了)



 アーネは、再び目を瞑り、アヤメの魔力を感知しようと探し、やがて目を開けた。


 すると、アーネを取り囲む様に、アーネの周りには、数人のアヤメが居た。


 しかも、それぞれがレイピアをアーネの顔に突き刺そうとしているところだった。


 アーネは、思わずまた目を瞑った。


 しかし、しばらくしても何も起こらなかった。


「アーネ、もう大丈夫だ!すまなかった、もっと早くオレが来れたら良かったのに」


「トーマ・・王子・・様?」


 トーマはアーネに手を差し伸べた。


 アヤメ達は、られて周りに転がっていた。


 そのアヤメ達を、トーマは言う。


「コイツ等は幻影。動かなくなったけど、また動き出すかもしれない。早く、ここを抜け出そう!こっちだ!」


 そして、場面が急に雪原に変わり、雪がちらつく。


「寒いよね」

 そう言うと、トーマは上着を脱いで、アーネに掛けてやり、肩を抱き寄せて歩くのだった。


「トーマ王子様・・あったかいです」


「おう、早く帰って、一杯飲みたいぜ」


「トーマ王子様は、一杯(だけ)しか、たくないのですか?」


「いや、そんなことはないぞ!オレは何杯でも飲めるから!あははは!」


(やはり、これは幻影。トーマ王子様なら「こ(好み)の酒なら、まくるぜ!」とか言って、ダジャレで返すところ。この幻影、私のダジャレに気がつかない時点でダメです)


「アーネ!そのトーマは幻影です!気を確かに持って!」


「サヤカ?」


「オレが助けに来たからには、もう大丈夫だよ、アーネ」


「ジェイ?」


「ちっ!来たわね、ノコノコと。この世界に来たあなた達、アーネ諸共、その精神をズタズタにしてあげるわ」


 トーマだったモノが、アヤメに変わっていた。


 アーネは、アヤメの胸にレイピアをたてるが、アヤメは笑いながら消え失せた。


「良かった!さあ、行きましょう、こっちよ!」


 サヤカに言われるまま、アーネはついて行くと、また、周りの景色が変わり、今度は夏の日差しが照りつけている草原になった。


 心地良い風まで感じられる。


 すると、少し離れた所で、トーマがアヤメと戦っていた。


 そして、アヤメを倒したトーマが歩み寄る。


「アーネ、ジェイは偽物だぞ!早く、こっちへ!」


 サヤカ「やはり、そうだったのね!トーマ、ありがとう!」


 アーネ「えっ?えっと・・・」


 ジ「トーマの偽物、お前、さっき化けの皮が剥がれたばかりのくせに、何を言っている? 」


「オレは、今助けに来たばかりだぞ!お前こそ、偽物のくせに。アーネ、こいつに騙されるな!」


 ジ「アーネは、オレが助ける!」


 そう言うと、ジェイはトーマのところまで一瞬で移動し、剣を振るい、戦いが始まった。


 サヤカ「アーネ、あなた、ジェイをけしかけて戦わせたわね?婚約者のトーマを殺す気なの?信じられない!トーマは私のものよ!」


 そう言うと、サヤカの周りに10個の魔方陣が浮かび上がり、光の魔法剣がアーネへ放たれた!


 至近距離の為、避けられないし、なぜか魔法が使えない。


 もうダメ!


 とアーネが思った時、ジェイがアーネの前に両手を広げて仁王立ちしていた。


 ジェイの身体に魔法剣がことごとく突き刺さり、ジェイが串刺しにされた。


 それでもジェイはじっと立っていた。


「ア・・アーネ・・・良かった・・・無事で・・・」

 そうして、立ったまま死んだ。


 アーネ「いやー、ジェイ!しっかりして!」


 アーネは、涙で周りの景色が霞んで見えた。


 アーネは、目を閉じて涙を拭った。


 そして目を開けると、周りにはアヤメが数人取り囲んでおり、今、まさにアーネの顔にそれぞれが持つレイピアを突きつけようとしていた。


 また反射的に目を閉じてしまった。


「アーネ、もう大丈夫だ。すまなかった、遅れて」


 トーマは、アーネに手を差し出した。

 アヤメ達は、殺られて転がっていた。


「トーマ・・王子様?」


「さあ、早くここから抜け出そう!こっちだ!」


 同じ事が繰り返された。


 最初は、それでも、本当かもとか、少しは変わるかもとか思ったアーネだったが、全く同じ事を繰り返しただけだった。



 ~~アーネ視点


 わかってるのよ、みんなは幻だって。


 でも、どうしたら、この幻のループから抜け出せられるの?


 何か、違う行動をとらなくちゃ・・・。



 最初、アヤメに周りを囲まれた時に、目を開けた瞬間にしゃがみ込んで、レイピアによる刺突を躱し、相手の隙が出来た所をレイピアで何人か刺した。

 残りのアヤメ達と向き合った時に、トーマ王子様がやって来て、アヤメ達をやっつけてくれた。


 そして、結局は後の展開は同じになった。


 次は、サヤカに出会った時に、直ぐにサヤカをやっつけると、ジェイとトーマ王子様が戦い出し、アヤメがやって来て、同じようにジェイが盾になってくれた。


 ジェイへ思わず駆け寄ると、場面が最初に戻っただけだった。


 こうして、次に、助けてくれたトーマ王子様にレイピアをいきなり突きつけようとしたら、アヤメに変身して、弾かれて、戦いとなった時に、サヤカとジェイに助けられ、また、同じことが繰り返された。


 どうしても、このループから抜け出せられない。


 考えるのよ・・・私は雪原でトーマ王子様に肩を抱き寄せられて歩きながら考えた。


 だって、考え事が出来るのは、この時だけだもの。


 彼の温もりを感じながら、もうこのままでもいい・・・えっ?わたし、何を考えてるの?このトーマ王子様はアヤメに変身して、いつ私に攻撃を・・・えっ?わたし、このループになって、私を攻撃してきた者しか、まだ殺めていない。


 だったら、私に味方している今の変身前のトーマ王子様か、わたしを庇ってくれたジェイを殺さなければいけないの?


 やるしかない・・・幻なんだから・・・。


 と思っていたら、サヤカ達に遭遇した。


 私は、ジェイに近づき、レイピアで背後から刺す。


 ジェイは倒れ、サヤカが怒り、魔法剣を放った。


 魔法剣が私を貫こうとしたら、場面が元に戻る。


 私は、今度は我慢して目を瞑らずにいたら、刺突しようとしたアヤメ達が吹き飛ぶ。


 そして、トーマ王子様が現れた。


 私は、決意する。


 このトーマ王子様を殺すしかないのだと。


 ジェイを殺めても変わらなかった。


 もう、彼を殺めるしか・・・・。


 それから、何度も何度もトーマ王子様を殺そうとした。


 でも、いつも殺そうとする直前でアヤメに変身するから、殺せない。


 でも、でも、彼を殺す・・殺すのよ・・殺せ・・殺せ・・殺せ・・・。


 無限に続くループに、私の心は、彼への殺意で埋め尽くされそうになってきた。


 私の心は、どす黒い、なにかに変わろうとしていた。



 その時、何回も見たジェイの盾の行為、自分を犠牲にして私を守ってくれる彼の行いに、心が唯一癒されることを考えて、ハッとなった。


 彼が私を殺すなら構わないけど、私が彼を殺してどうするのよ!


 私は、彼を守るって決めてるのに!


 私は、わからなくなった。


 でも、彼は幻よ・・・しっかりしなくちゃ・・「アーネって、しっかり者だね!良いお嫁さんになるよ」そう笑顔で言ってくれたわね・・・だから、がんばったわ、がんばってこれたわ。


 でも、私はしっかり者なんかじゃない、ホントの私は甘えん坊さんなの。


 彼を、私は殺さないとダメなの?


 助けて・・トーマ王子様・・・わたし、何であなたを殺さなければならないの?


 わからなくなってきた。


 でも、殺さないと・・・わたしのために殺さないと・・・わたしのため・・もうイヤ!


 イヤだ・・・わたしのためになぜ、彼を殺さなければいけないの?


 わたし・・・女神様、わたし、できません、もう彼を殺そうなんて思いたくない。


 例え、それが幻でも。


 女神様、わたし、死んでもいいから、もう彼を殺そうなんて思いたくない。



 私は、また、幻のトーマ王子様に肩を抱き寄せられ、彼の温もりを感じながら、涙を流し、雪原を歩いていた。


 レイピアを持つ手が震えていた。


















 

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