第123話 試験で再び

 13歳の前半最後を締めくくる実技試験が始まった。


 トーマは、出場することにした。


 そして、4回戦目で負ける。

 これで、実技15位以内が確定。


 トーマが負けた相手は、順位8位の食いしん坊ゲッテル。


 負けたトーマを見る目がゴミを見るような目だった。


 コイツは、そういうヤツだ・・・知ってた、そう思うトーマだった。


 さて、では、どうのように3回戦まで戦ったのか?


 それは、戦ったのではなく、不戦敗だったのだ、全部が。


 もちろん、タネも仕掛けもあるのだが、生徒も教師も、トーマはただ運が良かったと思った。


 そして、決勝は、アーネVSジェイ。


 またしても同じ組み合わせ。


 アーネは、はじめの合図と共に、バックステップをしながらワナを仕掛ける。


 かなりの数のワナをしつつ、自分にシールドを施す。


 魔法の同時発動だ。


 シールドを張りながら、攻撃魔法を放つという練習を何度も行ってきた成果が見て取れる。


 アーネの張るシールドは絶対防御とウワサのモノだったが、前回はジェイに破られている。


 ジェイの持ち出した宝剣のお陰だが、今回はそれが禁止されているため、ジェイはどのように戦うのか?



 実はジェイは金剛剣を司る精霊を従わせているため、その精霊に命令し、金剛剣のチカラを今使っている練習用の剣に投影させて、戦ったのだった。


 まるで、どのような剣でも関係なく、自分の力量だけでスゴ技を連発できるように見えた。


 セーラの魔眼には、金剛剣そのものに見えていた。


 トーマには、金剛剣の精霊が見えていた。


 というわけで、アーネがどんなワナを張ろうが、どんな攻撃魔法を放とうが、絶対防御がさらに強化されようが、この金剛剣モドキには敵わず、ジェイの勝ちとなった。


「すごいです、ジェイ。完敗です」


「ありがとう、アーネ。君も、前回より工夫してるし、防御も堅かったよ」


「いいえ、全然ダメでした、完敗です」


「あははは、では、明日の休みは、また、パーティーで乾杯しよう!来るよね?」


「はい、でも、トーマ王子様もお誘いしますよ。今度こそ、来てもらうように頼みますから」


「ああっ、それだけど、トーマには、オレから頼んどくから。前から誘ってるから、今晩頼んだら、来ると思うよ(ウソ)」


「そうですか。それでは、お願いしますね」




 こうして、翌日の休みの午後に、上位8人のパーティーが、また行われた。


「トーマ王子様、来られてませんね」


 ジ「ああ、来るって言ってたんだけどな~~、まっ、いいじゃない?」


 セーラ「・・・・・・・」


 ジ「さて、今回も、この8名が上位になりました!皆さんの健闘と、今後の活躍を祈って、かんぱーーーい!!」


「かんぱーーーーーい!!!」



 ゲッテルが婚約者のエスカレーナに話す。


 ゲッテル「トーマって、ホントに弱いんだから、あれは、皇帝になってはダメだろ」


 エスカ「そうよね。まったく、このままだと帝国がダメになっちゃうし」


 ゲ「アーネも可哀想だな。婚約破棄できないから、トーマを庇ったりして」


 エ「そうよね。でも、私たちは、そんな重い身分でなくて良かったわ」


 ゲ「ああ、でも、それだから、彼女を、それとジェイをなんとかしたいものだな」


 エ「そうよね、あんた、がんばんなさいよ。生徒達に何気なにげに言って、アーネとジェイが、我が帝国を支え合う象徴として、一緒になるムードを作るのよ。あんた、なぜか、男子にだけ無駄に人気者じゃない?」


 ゲ「なんだよ、お前も女子に・・・いや、男子にもか・・・」


 エ「うふふふふん。人気は私の方が上なんだから。私も、そういう雰囲気づくりをするからね」


 ゲ「ああ、トーマなんか」


 トーマ「トーマなんか、なんだ?」


 ゲ「げっ!!」


 トーマ「やあ、やあ、みんな!!おまたせ!!今回は、ダンスパーティーって、ジェイが言ってたから、張り切ってやって来たぜ!」


 ジェイ「えっ?・・・なんか、テンション、高いね、トーマ」

(こいつ来たのかよ~って、ダンス?)


「ああ、当たり前だろ。さあーてと、おいっ!入れ!すぐに演奏しろ!」


 突然、演奏者が数名入って来て、演奏を始めた。


 すると、トーマは、誰もがアーネと踊るのかと思って見ていたら、あろうことか、フローラの手を取って、跪いた。


 トーマ「僕と踊っていただけませんか?フローラ嬢」


 フローラ「あのう、わたしでいいんですか?」

 フローラは、アーネをチラッと見たが、アーネはワクワクしながら、彼らを見ていた。


 フローラ「それでは、お願いしますわ」

(私が一番上手いと知ってるのかしら?とにかく、お手並み拝見ね)


 トーマは、かつてクリスが踊っていた映像を魔眼で再現しようとする。


(これは、魔眼の訓練だ。相手は、ダンスの一番上手いフローラ。やってやる!)


 そして、見事に、フローラをリードしきった。


 フローラは顔を上気させる。


「とてもお上手でした、トーマ王子」


「トーマでいいんじゃなかったのか?まあ、いいけど。フローラって、シェイプのし過ぎ?それと、スウェイが大きすぎないか?身体が柔らかすぎるってのはいいんだけどね、ダンスはパートナーの事をもっと考えないと。でも、とってもステキでしたよ」


「うふん、なんか褒め言葉に聞こえなかったんですけど?」


「いや、ホントにフローラは上手だよ。また、今度、踊ろうか?公式の場で?」


「いいでしょう。受けて立ちますわ」


 次に、トーマは、アーネと踊る。


 フローラのとは違い、息がピッタリだった。


 そして、それは、もう芸術?だった。


 実は、アーネに、魔眼で魔力操作をしながらのダンスだった。

 もちろん、クリスがプロと踊っていたモノのコピーだ。


 周りは、あっけにとられ、その後に、拍手が鳴り響く。


 先程まで、トーマの悪口を言い合っていたゲッテルやエスカレーナまで、拍手をしていた。


 フローラは、素直に負けを認めていた。

(アーネがあそこまで上手なんて・・・これは、やはりトーマがパートナーだからよね。彼って、実は・・・・)


 フローラは、今度は自分からトーマに申し込み、何度か踊るのだった。


 その度に、フローラはトーマを見直した。


 セーラ「トーマ、私が最初にあんたを教えたんだからね。わかってる?」


 セーラとも踊る。

 セーラとのダンスも素晴らしいモノだった。


 そして、エスカとも。


 彼女も、ダンスをして、身をもってトーマを凄いと感じた。


(えっ、こんな人だった?彼のリードは頼もしく、ただ身を委ねていれば、それだけで美しく踊れる、こんなの初めての体験だわ・・・これが、皇帝の血なのかな?ジェイと比較したくないけど、ダンスだけはステキだったわ、言わないけど)



 こうして、ダンスパーティーに、トーマはしてしまった。


 ジェイ達は、予定が大きく崩れたことに、苦い顔をしていたが、ダンスは下手なりにも、楽しかったようだ。


 ただ、リッツだけは、ダンスが上手だったので、トーマにコツを訊いてきたり、熱心にダンスの話をトーマにしてきた。


 リッツって、単なる女たらしかと思ってたけど、案外、良いヤツかもなと、トーマは思った。



 この後、アーネとセーラで2次会をしたのは、お約束だった。


 その席で、トーマはセーラに打ち明ける。


 アーネがトーマに来てほしいと頼んでいたこと。


 それと、トーマに、もっとクラスメートと仲良くしてほしいと頼んでいたこと。


 トーマは、アーネのお願いには、弱かったのだった。


 でも、これっきりだぞと、トーマは言った。


 その顔は、にこやかそうだった。


 セーラは、そんな二人を、安堵して見つめるのだった。






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