第122話 瘴気、勝機、正気


 アーネとジェイがデートした後、ジェイは、その翌日、デフォー家に一時帰宅していた。


 そして、そこには、ジェイのお付きの侍従が跪いていた。


「よくやった。これはホンの気持ちだ。受け取れ!」


「はい、有難く頂戴いたします」


「よし、ところで、お前の母親は、その後、どうだ?」


「坊ちゃまのお陰で、貴重な薬を頂いておりますので、なんとか命を繋ぎ止めております。ありがとうございます」


「うむ、では、今後も頼むぞ」


「ははっ!」


 それから、ジェイは、母親の指示により供された大好物を食べた後、母の肩を揉みながら、話すのだった。


「母上、オレ、このまま学年一位で、姉さんと同じ様に、一位で卒業するよ。そして、帝位を取るよ。トーマになんか取らせない。アイツはオレより弱い。そして、オレより勉強もできない。そんな奴が、この国の皇帝なんて、みんなが許しても、オレは許さない。そして、そんな奴があのアーネの婚約者だなんて。オレは、どんなことをしても・・・。母上、だからお願いだ。なんとかして、皇帝の心を変えさせる事が出来ないか、父上に頼んでください!」


「うふふふふ、もう手は打ってありますよ。後は、15歳の成人の儀次第です。良い結果が出るように、精進するのですよ」


「ありがとう。母上!オレ、剣聖の姉さんより強くなって、絶対皆んなに認められるように頑張るから」


「頼もしいわ、我が夫と違って、貴方はできる子。頑張れる子よ。あの、がんばってても、何も上達しないバカとは違うわ。シルフィアも、貴方の事を、この前帰って来た時に褒めてましたよ」


「えっ!姉さんが!!・・オレ、もっとがんばるよ!」


「うふふふふ、まるで、昔のトーマの様な事を言いますね」


「えっ?あっ!・・あはははは、母上には敵わないや」


「うふふふふふ、可愛い私のジェイ。貴方が居ない時は、いつも貴方の写るオーブに向かって、『おはよう、カッコいいジェイ!』『おやすみ、可愛いジェイ!』って言ってるんですよ。だから、いつでも貴方の傍には私が居て見守ってるってことを覚えておいて下さいね」


「ありがとう、母上!大好きだよ、母上!」



 それから、何日かが経った頃、ジェイ達が外で剣技組と魔法組に分かれ授業を受けていた時だった。


 辺りが徐々に霞に包まれてきた。


 そして、体力のない魔法組の女子たちが倒れ出した。


「これは、毒霧です!皆さん、建物の中に避難してください!」


 外にいる生徒たちは、こぞって校内へと向かうが、校舎を取り囲むように魔獣の群れが出現していた。


「いったい、どうやってここに魔獣が?!」

 気を失っている生徒を運びながら、アーネは、唖然とした。


 その時、ジェイの声が響く。


「ここに居ては危険だ!オレたちが魔獣を倒して校舎への道を切り開くからオレ達の後に続け!」


 そうして、ジェイを筆頭に剣技の練習をしていた者たちが練習用の剣で魔獣に打ってかかる。


 すると、魔獣は煙りのように消え、また元に戻る、という事を繰り返し、一向に消失しない。


 逆に、魔獣が放つ瘴気にあてられ、ジェイ達は消耗していった。


 教師達も、それぞれの場所で対処しているが、一向に魔獣が減らない。


 それどころか、増える一方だった。


 アーネ達、魔法組も魔法を放つが効かない。


 セーラは、魔眼で魔獣に精神攻撃をかけるが、手応えがない。


(これは、ふつうの魔獣じゃないよ。私の魔眼が効かない。どうしよう?もうトーマを呼ぶしかないよね。トーマなら)



『トーマ、お願い、助けて!』


『うん?・・・・どうした?』

(そう言えば、映像を見ていることは言えなかったな)


『正体不明の魔獣に襲われてるの、お願い、来て!』


『悪い、今、魔力枯渇させたばかりで、転移できる力もないし、戦える魔力もない』


『えっ?どうしよう・・・このままでは・・みんな、魔獣の瘴気とか毒霧とかで、倒れたりするし、もう意識が朦朧として来てるんだよ。どうにかならないの?』


『・・・少し、待ってろ!必ず、助けるから』


 トーマはシンシアに繋ぎを取ろうと、サヤカに付いているクモを通して話しかける。


『シンシア、わかるか?オレだ!トーマだ!』


『ホントは、サヤカを通して欲しかったんですけど、事情がおありの様ですね』


『ああ、緊急だ!オレに魔力供給をしてくれ、頼む!』


『そういうことですか・・・ひとつ貸しですよ。サヤカを通した方が万全で、これだと、その7割程度のチカラしか振るえませんが、よろしいですか?』


『かまわない、やってくれ』


 トーマは、そうして魔力を半分ほど回復させてから、学園のセーラの所に転移した。

 セーラは蹲り、声も出ないようだった。


 辺りは、霞みが掛かり、視界が効かない。


 セーラから少し離れて、アーネが居た。


 その前では、アーネを庇いながら、ジェイが奮闘していた、というより、ただ、アーネの前に出て、瘴気の盾になっていた。アーネは、既に蹲っており、立っていられないようだった。


 魔獣達は、数は不明だが、ただ瘴気を発していた先程までとは異なり、口から魔法を放っていた。

 これに当たると、痺れるようで、何人もの生徒や教師がやられていた。


 ジェイは、剣に魔力を纏わせて、それを弾くが、立っているのがやっとな感じだった。


 トーマは、眼帯を外し、左眼の魔眼も全開放する。


 そして、魔力の流れを辿る。


(これは!・・こいつ等には魔核がない!・・どういう事だ?)


 トーマは、魔力の流れをさらに辿り、ある一点に収束していることを突き止め、そこに神経を集中させる。


 そこには、魔獣が居た。


 魔核を3個保有し、膨大な魔力を四方へ発散させ、幻獣を生み出し、操っていたのだった。


(何だ、これ?こんな魔獣が居たのか?)




 その時、ジェイが大声で叫ぶ!


「とーーりゃーー!!やったか!!」


 それはジェイ渾身の、最後の一振りだった。


 その一撃を放った後、ジェイは倒れた。


 後ろのアーネも、倒れる。



 トーマ『アノン、魔核を狙え!同時だ!』


 聖剣から、聖なるビームが放射されると、3つに分かれ、魔核をぶち抜く。


 一応、この魔獣もシールドらしきモノはあったかもしれないが、聖剣のビームを遮断することはできずに、倒れた。


 それは、象の様に、鼻が長い巨大な魔獣だった。



 オレは、すぐにセーラに、ヒールとサヤカ譲りのキュアを掛けた。


「セーラ、アーネとジェイを頼んだ。オレがここに居たら、マズいから(欠席しているので)、後はよろしくな」


「ありがとう、トーマ」


 そうして、トーマは、人知れず転移していった。



 巨大な魔獣が倒れて、霞みも晴れ、幻獣は消えた。


 倒れた者達は、直ぐに癒しを受けたりして、介抱されていた。



「ジェイ、ありがとう」

(意識が朦朧としてたけど、ジェイの声は良く聞こえたわ。ジェイ、凄いです。そして、私を庇ってくれて、ありがとう)


「お、おう。大丈夫でよかったよ」

(オレ、やったのかな?多分、オレが倒したんだよな)


 セーラ「二人とも、良かったね。大したことが無くて」


「ああ、オレ、やったよ、セーラ。最後のチカラを振り絞ったからな、あははは」


 アーネ「ホントに、凄かったです」


 セーラ「・・・そうだったの」


 アーネ「わたし、ジェイに助けられました」


 セーラ「・・そうだね・・あのさあ」


 ジェイ「セーラも良かったな、無事で」


「ええ、それは・・・なんとか」


 ジェイ「まあ、また来ても、オレがみんなを守ってやるよ」


 アーネ「ありがとう、ジェイ」


 セーラ「・・・・まだ意識が戻ってない子も居るから、みんなで救護室に運びましょう」

(いいの、トーマ?これで?・・ちょっと、ジェイには腹が立つんだけど・・)


 こうして、学園を襲った魔獣は倒されたが、どのようにして学園に現れたのかは不明だった。


 そして、この魔獣を倒した功労者はジェイという事になって、ジェイは更に人気が上がり、皇帝の耳にも、この一件は報告されたのだった。









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