第106話 居酒屋は良き!


 良く見ると、祝福を行っているのは、ソフィーだった。


 あれっ?

 ちょっと、まずいかも?

 どうする?


 っと、考えてたら、ソフィーと目が合った。

 ああ、この仮面をつけてるのがアダとなったようだ。

 面倒なことにならないといいけど・・・・・。


 オレは、ちょっと、ドキドキした。

 ソフィー・・・前より、落ち着いた感じで、美人になってる。

 そうだよな、もう、13年以上前だし、あれから・・・。


 うん?

 あれは・・・?


「けけけけ、聖女さあん、ぐへへへへ、ちょっとオレにも祝福してよ~~~」


「おいおい、誰だよ、こんなの入れたの?」


 ソ「ここは、どなたでも入っていいのですよ。あなたは、皆さんが並んでいるんですから、後ろに並んでくださいね」


「げへへへへ、聖女さんの頼みなら~、はあはあはあ・・・聖女さんの後ろがいいな~~」

 そう言うが早いか、そいつはナイフを取り出し、ソフィーへ向かって駆け出した。


 オレは、そいつの足に魔力をぶつけ、転ばせると、ナイフを足で蹴って、取り押さえた。


 そして、すぐにやって来た聖騎士へ、そいつを任せると、オレはすぐにその場を後にした。

 ソフィーが何かを言ってるようだったが、オレは無視した。


 それからオレは、足早に路地をいくつか回って、ひょいっと、身体を隠せる家と家との間の隙間に身を隠した。もちろん、気配遮断をして。



「あれっ?おっかしいなあ~。この辺りじゃなかったっけ?」

 ダークエルフが、そこに居た。


「おいっ!お前、誰だ?なんか用か?」


「おっと、居ましたよっと。あんた、魔王だってね?ちょっと、そこまで付き合ってもらえないかな?」


「嫌だ」


「そうか、なら仕方ないや」

 そう言うが早いか、オレを拘束しようと強力なバインド拘束を掛けて来た。


 当然、そんなモノは効かない。

 当然、アンチマジックシールドを張っているからだ。


 と、すぐに蹴りを放って来た。

 もちろん、ヤバい魔力を纏ったヤツを。


 オレは、躱しざま、後ろへバックステップ。

 ヤツは、もう、魔法を放って来た。

 いかづちがオレを襲う。


 シールドが壊れる。

 と、同時に、オレの周囲に氷槍が出現していた。

 全部で約10個。


 魔法の展開速度が速い。


 オレは、その氷槍を出現させている魔力に干渉を試みた。


 今回は、偶々、成功し、氷槍が全部消える。


 しかし、それを黙って見ている敵ではなく、すぐにコブシを連打してきた。

 コブシから魔力による衝撃波がコブシを打つと同時に出ており、コブシから距離があっても、オレにダメージを与えようとしている。


 オレは、だが、既に反撃に出ていた。

 その衝撃波が来るより早く、カレンにヤツの身体の手足にある運動神経節を麻痺させるように指示し、そして、オレのオートのシールドとヤツの衝撃波が激突して、オレが無防備になった時には、決着していた。


 それでも、少し身体にダメージを負っていたのは、コイツが手練れだっていう証拠だろう。


 オレは、動けなくなったダークエルフにアンチマジックとバインドを掛ける。


 

「おい、もういいか?誰の差し金だ?」

「わかった、わかった。降参、降参。オレ一人の単独行動だ」


「お前、ダークエルフだろ?誰に聞いた?」

「あんたとツルんでるルナだ。アイツとは幼馴染でね。アイツがマジな顔で言うもんだから、確かめたかったんだ」


 ちっ、ルナのヤツ、アイツは、やっぱ頼りにならねーな。


「で、どうなんだよ?」

「まあ、オレより強いのがわかった。それだけだ」


「ふん、ところでお前、何でここに居る?」

「オレはダークエルフの次期頭首だ。だから、ミーシャ様のところへちょくちょく用事があるんだよ。魔族の中でも、ダークエルフは強いからな。ふははははは」


「ふん、オレに負けたくせに・・・まあ、いいさ。お前、オレの部下に成れ」

「はん?なぜ、オレが?ルナじゃあるまいし。今日はこの辺で勘弁してやるから、早く解放しろ」


「仕方がないか。ヴェルギリウス!」

 そう言って、オレはヴェルギリウスをコイツの目の前に突きつける。


「そ、それは・・・赤い刀身のヴェルギリウス!貴方が・・・・」

「どうした?見覚えがあるのか?」


「・・・失礼しました。我が名は、ギル。お見知りおきを」

「で、どうなんだ?」

「はい!命約(命を賭して臣下として仕えることを誓うこと)を交わしたく」


「よし!では、そこへ直れ!」

 オレは、拘束を解き、ヒールを掛けてやる。


 ギルは、その場に片膝をつき、こうべを垂れた。

 オレは、ギルの頭にヴェルギリウスの刀身を乗せる。


「誓え!汝、我が手となり足となれ!従え!我が意志とこの剣に!」


「ははっ!ダークエルフのギル、この命、魔王と共に!」


「よし!言葉使いは、ふつうで良いよ。堅苦しいと話しにくいし、オレ、まだ12だからね」

「わっかりました。それでは、あるじ、ちょっとこれから飲みに行きます?こんな時には、盃を交わすんでしょ、人間は?」


「えっ?そうなの?いや、まあ、行くけど、その前に王宮を見に行かないとね」


 そして、オレは、王宮の前に来て、眼帯を外し、左眼を見開き、王宮全体を見る。


 うう~~~ん、これは・・・・・。

 やはり、今のチカラでは、転移は無理だ。

 なんだよ、この結界?

 やり過ぎだろ?


 ここまでするのは、なにかヤマシイことがあるハズ。


 しかし、今のオレのチカラでは、まだ・・・・。

 ごめん、みんな。

 ミーシャに聖女・・元聖女か・・そしてルーシー・・お前ら、もう少し待っててくれ。


 ミーシャ・・・・落ち着け魔王!・・なんとかする・・絶対に・・・。

 オレの魔王成分が疼く。


 オレは、魔王としてのチカラと勇者としてのチカラの拮抗が崩れ、天秤が魔王側へ傾くのは仕方が無いモノだと、最近、感じ始めている。

 なぜなら、どうやら勇者のチカラが主に呪われているからだ。

 そりゃあそうだろ。

 呪ったのは、魔王なんだから。

 魔王としてのチカラは上がってきている。

 そのため、勇者のチカラがあまり上がらないことで、均衡が崩れてきているのだった。


 それと、前世の記憶を取り戻せたハズなのに、使えるようになったのは勇者のチカラで、しかもまだ全開ではない。

 前世の記憶だけでは、まだだというのか?

 わからないことだらけだ。


 でも、とにかく、オレのチカラを何とかして底上げしなければならないことがわかった。


 それから、オレは、ギルの勧める居酒屋へ行った。


 そこは・・・・オレの行きつけだったところだった。


「ここが本店だ。チェーン店になってるから有名すぎるけど、この本店には隠れレシピがあってね。一部の常連しか知らないし、なかなか注文もできないヤツで、めちゃくちゃ美味いんだ」


「おまえ、ヨダレが出てるぜ」


「はん!言ってろ!じゅる」



 ~~~~ギル独白


 やはり魔剣を・・・しかも前魔王のヴェルギリウスを!

 今までのオレとの勝負なんか全力でも何でもないってか?

 はん!


 ルナ、コイツはマジでスゲーやつだぜ。

 前魔王より、底が見えねー。

 おもしれーぜ!

 おもしれーよ!


 こうでなくっちゃな!


 オレの操り人形も、あっさり組み伏せ、オレの隠形も見破り、格って言うのか、それが違い過ぎる。


 だがしかし、アレは、強いぞ。


 だがしかし、この魔王なら、やってくれるか?

 そして、今の魔族を立て直してくれるだろうか?


 もう、時は待ったなしだぜ!

 早いとこどうにかしないと、とんでもないことになる。


 オレは、この魔王に賭ける。

 ルナ、ありがとよ。


 久しぶりに面白くなってきやがったぜ。


 ダークエルフの立て直しも、この魔王なら・・・・。


 しかし、ミーシャ様は、もう・・・・・・・。

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