第60話 魔核、錯覚、また来たミーシャ

 オレ(トーヤ)は、手も足も、動かせない。

 目も見えない。


 だが、オレにはわかる。

 魔力の色が、大きさが、匂いが、動きが・・目が見えないと余計に良くわかる。


 だから、ヤツ(魔王)の放った剣を見ることが出来た。

 正確には、魔力をまとった剣を、だ。


 だから、その剣は、首を振る事で、、ノドに刺さったのだ。

 ヤツは、最初から頭を狙って投げた。


 オレはノドから首へと串刺しにされたが、なんとか生きている。

 だが、出血が酷くてノドは血溜まりが出来、息が出来ない。

 意識が途切れそうになる。


 でも・・・・。



 ヤツ(魔王)は、しぶとい。

 それは、オレも同じ。

 ヤツには、守るモノがある。

 それも、オレと同じ。

 ヤツの婚約者は、もういない。

 そこが、オレと違う!


 ヤツを動かしているのは、復讐しようとする心のみ。


 それだけでは、聖剣に匹敵する魔剣と心を完全に通わせる事は出来無いハズ。

 復讐に心が染まっている者の心を、気高い王者の魔剣が受け入れてくれるわけが無い。

 剣と一心同体?にはなれない、なれるハズがない!


 だから、魔王ソーマはとどめを刺しに来た。


 だから・・・・・・・・・。


 魔王ソーマの魔剣がオレに振り下ろされてくる。



 この時、オレは異常感覚の中にいた。


 まるで、世界がゆっくりと進んでいる感じする。

 聖女たちが、何か叫んでいる。

 周りも良くわかる。

 さっきまでの遠退きそうになる意識もしっかりしている。


 これが、聖王が言っていた超感覚か?

 聖剣を支配し、自由に操れるようになった先にあるもの、更なる先への進化。

 あの最強の先先代が会得したという超感覚?



 オレは、落ち着いてアノンに命じる。


、カウンターだ、アノン!これで終わらせろ!』


 聖剣グラディウスは、トーヤの言に従い、ソーマの魔剣が触れる前には、魔王ソーマの最期の魔核を真っ二つに斬ったのだった!


 魔王の油断だと言えばそれまでだが、オレにはそれらしき予備動作などなかったのだから、魔王が斬撃を受けたのも仕方がなかった。


 魔王は、吹っ飛び、そして、身体は綺麗な光の粒となっていく。


 薄れ行く身体にもかかわらず、魔王の顔は、なぜか笑っていた。

「勇者!お前の勝ちだ!だが・・・ミーシャ、後は頼んだ・・・」


 そう言うと、魔王ソーマは、光の粒となって消えた。



「ソーマーーーー!!」

 魔族達の中から、ミーシャが出て来た。

 ソーマの居た所まで来て、ソーマの着ていた服を取り、抱きしめた。

 ミーシャは生きていた。

 しかも、



 一方、オレは、ソーマの魔核を真っ二つにした瞬間、自分の手がその半分の欠片かけらを掴んでいたのがわかった。

 ソーマが光となって消えるのと同時に、それは消えてしまった。


 魔王ソーマの魔核?

 何だったのか?

 だが、それを考える時間などなかった。

 オレは、出血多量と呼吸不全で意識を手放した。


 ~~~~~~ソフィー視点


 トーヤはノドを串刺しにされ、動かなくなった。

 そして、すぐに魔王が魔剣を振り下ろす。

 でも、魔王は吹き飛び、魔剣はトーヤに届くことはなかった。


 魔王の魔核は破壊されたのだ!

 私たちは、最初、何が起こったかわからなかったが、自分の聖武具によって、それがわかった。

 魔王の魔核は、半分に割れて、片方はどこかへ飛んで行った。

 もう片方は、トーヤのところへ。


 私は、すぐに、トーヤの元に走っていき、をかける!

 パーフェクトの上位版だ。

 私も、ゆっくりとだけど成長してるんだよ。

 前回は、トーヤの腕と眼を回復させられなかった。

 今回は、やれると思う、いや、やる!


 私は、聖扇ハゴロモを使い、魔力を更に込める。

 聖なる光が眩しく輝く。

 心も癒してくれる聖なる光に、私の癒しの波動を伝えて、トーヤの負傷した個所の全てを癒す。

 前回は、個別にしか出来なかった癒しの作用も全身に亘りできるようになり、さらにパワーアップしたものがエクストラヒールだ。

 実は、これもパーフェクトヒールに当たるのだが、聖女のチカラによるオリジナル的要素もあるので、私が名付けた。


 エリーもアヤカも、トーヤを撫でたり、頬づったり、話しかけたりしている。


 でも、彼は目を覚まさなかった。


 そうしていると、ミーシャがやってきた。


 エ「エミリ、じゃなかった、ミーシャ!無事だったんだね、良かった」

 ア「向こうにも、ヒーラーがいるの?」


 ミ「違うの。これは、魔王のチカラなの。ソーマお義兄様は、私に命を一つくれたのよ。ホントは、最後の切り札に取っていたはずの命を」

 ア・エ「どういうこと?」

 ミ「アラクネが言うには、魔核は、あの魔剣の」

 ア「えっ?アラクネって死んだはずじゃあ?」

 エ「そうよ、私が確かに魔核を破壊したよ」


 ミ「それは、よくわかんないけど、アラクネの作戦プランには、アラクネの魔核を破壊された場合も想定してるの。だから、何らかの方法で生きてるんだと思う」

 エ「なんということ!では、今、攻撃されたら?」

 ミ「それは大丈夫よ。アラクネは、もう、居なくなったから」

 エ「えっと、どういうこと?」


 ミ「えっ?そういうこと」

 ア「あっ!そういうこと?」

 エ「そ、そういうことか?」


 ソ「どういうことなの、ミーシャ?」

 エリーとアヤカのいつものノリではいけないと、ヒールに専念してたけど、訊き返した。


 ミ「アラクネは、特殊な魔族で、よくわかっていない能力を持っているのよ。わかっているのは、ソーマお義兄様くらいだわ。だから、私も詳しくは知らないんだけど、お義兄様が魔核を割られて消えてしまった時に、お供しますって言って、気配が消えてしまったの。私に話しかけていたのも、アラクネの残留思念の様なモノだったと思うわ」

 エ「残念思念?」


 ミ「残留思念、魂の残りカスみたいなモノよ」

 エ「そうなんだ、つまり、カスなわけね」

 ミ「う、うん、だから、もうお義兄様とその幹部はいないわ。そして、これからは、私が魔族を率いることになったの。私は、こう見えて、魔族の中の一番大きな種族の長の娘で、本当はお姉様が継ぐことになってたんだけど、あんなことになって・・・・でも、お義兄様から、魔族の事を私に託してもらったわ。私は、潔く戦いを止めて、平和条約を結ぶわ。でもね、なんとか交渉して、良い条件が貰える様に、あなた達と一緒に帝国の皇帝とフランツ王国の国王に会いに行くわ。できれば、みんな、協力してほしいんだけど・・・」


 エ・ア「もちろん」


 ソ「・・・やった・・やったよ、これで完全修復完了!あとは、目を覚ましてくれたらいいんだけど」


 トーヤは、まだ、目覚めなかった。

 ただ、呼吸が安定するようになり、ムネがゆっくりと上下して、顔の表情も穏やかになっていた。



 聖女たちと離れたところで、ここでの戦いで人間族での唯一の死者となったルシフェール=フォン=デュフォー伯爵の遺体に、従軍していたその娘が縋りついて泣いていた。

「お父様、わたし、決めました。お父様の遺志を継いで、伯爵家を守ります。どうか、お父様、天国で見守ってくださいね。勇者・・・わたしは、あなたを許しません!」



 勇者パーティーは、ついに魔王討伐を成し遂げ、まずは、帝国へ出立する。


 勇者トーヤは、魔王をやっと倒したが、まだ目を開けることはなかった。

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