第36話 ソフィーとアヤカ③

 二人の周りを淡い青色の光が包み込むように発光し、二人の首がコクンと下がった。



 ~~~~~アヤカ視点

 

 ここは?

 なぜここに?

 そこは、アヤカの生まれ故郷。


 ア「あっ!ユウト!」

 ユ「アヤカ!待ってたよ!無事でよかった!」

 私たちは抱き合いキスをした。


 ああ、ユウト・・・ユウトの温もり、ユウトの匂い、ユウトの髪の毛、ユウトの鍛えられたムネ・・・私、帰って来た?


 ユ「もう絶対に離さないよ!愛してるよ!」

 ア「私も愛してる・・・でも、もう行かなくちゃ」

 ユ「なぜだい?僕と結婚するんじゃなかったのかい?」

 ア「だから、まだ、終わってないのよ。わかってくれる?」

 ユ「わからないよ!全然わからないよ!君はもう変わってしまったんだね。あの勇者のせいか?」

 ア「それは、断じてないから!あんなヤツとユウトを比べるなんて、思ったこともないから!」


 ユ「なら、早く、結婚しよう!」

 ア「だから、お願い。まだ、もう少しだけ待って!」

 ユ「わからないよ。なぜ待たないといけないの?」

 ア「ユウト、聞き分けのない子、お姉さん、怒るよ!」

 ユ「怒らないで、ごめんよ、もう結婚しようなんて言わないから・・・」

 ア「えっ?ユウ・・・」

 ユ「良かった、もう出てきてもいいよ、シルフィーネ。紹介しよう、僕の妻になるシルフィーネだ」


 アヤ「えっ?なぜ?」

 シル「うふふふふ、アヤカ、おひさしぶりっこ。フィーネさあ、前からユウ君のこと好きだったんだ~。でね、告白したら、OKって。ユウ君はさあ、アヤカと婚約したみたいだけど~~、モテるからさ~~、実は彼、私を含めて、5人と大人のお付き合いをしてるんだ~~。今晩も、いっぱい、愛し合っちゃうし~~、うううんん、ちゅぶ、ちゃぶ、べろ、ぺろん、ちゅぽん!」

 ユ「ぺろりん・・・ははは、もうフィーネはせっかちだな~~。今晩まで待っててよ」

 シル「ううん、いじわる~~、あん、ぶちゅるっ」

 ユ「すぽん・・・ははは、アヤカ、いいよね別に。もう結婚しないんだし、問題ないよね」


 アヤ「いつから・・・いつからそんな関係になってたのよ!」

 シル「おバカさんね~~、あんたが婚約するまえからに決まってんじゃん!」

 ユ「ははは、まあ、そういうことだね」


 アヤ「なによ!なにがそういう事よ!よりによって、フィーネなんかと!おかしいと思ってたのよね!イーだ!もう知らないから。私には、優しくてステキなピエール様がいるし」



 フランツ王国のピエールの部屋

 ピ「おお、アヤカか、無事に帰って来たんだね。良かった」

 ア「ピエール様、ずっと、好きでした」

 ピ「ありがとう、知ってたよ。これからは、僕の傍にいてくれるかい?」

 ア「はい・・・でも、まだ魔王を・・」

 ピ「いいんだよ、もう、君は僕の妻になるんだから、そんな危険なことはあのバカ勇者にやらせておいたらいいんだよ。ホントに、あれは最弱勇者の癖に、本気で魔王を討てるとか思ってるのかな。笑っちゃうよね!」

 ア「えっ?・・そ、そうよね」

 ピ「笑っちゃおうよ!一緒に、コイツ、ホントにバカだよな!」

 そう言うと、なぜかそこにうずくまっていたトーヤの顔を足で踏んづけて、ピエールは笑っていた。

 ピ「さあ、君も笑いなさい」

 ア「えっ?・・・・」

 ピ「笑うんだよ。アヤカ、この前、トーヤを貶めて笑ってたよね、楽しかったよね、もっと、楽しもうよ、僕の妻でしょ、さあ、一緒に、コイツの顔を踏んづけようよ!あははははは!」


 私は、確かにトーヤを傷つけるようなことを言った。

 そして、それが楽しかった。

 なぜ、そんなことが楽しかったの?


 そして、ピエール、なんであなたは、そんなに楽しそうなの?


 ピ「アヤカ、さあ、遠慮する必要なんかないよ。僕の妻でしょ。僕は君を愛してるよ。君も僕を愛してくれてる。嬉しいよ。僕を愛してくれる愛しい妻と一緒にこんな事が出来るって、楽しいに決まってるさ。僕らは王族、この薄汚れた平民とは違うのさ。さあ、やろうよ、楽しいよ、さあ」

 ア「・・・たのしい・・・そう、私は、ピエールを愛する妻・・・トーヤなんか、勇者の称号を得ただけで傲慢になってる田舎者の平民・・・身分が違うわ・・踏みつけにされて当然よ・・・そうよ・・・勇者はピエール様のような人よ・・・愛するピエール様が望むのなら、わたし・・・・」


 私は、トーヤの顔を見た。

 痛みに歪む、苦しみに歪むトーヤの顔を・・・・。

 ト「ううう、負けない、オレは・・・」


 なんで?あなたは、何でそんなに・・・。

 そうか、わたし・・・わたしも・・・。

 私は、天才魔道使いと言われた。たしかに魔力は生まれつき大きかった。

 しかし、いつも天才の名前が独り歩きし、幼い頃から私にオモシの様に重いプレッシャーがかけられていた。でも、父や母の笑顔が見たくて頑張った。

 いつも、いつも、負けない、わたし、負けないって歯を食いしばり、魔力が枯渇するまで、必死になって練習をした。


 私は、知ってる。

 トーヤも私と同等か、それ以上の魔力量を持っているのを。

 そして、彼は、いつも基礎的な事も疎かにせず、勉強熱心で、人知れず魔力のコントロールを欠かさずに練習しているのを。

 トーヤ、ごめんね。わたしも、あなたと同じよ、天才なんかじゃない、努力したのよ、他人よりもっともっと努力しただけ、なんでこんなことを忘れてたかなあ。

 勇者って多分、かっこ良くなんでもできちゃう人なんかじゃないんだ。トーヤのように、踏まれても、叩かれてもクジケず、泥臭く努力できる人なんだわ。


 あなたは私よ!


 ピ「くくくくく、抗え、トーヤ、抵抗する者を更に踏みつける快感は、最高だよ!さあ、早く、アヤカも、私の愛しいアヤカ、さあ、一緒に踏んづけようね」


 そう言った時のピエールの顔は、醜く歪んでいた。この人は・・・私もあの時、こんな顔をして・・・ごめんなさい、トーヤ!


 ア「止めて!その足をどけて!ええい、偽物のピエール、消えなさい!ディスインテグレーション!」


 ピエールは消え去り、トーヤは笑った。

『良くぞ、心を取り戻せたな。今からが真の魔道の聖女への道と知れ!』

『あなたは?』

『ふはははははは・・・・・』


 その瞬間、私はもと居た部屋に、ひざまずいていた。


 王「どうやら、二人とも、試練を乗り越えたようじゃな。さてと、エリーとエミリ、トーヤもここに、跪くとよい」

 王「これより、そなたたちに、我が神なるしゅより、聖なる慈悲を与える」


 王「目に見えぬ邪神・邪教・禁呪・禁術、心を塞ぎし邪心・悪鬼・羅刹・修羅よ、聖クリストが命じる、無と也て滅し、万能なる我が神の名の元にて、清浄浄化・静謐せいひつ必然に帰し、以て今生頂礼こんじょうちょうらい唯我自入ゆいがじにゅう魂魄回帰こんぱくかいきせよ!はああああああああ!!!!!」(ジャポニカ王国由来の古神教の呪文じゃよ、もはやワシくらいしか使うヤツはおらんじゃろうがなbyドヤ顔のじじい)


 聖王の杖が眩く光り、心を包み込むように優しい波動で室内は満たされた。


 オレには、言葉が難しくて、たとえ何回聞いても難解でわからんわ・・・というダジャレを思いつくのが精一杯だった。


 王「ゲホゲホゲホゲホ・・・歳には勝てぬのう。もう良いぞ!」

 そう、王が言うと同時に異変が起こった。


 ソフィーの首にかけていたネックレスが砕け散った。

 アヤカのブレスレットも砕け散った。

 エリーの指輪も砕け散った。

 エミリのペンダントも砕け散った。


 王「あっ、ごめん、エリーとエミリも、そんなモノを持っていたんじゃな」

 ト「じじい、これは何だ?」

 王「この砕けたものは、お主たちに何らかの精神干渉波を与え続けるという魔道具じゃな。その波動はあまりにも微弱なため、魔眼の持ち主くらいにならんと、見抜けないモノじゃ。じゃから、作用も身に着けた者が弱っている時に、より効力を発揮するのじゃろうて。しかし、さすがに聖女達じゃな。その様な魔道具を持たされながらも、試練に打ち勝つとはな」


 ソ「えっ、聖王様、試練は大したことないとか、おっしゃいませんでしたか?」


「うん?そんな事、言ったかのう。さて、この壊れた物は、一体、誰から授かったモノなのじゃな?エミリ以外は、今ここで我れに話すのじゃ」


 ソ「フランツ王国で個人教師をして頂いたシューマンさんから頂きました」

 ア「私も、個人教師をして頂いたニューマンさんから頂きました」

 エリ「私のは、元婚約者のイカロスからのモノです」


 ト「??なんで、その指輪を外さなかったんだ、エリー?」

 エリ「それはナゾよ」


 王「まあ、エリーはそういう縛りが掛けられていたかもしれんのう、問題は」


 ソ「ごめんなさい、トーヤ!!今朝も謝ろうとしてたの。でも、アナタたちが同じベッドで寝てたから、それを見たら、モヤモヤしちゃって・・・ホントにごめんなさい!」

 ア「わたしも、ごめんなさい!トーヤ君やエリー、エミリに心ないことを言って、ホントに今朝、落ち込んでたのよ。ホントにごめんなさい」


 王「ほお~~、お主たち、同じベッドでのう~」

 ト「いやいや、じじい、今はそこじゃないだろ!」

 王「まあ、凡そ、予想がついてたことじゃが、そいつらはピエールの回し者じゃな。つまり、ソフィーたちは騙されておったという事じゃ、詳しいことは今晩話すことにしようぞ。さて、お主らに聖武具を渡す。ありがたく受け取るがよい!」


 聖王がなにやら唱えると空中に聖武具が忽然と出現し、宙に浮かんだ。


 ソフィーは聖扇と指輪を、アヤカは聖杖と指輪を、オレとエリーは指輪だった。

 そして、エミリにも指輪が。


 その晩、フランツ王国の教えられていない史実を聖王から聞かされた。

 それは、なんとも、もの悲しい話だった。

 でも、その伝え聞く内容は、どこまでが本当なのか、サリュートにいた聖王にはその真偽はわからないとのことだった。

 そして、現国王ピエールの話は、なぞのままをそのまま教えてくれた。

 ただ、オレに話してたのとは違い、もっとボカシていたが。


 聖王の話しを聞いた後は、いつものうたげが始まった。

 ソ「ごめんなさい、トーヤ。私、どうかしてたわ」

 ト「もう謝っただろ。何度も言わなくてもいいよ。それより良かったね。その扇子、赤くて綺麗でソフィーの銀髪と白い肌にとてもお似合いだよ!」

 ソ「そ、そう?ありがとう」

 ソフィーは真っ赤な顔になって、どっかへ行った。

 あれ、変なこと言ったかな?酒に弱いとか?


 ア「トーヤくん、この前はごめんね。ハイ、どうぞ」

 アヤカが酒を注ぎに来た。

 ト「アヤカも飲めば?どうぞ、返杯」

 ア「!!・・ごっくん!」

 これ、間接キス的な?まっ、いっか!


 ト「アヤカって、酒豪なの?しゅごうい、飲みっぷり!」

 ア「うふふふふふ、ダジャレでこのお姉さんに勝負してくるなんて、良い度胸してるわね」

 ムネが、ぷるんと震えた。

 トーヤは、思わず、見惚れた。

 ア「うふん、トーヤのエッチ!」

 エリー「ダメだから、トーヤを誘惑したらダメだからね!」

 エリーは、敵意を持った目でアヤカのムネを凝視すると、突然、トーヤの手を取り、宴の中央へ進み出て、ワルツのようなモノを踊り出した。


 ト「おいおい、おまえ一人で踊れよ。オレ、下手だから」

 エリー「教えてあげる、私、フランツ王国に来てから習ったんだ」

 エミリ「ずる〜い!私の方が上手ですよ、ご主人様」

 ア「あっ、私も習ったんだ。聖王様、踊りましょう!」

 じ「いや、ワシはじじいじゃから、腰が痛いしのう」

 ソ「聖王様、みんなで踊りましょうよ」

 じ「えっ、しかし、まあ、こんなに可愛い子達に言われたら、踊りの天才のワシが踊らんことには仕様がないのう。ワシにも春がやって来たかのう、ホッホッホ」


 こうして、踊ったり、飲んだりして、はしゃいだのだった。


 そして、明けて翌日、オレ達に、ジャポニカ王国へ至急来るようにと、魔道通信より連絡が入ったのだった。

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