第33話 出撃!

 ~~~~~~エリーの独白つづき


 私たちは、試練の間に入った。

 試練は、トーヤが試されるとのことだが・・・・。

 私は、彼にがんばってほしいと神様に願った。

 他の聖女たちも同じ気持ちだっただろう。


 彼が魔法陣の中に入ったら、聖王様が何かを唱えた。

 魔法陣は光り輝き、私の視野は暗転した。


 彼は、目に見えぬ敵と戦っていた。

 彼の右手は肘より上の部分から消し飛んでいた。

 私は、助けに入ろうと思ったが、動けなかった。

 やはり、彼だけの試練なのか?


 しかし、彼はどこから襲い掛かってくるかもしれない敵の剣撃をしのいでいた。

 衝撃波も打つが敵を捉えていない。


 利き腕でない片手で、どうして防いでいるのかは知れないが、私はどうやら彼の実力を見誤っていたようだ。

 すごい。

 しかし、このままでは、彼に勝利はない。

 どうする?


 私は、声を掛けようとしたが、それすらもできなかった。

 もどかしい。

 がんばれ、がんばれ!

 私は、ただ応援することしかできなかった。


 がんばれ、がんばれ!

 彼と何度も剣を交えた、今までの修練のことが頭によぎった。


 私の弟子・・・いえ、違う・・私の・・私の愛しい人・・がんばって・・お願い!


 私は、いつの間にか、ムネをかき抱くように祈っていた。


 そして、それは、一瞬の出来事だった。

 突然、敵の姿が出現したかと思うと、頭上から真っ二つに切り裂かれ、そして、光の粒となって消えていった。

 トーヤは、その敵の目の前に、いつの間にか移動していたのだった!

 私には、彼の動きが見えなかった。

 これが、勇者のチカラ?!

 すごい。

 私なんかより、断然強い!


 私は、この時、彼の妻になる決意をしたのだった。


 すると、辺りは元の部屋に戻り、魔法陣の真ん中でトーヤは立ち尽くしていた。

 彼の右腕は、大丈夫だった。

 あれは、マボロシ?


 しかし、違っていることが一つあった。

 空中に、空色に光る剣が一振り、浮かんでいたのだった。


 トーヤは、それを掴み、私に笑顔で渡し、そして、私の方へ倒れこんできた。

 私は、彼を受け止め、重いけど、抱きかかえながら他の部屋へ連れて行き、そこにあるベッドにやさしく寝かした。

 わたし・・彼をお姫様抱っこした・・・それ、私にしてくれるんじゃ・・・とかは今度、彼に言おうと思う。

 そして、目覚めたら、ありがとうって言うんだ、この剣、私の髪色と同じ色のこの剣、ソーラーレイティアのお礼を。


 私は、寝ている彼にありがとうと言い、ほっぺにキスをした。

 ソフィーが何かを言ってたが、気にしないことにした。


 お疲れ様、トーヤ!

 わたし、あなたに・・・あなたの妻になるために、目覚めたらあなたに一肌脱いでもらうよ!

 トーヤのせいだからね!

 かっこいいトーヤのせいだからね!


 後で知ったのだが、あの戦いを見たのは、私とたぶん、聖王様だけだったようだ。

 他の二人は、じっと突っ立っているトーヤしか見ていなかったらしい。


 そうして、私はイカロスと婚約破棄ができた。

 ついでに、大人キスをして、大人の階段をひとつ、登ったのだった。



 ~~~~~~~~エリーの独白終わり




 オレは、聖女たちとエミリとで、昼飯を食べてから、風呂へ直行した。


 ああ~~、イカ臭かった。

 それに、二日酔いを完全にとるためにも、風呂が一番。

 しかも、ここの浴槽はデカいから、最高だ!


 はあ~~~、疲れが立ち上る湯気と一緒に出ていく感じ~~~。


 さてと、頭を洗って、身体も洗って・・・・えっ?・・なんか、背中を誰かが・・・。

 じじいか?

 いや、違う・・・・まさか!


 ト「エミリか?」

 エミ「はい、お背中ぐらいは、私に・・・」

 エリ「じゃあ、私は、前の方を」


 ト「おい!エリーもかい!」

 エリ「エミリならいいとでも、旦那様?」


 ト「お前、なんで、オレが旦那になってんだよ!」

 エリ「だって、わたしの初めてを奪ったでしょ!」

 エミ「そ。そうなんですか!」

 エリ「えへへへへへ、ごめんね、エミリ。もう、トーヤはわたしのモンだから、ツバつけたからね!」

 ト「おいおい、その言い方、やめろ!」


 エミ「わたし・・わたしは、昨夜、初めてをあげたモン!」

 エリ「えっ!」

 エミ「エリーさんも見たでしょ、一緒に寝てたの」

 エリ「ぐぬぬぬぬ」

 エミ「残念でしたね、エリーさん、私が先に、ツバ以上のものをいただきましたから!」


 エリ「じゃあ、今晩は、私の番よね!トーヤ!」

 ト「あの、すいません・・」

 お付きの女官「すいませーーーん!!勇者様~~~!!大変です~~~~!!」



 風呂でゆっくりとイカ臭さを取ろうとしてたら、聖王に呼び出された。



 クリスト13世「勇者パーティー、出陣じゃ!頼むぞ、トーヤ!」

 ト「はい!必ずや、戦果をあげてきましょう!」



 オレたちは、パーティーを組んで初めての戦いをすることになった。

 前衛は、もちろん、剣の聖女エリー、そして、オレ。

 後衛は、魔道の聖女アヤカと癒しの聖女ソフィー。


 勇者パーティーがオレを含めて、なぜたったの4人なのかは、それくらいが癒しの聖女が結界あるいは、バリアーを張れる、丁度良い大きさであり、バフを掛ける人数的にも、これまた丁度良いからだ。

 他にもあるらしいが、じじいは教えてくれなかった。

 あとは、実戦で会得していくしかないようだ。



 そこには、魔族の連中が、2、3百名程度いた。

 皆、魔力が強く、一人を相手にするのも大変そうだ。

 すでに、戦闘は行われており、数百人いる聖騎士たちといえども、なかなか難しい戦いを強いられていた。


 オレ達は、その中でも、大きな魔力を持つ3人と対峙する。


 まず、ソフィーが聖結界を張り、尚且つ、我々に魔力強化、身体強化、敵からの魔力攻撃弱体化、身体攻撃弱体化を掛ける。

 我々も、独自に、身体強化、魔力強化、オート防御の魔法などを自分に掛ける。


 オレは、念話で皆に語り掛ける(聖結界内では念話が使える)。

『みんな、いいか?』

『オーケー』

 ソフィー以外は返事をする。

 こいつ、まだ怒っているのか・・・内心、舌打ちするが、仕方がない。


『よし!やろうぜ!』


 エ「レイティー!」

 まずは、エリーがその素早い動きでこの魔族たちに初撃を与えようと、抜刀して、接近しつつ斬撃を浴びせる。

 速い、そして、強力だ。

 あの剣、なかなかのモノだな。


 オレは、まだ結界内で様子を見ていた。

『ソフィー、対魔族には君の聖魔法は有効だ。エリーの援護と共に、攻撃しろ!アヤカ、あの魔族たちにピンポイントで魔法攻撃しろ!』


 アヤカは攻撃するも、避けられたり、敵のバリアーに阻まれる。

 ソフィーも聖魔法の発動が遅く、しかも、威力が弱い。

 たぶん、敵将の持つ魔剣の効果など、奴らの弱点である聖魔法への対策とかがなされているせいなのだろう。


 敵も、エリーの連撃への対処で、こちらを攻撃する余裕はなさそうだが、時々、魔法攻撃が飛んでくる。

 それらは、結界のバリアーでここまでは届かないが、バリアーの一つ目がパリンと壊される。


 オレは、ヤツ等の魔核の在りありかを探っていたが、やがて確定すると、アノンにヤツ等のそれを聖剣が出すビーム状の魔光線で壊すように思念で命令する。


 オレは、即抜刀し、即鞘に納めた。

 たぶん、エリーでも見えるかどうかの速さではなかっただろうか?

 敵の将たちは、魔核を破壊され、倒れた。エリーは、オレがやったのを知っていて、オレに抱き着いてきた。


 エ「やったね、トーヤ!」

 ト「ああ、あとは、雑魚だろう?アヤカ、得意の広囲殲滅魔法だ!」

 アヤカ「うん、待って・・・よし、いっくよ~~!!」

 オレたちの魔力も彼女に分け与えて放たれた魔法は、空中に幾百の光の剣を出現させていた。

 それは、光属性と聖属性を併せ持つもので、勇者パーティーならではの魔法だ。


 ア「シュート!」

 彼女の光の剣は、魔族に向かって光速で放たれて、奴らに致命傷を与えたり、中には、倒れるモノもあった。


 こうして、魔族たちは撤退していった。

 ソフィーの魔力消費が、やはり、一番大きかった。

 彼女は、このパーティーの要だと、オレは思った。

 そして、アヤカも、広範囲魔法を使ったので、やはり魔力消費が甚だしい。

 今後、この二人は魔力量を増やすか、やり方の効率化をするか、まだまだ課題は多い。

 なにせ、初めてのパーティー戦だ。

 やってみないとわからないことだらけだ。

 こういう修練を早くからさせてくれたらいいのにと、ピエールを恨んでも仕方がなかった。


「勇者さま~~~~~!!!」

 また、抱き着いてきたがいた。


 エミ「ご無事で何よりです!」

 ト「エミリ、聖王宮に居たんじゃなかったのかい?」

 エミ「ごめんなさい、もう、居ても立ってもいられなかったので!」

 ソ「あんた、こんなとこまで来ないでよ!」

 ア「そうよ、ここは戦場よ。何かあったのでは遅いから」


 ソ「ふん、それにしても、トーヤはエラそうに指示ばかりしてるんですね。少しはエリーを見習って、前衛らしく前に出て戦ったらどうです?」

 ア「まったく、そうよね。でも、仕方がないじゃない。トーヤくんなんかが前に出たら即勇者死亡で、私たち、解散だけどね(笑)」

 ソ「もう、いっそのこと、それでもいいですけどね(笑)それに、この前の試練の間、アレは何です?ただ突っ立ってただけで気を失うなんて、素敵な勇者様ですこと(笑)ホントに死んじゃったかと思ったわ(笑)そうなると私の責任問題かしらとか思って無駄な心配しちゃいましたよ(笑)」

 ア「だよね~~~(笑)わたし、寝てたけどね(笑)」


 なんだ、コイツ等、急にキレ出したぞ。

 しかし、性格悪いし、嫌味なニタニタ顔でオレを見てくるよな。


 どうやら、勇者パーティーは、初戦にして瓦解の危機を迎えていた。



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