第23話 意味不明な思考
歓声一つ上がらない異様な雰囲気の中、生徒達に駆け寄るが意識が刈り取られているだけで全員の命に別状はなかった。
ジークとともに全員に回復魔法をかけた後、気絶しているGクラスの全員を医務室へ運ぶ。
これはある意味予想通りの結末か。サテラは覚者。ただでさえジルの死以降、サテラは不安定だったのだ。彼女を代表メンバーに選出すればこんな理不尽な結果になることくらいわかりきっていた。
「あやつらめ! 知っておったのだなっ!!」
さっきから、ジークは怒髪天を衝くような状態で怒り狂っている。
「少し、落ち着けよ」
額に太い青筋を漲らせつつも大声を張り上げるジークに、沸点上昇した頭を冷やすように促すが、
「うっさいわ! ホルスたちは子供たちの血と汗の滲む努力を台無しにしたのだぞ!? しかも、おそらく大人の身勝手な理由で!!」
射殺すような視線を向けられてしまう。
「そうだとしても、試合を終わらせたのは同じ生徒であるサテラの意思だ。私たちがそれに異を唱えるのは筋違いというものだろうさ」
「くそっ!!」
「それに今はこの試合結果に正当な評価をするよう動くのが先決だ。違うか?」
「わかっちょる!!」
しばしジークはぐぬぬと、唸っていたが椅子に腰を下ろし、両腕を組んだまま瞼を閉じる。
さて、Gクラスが優勝できなかった以上、このまま順当にいけばミアは退学だ。ああは言ったが、私もジークと同意見。私たち大人の都合で生徒達の努力を踏みにじった輩には腸が煮えくり返っている。正直、今シルフィやシーザーの前で冷静を保つ自信が今の私にはない。
(いや、私も人のこといえぬか……)
私もサテラの意思を無視し、この学院での学生生活を強要してしまっていた。
最近特に露呈したサテラの弱さ。その一因に私への依存度の強さがあったのは自明だった。だからこそ、同世代の生徒たちとの生活を楽しみ、育んで今のGクラスのような関係を築いて欲しかったのだ。
彼女に対して酷なことをしている自覚はある。第一、彼女はまだ15歳の子供。彼女にとって私はたった一人の肉親に等しい。その私から無理に引き離すなど、彼女がいかに傷つくかなどあえて指摘する必要はあるまい。
しかし、私もそう長く彼女の傍にいられるわけではない。やはり、私は彼女が心配なのだ。私がいなくなったこの世界で、彼女が希望を持って歩んでいけるかが。
人は一人では生きてはいけぬ。それはこんな歳になって身に染みて実感していることのはずだから。
(くそっ! またこの思考だ)
最近この手の意味不明な思考に頻繁にそして無意識に陥っている。
私がこの世界を去る? それは、死ぬということか? 悪いが私は預言者ではないし、運命論などくそっくらえだ。妄想の類だろうさ。
まあいい。今はミア達、Gクラスの評価を本来のものへと戻さねばならない。
私の予想ではそろそろ、奴さんたちが動き出す頃だと思うのだ。
こちらに近づいてく複数の足跡。どうやらビンゴだ。
扉が乱暴に開かれてキノコ頭の教授――マッシュー・ムールが鼻息を荒く姿を現す。
マッシューの背後から本試験の執行部と思しき男女がぞろぞろと部屋に入ってくる。
「マッシュー、何の真似じゃ?」
ジークが見たこともないいかつい顔をマッシューに向けると静かにそう尋ねる。どうやら、ジークの奴、堪忍袋の緒がぷっつりキレてしまっているようだな。
「シラベ・イネス・ナヴァロ、魔導騎士学院統一学科試験で貴様が不正を働いたという証拠が提出された。直ちに教授会に出頭せよ。もし、抵抗するなら――」
マッシューが右手を上げると、執行部は一斉に私に各々の武器を向けてくる。
執行部の半分は薄ら笑いを浮かべているが、もう半数は死人のように真っ青な顔をしていた。
「心配せんでも暴れはせんよ。私もお前たちのとびっきりの理論構成には興味があるからな」
何か言いたげなジークを右手で制し、私は席から腰を上げると両手首を近くの女性の執行部に差し出す。
「も、申し訳ありませぬ。シラベ教授!」
彼女は不憫になるほど怯えながらも、私の両手首に特殊な魔法の拘束具を装着した。
「では行こうか。ジーク」
「楽しそうにしおって! 儂らの気もしらんでまったく勝手な奴じゃ!」
毒のある鋭い声を上げて、ジークも席を立ち執行部を押しのけて部屋を出ていく。
さてさて、面白くなってきた。これで奴らの悪党としての質を図れる。もし、悪党として私の目に叶うものだったら、私の敵と正式に認めてやる。
だが、仮に悪党ですらないただのクズのときは――
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