第38話 本来のクエスト終了
ボス猿を解体し、C+の魔石と、ドロップアイテム――【狒々王の牙】を得た。
シロヒメの同族と思しき遺体や保護した女達は、シロヒメに引き渡した。
彼女と話し合った結果、冒険者ギルドに今回の件は報告しないこととなる。無論、シロヒメの強い希望からだ。
彼女たち森の管理者たる
私は冒険者ではなく商人だ。聞くところによれば、この森にはシロヒメのような知能と理性が強い生物も相当数いるらしい。ならば、この地は利益を生む新たな商業地区となりえる。無粋な冒険者達に引っ掻き回されるより、彼女の提案を受け入れた方が、私にとっても利益がある。今後この地の所有権につき、詳しく調査し、可能ならば我が商会が買い取ることにしようと思う。
そんなわけで、今回の件を冒険者ギルドには内密にする必要がある。
ギルド提出用に生徒達の屠った猿は、魔法の鞄へ収納し保存した。どうせなら、この猿共に牧場の家畜の窃盗の罪も背負ってもらうことにしたのだ。
今、被害にあった牧場で、駆け付けた町長も交えて、家畜荒らしの犯人の検分を行っている途中だ。
もちろん、ハクには厳重注意が必要だが、そもそも今回は母が死にそうな緊急事態。人的損害はないし、ハクの置かれた状況を鑑みれば、致し方ないと言えるだろう。それに、奴らが原因でハクがこの牧場の家畜を襲ったのだし、あながち嘘とまでは言えない。
「助かったべ! これで今晩から安心して眠れるだ!!」
何度も頭を下げる牧場主に、若干引きつった笑みを浮かべている生徒達。
「まさか、この様な凶悪な魔物が犯人だったとは。町民に損害が生じる前でよかった。本当に感謝いたします」
町長も深く生徒達に頭を下げてくる。
「では、私達はこれで失礼します」
微妙な笑みを浮かべている生徒達を代表し、私が一礼する。
大方、偽りを述べることに抵抗感でも覚えているのかもしれない。もっとも、シロヒメとハクのためだと説明すると、生徒達は実にあっさり私のギルドへの虚偽の報告につき同意したわけだが。
それから、停めてあった馬車へ乗り込む。
転移でも十分帰れるが、極力私が力を貸すべきではないし、馬車で帰ることとしたのだ。
「なあ、先生?」
プルートが馬車で仰向けになって、首だけ私に向けてくる。
「ん?」
「あの人達、何者なんだ?」
あの人達とは、アクイドたちのことだろう。
「私の部下だ。そう言ったはずだが?」
「そういう意味じゃねぇよ。俺は親父を尊敬しているんだ」
「そのようだな」
実際に、ランペルツ・ブラウザーはこの帝国でも極めて優秀な将軍だった。それは彼の最後を看取った私が保証してもよい。
「あの人達の強さ、親父のそれとはどこか違うような気がしたんだ」
「そうか」
鋭い奴だ。アクイド達はある意味、【覚者】によって人間という種族を止めてしまっている。まさに、強さの次元が違うのだ。
「なあ、俺達はあの人達のように強くなれるのか?」
「それはお前達次第だろうさ?」
プルートは暫し、私の顔をマジマジと凝視していたが、プっと噴き出す。
「先生ならそういうと思ってたよ」
「あのな、なら聞くなよ」
「……」
「第一お前らはまだひよっこ。強さの先を求めるなど百年早い。おい、プルート、聞いてるのか……ってもう寝てるか」
鼾をかき始めている生徒達に、肩を竦めると、私もゴロンと横になったのだった。
◇◆◇◆◇◆
ストラヘイムへ到着次第、冒険者ギルドへ向かった。
「……」
床に置かれた狒々の死体に、あんぐりと大口を開けているギルドの職員達。
「私達も疲れているものでね。早く見分して欲しいのだがね」
眠そうに大きな欠伸をしている生徒達を横目で確認しつつも、受付嬢にそう促す。
「シラベさん!!」
「ん、な、なんだ?」
受付嬢のあまりの剣幕に、思わず後退りする。
「あなたがこの魔物を倒したのですね?」
F+の一回り大きな大猿を指さし、捲し立てた。
「私は見ていただけ。そう伝えたはずだが?」
「この魔物は
「そういわれても真実だぞ」
まいったぞ。この受付嬢、思い込みが激しいのか、完璧に私が倒したと決めつけてしまっている。
「そうだぜ、受付の姉ちゃん、先生は楽しそうに観戦してただけだ」
一応、プルートが助け舟らしきものを口にするが、
「うんうん、いつもより、三割増しでテンション高かったよねぇ」
「ですね」
しみじみと人聞きの悪い感想を述べる生徒達。
「本当……なのですか?」
「だから、そう言っている。第一、わざわざ、そんなことして私になんのメリットがある?」
「……」
私と生徒達の顔を相互に伺っていたが、大きなため息を吐くと、
「早とちりをして申し訳ございません」
謝意を示してきた。
「構わんよ。だから早く手続きを始めたまえ」
「は、はい!」
私の指示に、奥の部屋に飛び込んでいくと、ぞろぞろとギルドの職員が数人出てきて狒々とかいう大猿を運び去ってしまった。
「15万G……」
積まれた金貨にプルートが絶句していた。
あの狒々の強度からしてもっと行くかと思ったが、どうやらレアではなかったようであり、この値段に過ぎなかった。
「一人、3万G。君らの正当な報酬だ。各自、受け取るがいいさ」
そろそろ、生徒達の体力も限界だろう。
だから――。
「ほら、とっとと帰るぞ」
そう強く指示し、私はギルド会館を出たのだった。
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