第36話 【アコード】の森の怪物駆除 生徒編
「ほら、チンタラやっていると終わらんぞ」
私の飛ばす檄に、五人は建物を建造していく。
「なんかさ、魔物退治のクエストのはずなのに、いつもの雑務クエストに戻ってね?」
口を尖らせ、ブーブー文句をいうプルートに、
「まったくだ。せっかく気合を入れてきたというのに」
すかさずクリフが同意する。
「でもハク達の家は必要なの」
ミアが白髪の女性の膝にチョコンと座るハクに視線を向けて、そう発言し、
「そうだね。それには私も賛成っ!」
テレサも笑顔で応じる。
「でも、この森の魔物の退治ってどうなるんだろ?」
エイトが思いついたように呟き、全員が私の顔色を窺ってきたので、
「当然、建築が終わり次第やるぞ」
もちろん、生徒達が一定の成果を上げたら、私と仲間達も参戦する。
そうだ。弱っていたとはいえ、中位~上位の精霊に瀕死の重傷を与えたのだし、相手は生半可な相手ではないだろうからな。
「やっぱり……もう少し、ハクと遊びたかったのに」
「ミアもなの」
がっくりと肩を落とす女性陣とは対照的に、
「そうか、これが終われば、戦闘かっ!」
「早く終わらせよう。僕ももらった武器について試したいんだっ!」
プルートと、クリフ達は歓喜の声を上げる。
うーん、いつの間にか、プルートとクリフ、随分打ち解けているな。以前の犬猿の仲が嘘のようだ。
「じゃあ、早く終わらせようよ。終われば、ハクと遊ぶ時間もあると思うし」
「うん、そうだね!」
「だね!」
エイトの意見に女性陣が頷き、生徒達は建築につき、ラストスパートを開始する。
◇◆◇◆◇◆
午後1時。5時間で終了したか。中々いい感じに早く終わったじゃないか。
まだ、何もないログハウスだが、これから色々、補充していけば生活には困るまい。
「聖霊王様、皆さま方、ありがとうございます!」
再度、私に跪き両手を組んで、拝んでくる母狼――シロヒメ。
面倒だ。もう否定するのも馬鹿馬鹿しい。
「ねぇねぇ、精霊王って何?」
目をキラキラさせながら、テレサがご丁寧に私にとって迷惑な疑問を提示してくれた。
「さあ、でも、王様っていうくらいだし、偉いんじゃないの」
クリフがさほど興味なさそうに答えると、
「えっ? 先生ってどこかの国の王様だったの?」
テレサが素っ頓狂な声を上げた。
「王様というより、話の流れからいって、彼女達の信仰する神様のような存在なんじゃないかな」
「うへぇ、行動が無茶苦茶過ぎて、人外から神様扱いされる人なんて初めてみたぜ」
「同感だけど、まあ、それをいうなら、あんな人そうポンポンといてもらっちゃ困るんだけどね」
「「「「違いない」」」」
集まって好き放題宣った挙句、結局、それかよ。
まあいい、時間もないし、話を進めよう。
「では、シロヒメ、お前達がいう猿のバケモノについて教えてもらおう」
「はい」
神妙な顔で、シロヒメは説明を始める。
「数か月前に突如、出現した猿の集団か……」
今から数か月前、現れた猿共は、忽ち、森の大半を制圧してしまったらしい。
奴らは暴虐の限りを尽くし、他種族を問答無用に攫い食い散らかした。これにより、相当な数の種族が途絶えてしまう事態となる。
シロヒメも森の主として一族を率いて決死の抵抗をしたが、病で弱っていたこともあり、あっさり返り討ちにあって、あの洞窟に逃げ込んだってわけ。
これってほっといたら、【アコード】の街まで進行してきたんじゃないのか? 今回上手く犠牲の出る前に、駆除の運びとなって僥倖だったかもしれん。
それにしても、アンデッド事件に、鬼の事件、最近荒事が起こり過ぎだ。どうにも、裏がありそうな気がしてならない。
さーて、どうしようか。まずは、奴らの強さの確認だが、その前に――。
「あいつらの処理だな」
私が一点を凝視すると、シロヒメも顔を顰め憎悪の表情でそちらに視線を移す。
「ミツケタ」
「ミツケタ」
「ミツケタ」
三匹の大猿が丁度、私の正面の樹木の枝に捕まり、キーキー喚いていた。
両脇の比較的小柄な猿共二匹が、平均ステータスF(レベル11)、中心の大柄の猿一匹がステータスF+(レベル16)だ。これに対し、生徒達は、全員平均ステータスF、レベル13となっている。
つまり、レベル11の比較的小柄な猿はステータス的にも生徒達よりも格下であり打倒は容易い。レベル16のあの大柄な猿こそが、今回の生徒達の倒すべき相手というわけだ。
この程度なら、生徒達だけでも十分倒せる。もちろん、危険はあるさ。この野外クエストは、そもそも実戦経験をつむための修行なわけだしな。
今回の野外クエスト前に護衛役のスパイには、可能な限り生徒達に処理させるので、できるだけ手を出さないように厳命している。
「さーて、諸君、お待ちかねのクエストだ。あの猿三匹を倒せ」
「倒せって、急に言われてもな」
プルートが額に玉のような汗を流し、猿共に槍先を向けると、他の生徒達もそれに倣う。
「あの中心の一番大きなデカブツ猿は、お前達にとっても強敵だ。十分に考え、協力して挑めよ。でなければ死ぬぞ」
「俺達、戦闘魔法なんてまだ習ってない!」
私の「死」の言葉に、絶叫するプルート。
「だから考えろと言っただろう。強力な魔法で薙ぎ倒すのは戦闘とは言わん。
だが、そうだな、宣言をしといてやる。私がお前達に教えた魔法だけで、あいつらは十分駆除し得る」
「やるしか……ないのか」
「ぶつくさ言っている暇はないぞ。どうやら、奴さん達、来るようだ」
次の瞬間、両脇の二匹のレベル11の猿が、私達へと跳躍してくる。
「くそっ!」
プルート達が、魔法武器に魔力を籠め、生徒達の命がけの実戦訓練は開始された。
◇◆◇◆◇◆
魔法の小剣により、エイトが飛ばした火炎の塊が、跳躍してくる二匹の大猿の眉間にぶち当たり、その巨体ごと吹き飛ばす。
同時に、ミアとクリフが放つ【
ここまでは、相手は格下、例えガチンコで殴り合っても勝利できる。魔法や魔法武器を使用すれば、勝利できない道理はない。
「よし!」
「やったっ!」
歓喜の声を上げるクリフとミア。
「言ったはずだぞ、気を引き締めねば死ぬと」
刹那、三匹目の大猿が跳躍し、地面に落下、そして、大地を数回蹴り、最も近くのプルートまで急接近する。
射程範囲にはいると、奴は咄嗟のことでピクリとも動けないプルートの顔面に拳骨を放った。
拳骨が到達する寸前で、エイトがプルートを突き飛ばし、大猿の右拳が空を切る。
「離れ――なさい!!」
【肉体強化】の魔法で身を包んだテレサが、僅かに体勢を崩した大猿の左頬に魔法のナックルをぶちかました。
真面に直撃を受けた大猿は、顔を燃え上がらせつつも、凄まじい速度で、地面を何度もバウンドしていく。
「グギギギッ!」
大猿は起き上ると、燃え上がる己の顔面を両手でパタパタ叩き、鎮火する。
そして顔を憤激に紅潮させつつも、テレサを睥睨した。
「何やってるのさ‼? 先生も言ってたろ! これは死闘! ぼさっとしていたら死ぬだけだよ!!」
エイトに激高されて、プルートはヨロメキながらも立ち上がり、
「すまねえ」
槍を構える。クリフやミアも目つきがさっきとは別人だ。
これでようやく本番か。
「足止めは僕とエイトがやる。あとは君らに任せるよ」
クリフがエイトを横目で見ると、彼も小さく頷き詠唱を開始する。
「じゃあ、わたくしが前衛を!」
テレサが【肉体強化】を継続したままの状態で、両手のナックルを打ち付けた。
「俺も前衛だ。足が止まったら、ミアは後方から魔法を打ちまくれ」
「わかったの!」
「奴には恥をかかされたし、止めは俺がやる」
プルートは、槍を構えて身をかがめると、【肉体強化】を詠唱する。
「グオオオオオッ!!」
咆哮すると奴はテレサ目掛けて、地面を疾走してきた。
エイトの【粘土細工】が発動し、大猿の前の地面が盛り上がり、その進行を拒もうとする。
大猿は眼前の石と土のかべをグローブのような拳で殴りつけた。
【粘土細工】は、あくまで地面の土や岩を操作するだけの魔法。強度を増しているわけではない。故に、奴の右拳により、壁は粉々に砕け散る。
もっとも、奴の動きは確かに一時的とはいえ止まった。
クリフの【強化水ボンド】の詠唱が終了し、液体が大猿の足に付着し、強固に縫い付ける。私が教えた改良も施してあり、接着はまさに一瞬だ。
動揺している大猿に、テレサが殴り掛かる。凄まじいラッシュが大猿を襲い、そのうち数発が大猿へと命中し、その全身を燃え上がらせた。
テレサは【肉体強化】の魔法とあのナックルを実にうまく使っている。相性が抜群なのかもしれないな。
「グギャッ!!」
必死に炎を消そうとする大猿に、
「僕が手伝ってやるよ」
再度の【強化水ボンド】の詠唱が終わったクリフが、奴の全身に液体をぶちまける。まるで全身から水を浴びせたように、びしょぬれになる大猿に、
「――我が力に従い、蒼炎となさん」
同時に、ミアの頭上に八つの蒼色の球体が生じそれらが高速で大猿に殺到する。
蒼炎の球体は奴の顔面、胸部、腹部、両腕、両脚へと次々に直撃し勢いよく燃え上がる。
テレサの炎とは比較にならない熱量の蒼炎の炎だ。熱さから必死で両手によりはたいて消そうとする。だが、それが奴の最大のミスだった。
奴の右手は左顔面に、左手は胸部にあてがわれたまま強く接着する。
「ほう、上手いな」
【強化水ボンド】により、己の身体に両手が接着した今、奴に攻撃手段はない。チェックだ。
「【
プルートが奴目掛けて疾走し、その頭部に槍先を渾身の力で放つ。
プルートの槍は身動き一つ取れぬ大猿の口腔内をまるで豆腐のように突き破り、脳天を完膚なきまでに破壊した。直立不動のまま白目をむき息絶える大猿。
「勝ったのか?」
槍先を大猿に向けながらも、プルートは慎重に観察を開始する。
うむ、直ぐに勝利したと浮かれずに死亡確認を行うことも、評価できる。聊か危なっかしくはあるが、十分合格点だ。
生徒達は、此度、無事本ミッションをクリアした。
「マーベラス! お前達の勝利だ!」
私は生徒達の勝利に、心からの喝采を送ったのだった。
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