第10話 アレン

 


『君たちを襲ったのは〈くろ使徒しと〉と名乗る組織だ』


 “閉鎖病棟”の崩壊の後、アレンは実辰たちに話があると言ってきた。


 その申し出に、満場一致で応じる実辰たち。

 アレンについてまだ分からないことも多いが、今の所、害意がないというのは伝わってきた。

 そして、実辰たちの知らないことを知っている。

 話を聞いた方が、得られるものが多いのは確かだ。


 アレンは実辰たちに襲撃者達の名を告げる。

 〈黒の使徒〉。

 アレンが語るには〈黒の使徒〉はある思想を元に動いているらしい。


 その思想とは『世界の改変』。

 そして、そのためには手段を選ばないのだと言う。


「ちょっと待て。そいつらの目的は分かったけど、どうして俺達が狙われることになるんだよ」

 心はアレンの話を遮って疑問を口にした。

 確かに今のアレンの話では〈黒の使徒〉の目的と実辰たちが襲撃されたことの関連性は見えてこない。


「『世界の改変』っていうのは世界を支配して改革を起こす、なんて次元の話じゃないんだ」

「ん? どういうことだ?」


「『世界の改変』とは強大な力で世界の理を捻じ曲げ、文字通り世界を作り変えてしまうことを言うのさ」


「なっ──」

 心は絶句する。

 実辰も唖然としてしまった。  


 もしその話が実際に実現可能だとすれば、たった一つの意思によって世界の形を変えられることになる。

 それは最早、『神』と言っても過言ではない。


『だけど、それには『大いなる力』が必要なんだ』

「──『大いなる力』?」

 日和がアレンの言葉を繰り返す。


『そう。その『力』を手に入れるには『鍵』が必要になる、と僕は聞いている』

 アレンはそこで一旦言葉を切った。


『僕も詳しくは知らないんだけど、『鍵』は欠片になって世界中に散らばっているらしい』

「それを見つけられたら不味い、──ってことか?」

『いいや、『鍵の欠片』は物体としてあるわけじゃないんだ』

「んん?」

 心は意味が分からないとばかりに唸った。


『『鍵の欠片』は生き物の魂にくっついているんだよ』

「『たましい』──って何なんだ?」


『魂は、この世界の全ての存在に宿っているものだよ。そして人間の、いや生物の根本的なエネルギー源でもあると僕は思っている』

 アレンの説明を受けても、心はまだ難しい顔をしながら首を傾げている。


「あの、アレンさん」

 ここでこれまで黙り込んでいた茉菜が口を開いた。


『ん? なんだい?』

「私たちが〈黒の使徒〉に狙われている理由って、その『鍵の欠片』を持っているからですか?」


「そうなのか!?」

『ああ、その通りだよ』

 茉菜の言葉に驚く心。

 まあ冷静に考えてみれば、話の流れ的に分かることだ。

 アレンは茉菜の問いを肯定した。


『『鍵の欠片』を持っている者の事を僕たちは『人柱』と呼んでいる。君たち四人は人柱なんだ』

「『鍵の欠片』とか『人柱』とか言われても、そんな特別な感じはしないけど……」

 日和は困ったように自分の体を見下ろす。

 確かに世界を変えてしまえるような力を自分達が持っていると言われても、いまいちピンとこない。


『いいや、それは違うよ』


 しかし、日和の言葉をアレンははっきりと否定した。


『確かに『鍵の欠片』の力そのものは、見つかりにくいように隠されてあるけどね。君たちが使っているその力は、紛れもなく特別さ』

「ん? そうなのか?」

 アレンの話に少し興味を持った様子の心。


『君たちが普通に扱っているその力は、常人ならば十数年修行しないと辿り着けない域にある』

「常人──修行? ……ちょっと待ってください。この能力って、まさか誰でも使えるんですか?」


 アレンの言葉が引っ掛かったのかアレンに問い掛ける茉菜。


「なにィ!? 誰でも使えるなら超能力じゃねーじゃないか!」

 しかし茉菜の問いにアレンが答えるよりも前に心が驚愕に満ちた声を上げる。


『ああ、そうか、ついつい自分の常識で物を語ってしまった。ごめんよ、こちらの世界ではあまり常識的ではないんだったね』

「おい、ちょっと待て! そこんところ詳しく話を聞かせろ!」

『勿論だとも。元より、そのつもりだったしね』


 心の若干、と言うかかなり失礼な物言いにもアレンは全く気を悪くせずに言った。


『さてどこから話そうか。──よし、まず君たちが使っている『力』の説明から始めよう──』


 


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