37 グラップラー サイネリア姫~その⑩

それから私は兵士たちに王と王妃を捕らえるようにお願いした。


兵士たちは困惑した表情のまま、ただ私の言いなりに動く。


私は自分の異能を理解していた。


私の言葉を聞いた彼らの動きが止まり、そして頼んだだけでこの王の間へと連れて行きてくれた。


そう――。


すべては兵士たちが私の言葉で罪悪感を感じ、自分を否定し始めてからだ。


私は自分を嫌う人間を操れるのだ。


兵士たちは少なからず私の境遇や状況に同情していたのだろう。


それで、自分にも何かできたかもしれないとか思っていたのかもしれない。


それが自分を否定させ、私の思い通りに動くようになったのだ。


「なんのつもりだサイネリア!?」


兵士たちに捕らえられた王が叫んでいる。


今までずっと私を痛めつけてきただけあって、こんな状況になってもその高圧的な態度は変わらない。


きっとまだ私を以前の反抗できない娘のままだとでも思っているのだろう。


反対に王妃のほうは心底怯えている。


この女はただ強いほうの言うことを聞くだけなのだと、このときに理解した。


「別に~。ただちょっと訊きたいことがあっただけよ」


それから私は生贄のことを訊ねた。


私を魔女に捧げたからこそ、この国が豊かになったのを知っているのかと。


王は黙ったまま何も言わなかった。


それは王妃も同じで彼女はただ震えているだけだ。


この二人からは何も感じない。


きっと私に対する罪悪感がないのだろう。


まったくもって自己否定の匂いはしなかった。


こいつらは自分の娘を魔女に捧げても何も感じないのか。


私がどんな仕打ちに合ってきたのかを、ろくに知らない兵士たちですら罪悪感を感じているというのに。


私はどこかで信じていた。


いや、信じていたかったといったほうが正確かもしれない。


両親が自分のしたことを少しでも反省していればと。


あるいは本当に悪気はなく、ただ娘のためを思ってしつけをしていたと。


でも、そんなことはなかった。


こいつらは最初から私のことを不満のはけ口にしていただけ。


自分の都合で悪いとも思わずに、魔女への供物にしただけなのだと。


私の手に入れた異能で、二人を操ることができないのがその決定的な証拠だ。


「……よくわかったわ。じゃあ、私も好きにする」


私はそういうと、二人の拘束を解かせて兵士たちにその周りを囲ませた。


そして、二本の剣を二人に向かって放り投げる。


「さあ、これから殺し合いましょうか。その後は、勝ったほうと私が一対一で戦ってあげる」


私の言葉が戦いの合図となり、二人が剣を拾った。


やはり腕力でいえば王のほうが強く、王妃はあっという間に剣で一突きにされて死亡。


恐怖で表情が固まったまま、床にバタンと倒れた。


「父親に、王に逆らうなぁぁぁ!」


そして剣を持った王は私へと襲い掛かってきたけど。


なんなのこの動きは?


遅すぎてあくびが出るほどじゃない。


こんなのに私は怯えていたの?


刷り込みって怖いわね。


こんな自分よりも弱い人間のことをずっと震えさせるんだから。


私は飛びかかってきた王の背後へと回り込み、その両腕を掴んでへし折る。


鈍い音ともに悲鳴をあげる王。


でも、私は容赦しない。


次は身体を倒してから両足をへし折り、そのままあばら骨を踏み折る。


「や、やめてくれ! 私が悪かった! 許してくれぇぇぇ!」


王はここでようやく私に謝ってきた。


でも、王からは自己否定の匂いはせず、その謝罪がただの演技だということがわかる。


助かりたいだけで嘘をついている。


この男は本当にどうしようもない。


どうせなら最後まで私を見下してほしかったな。


「あなたがいくら酷いことをしても、私はけっして音をあげなかったのに~。もう降参しちゃうの?」


「悪かった……許してくれサイネリア……頼む、頼む……」


「……つまらないわね」


私は王の両目を素手でくり抜き、すべての手の指を力任せに引っこ抜く。


「や、やめろぉぉぉ! やめてくれ! ぎゃぁぁぁ!」


「あっ、あとこれも忘れちゃダメだよね」


それからさらに鼻をもぎ取り、両方の耳もちぎってやった。


そして、それを王の口へと運び、無理矢理に食べさせる。


「どう? 自分の体の味は? 性格が歪んでいるあなたのことだからさ。きっと濃厚なはずよね」


それを見ていた兵士たちの中から嘔吐する者が現れた。


どうやらいくら異能で操っていても生理現象には逆らえないみたい。


それからさらに腕、足、骨、内臓と食べさせ続けたけど、王の反応が面白くないからすぐに飽きちゃった。


もういいやと思った私は、後は兵士たちに自分たちごとこの国を燃やすように頼んでひとり出て行く。


夜だったせいか、遠くから見た国が、まるで消えることない花火のように見えて綺麗だった。


それから私は好きなように食べて、寝て、殺してを繰り返し、烙印の儀式の日までの月日を楽しんだ。

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