16 アーチャー ブルーベル姫~その①
離れたところからでもスプリングの吐いた炎が見える。
仕掛けた火薬の爆発もあって、側に生えていた森の木々にも燃え移ったみたい。
ああ……自分はなんてことをしてしまったのかと、心を痛める。
目から涙がこぼれ落ちる。
良い人たちだった。
少なくとも、こんなところで出会わなければ友だちになれたかもしれない。
「ごめんなさいぃ……ごめんなさいぃ……」
涙と共に言葉を呟く。
口にせずにはいられない。
おそらくまだ生きているだろうけど、あれほどの爆発を受けたからには軽傷ではないはず。
たぶん、あたしがとどめを刺さなくても、サイネリアが放った刺客に殺される。
つらい。
苦しい。
もうこんなことをしたくない。
誰かを騙したり傷つけたりしたくない。
だけど、ねえねの呪いを解くためには、この残酷な儀式で最後のひとりにならなければいけない。
「もうイヤだけど……ベルはねえねのためにがんばりますぅ……」
むせび泣いていると、あたしに掴まれて飛んでいるスプリングがぐぅぐぅ鼻を鳴らしてきた。
声帯のないウサギであるスプリングが、必死にあたしを慰めようとしてくれている。
本当に優しい子。
お前のような子まで巻き込んでしまって、ベルはなんて悪い子なのでしょう。
だけど、スプリングもねえねが好きだから力を貸してくれたのですよね。
もしねえねがスプリングも烙印の儀式に参加したと聞いたら、きっと悲しむことでしょう。
あたしが参加したことを知っても悲しむはずです。
だけど、それでもねえねのためならベルはなんだってやります。
たとえ何人も殺せといわれても、ねえねを救うためならば殺してみせます。
だから、ベルは泣いてはならないのです。
「スプリング、ありがとうですぅ……。ベルはもう泣きませんよ」
あたしが笑顔で返事をすると、スプリングは嬉しそうに体を振ってまた鼻を鳴らした。
すると、スプリングに掴まっているあたしまで揺れ、あやうく落ちるかと思いました。
そして、スプリングはその柔らかな青い毛を揺らして申し訳なさそうに、また鼻を鳴らしてくる。
大丈夫です。
そんなことくらいで怒ったりしないです。
ベルはたとえスプリングにここから落とされても、絶対に嫌いになったりしません。
ベルもねえねもあなたが大好きなんだから。
ベルの友だちは昔からあなただけなんだから。
ただ……ごめんなさいなのですけどぉ……。
あなたの命をベルにください。
アイビーとチュチュ、それからアザレアに重傷を負わせることに成功したあたしたちは、次にどうするかを考えていていました。
あたしたちの最大の問題は、あの相手の身体の動きを言葉で奪う異能――
きっとサイネリアは、あの人たちのように簡単に騙されてはくれない。
あの全員が集まっていた場所で、いきなり仕掛けてきたのがその証拠です。
おまけにそのときに説明していたこととは違う力も発揮してます。
あの死んでいたはずの甲冑の男たちを操っている力。
結果的に考えると――。
サイネリアの異能とは、相手に言葉を投げかけ、それで自己否定した人を操ることができるということになります。
しかもそれは、自己否定したまま死んだ者ならその後もずっと操作できるということ。
まだ憶測でしかないけど。
もしこの予想が当たっているなら、やっぱりあのときにアイビーたちを殺しておくべきだった。
それは、アイビーたちがサイネリアに操られたまま殺されると、死体のまま襲ってくる可能性があるから。
だけど、今から戻るのはリスクが高い。
もしあの爆発で生き延びていたら、真っ先にあたしたちを殺そうとするに決まっている。
余計な戦闘は避けなければならない。
なぜならば、あたしはこの烙印の儀式の中で、唯一異能も持ってもいないのだから。
いや、たとえ異能を持っていたとしても、身体能力も低く弓矢くらいしか能がないあたしでは、まともにやり合っても勝てる見込みはない。
やっぱりここは、しばらく隠れて様子を見たほうがいいかもしれない。
あの爆発で生き残った人たちとサイネリア陣営が潰し合って、生き残ったほうと戦えばいい。
というよりは、それ以外の案は頭の悪いベルにはありませんでした。
「スプリング、地上へ降りてください。一度どこかに隠れましょう」
そう声をかけると、スプリングはゆっくりと下降していく。
それから、あたしたちは見通しがよく、隠れるところがあった山岳地帯に身をひそめることにしました。
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