第6話 神様!!!!!!
やたらめったら口を動かしてみる。言葉を吐き出すつもりで勢いよく咳をしてみる。うがいをする。喉の薬を飲む。ネットで紹介されていた怪しい呪文を念じてみる。同じくネットで拾った自分で自分の頭を殴りつけるショック療法に挑戦してみる等々……。
その夜、考えつくかぎりの、調べて見つかったすべての方法を試してみたものの、まったく効果のないまま俺は朝を迎えた。
(終わった……)
俺は電池の切れかけたロボットさながらにふらつく足取りで土手を歩いていた。
(俺の恋は、はじまったと思ったとたんに終了だ)
彼女に会えても、今度こそ本当におはようのおの字も口から出ないのだ。せっかく気分だけでもイケてる男子っぽくふるまえていたのに! 今さら寝不足と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を、マスクの上からでも彼女に見られたくなかった。
俺はいつもより二十分も遅く家を出た。遅刻すれすれのこの時間なら、絶対彼女に会わないと思ったからだった。
「おはよう!」
登校する生徒の姿もまばらになった道を、彼女が駆け寄ってきた。どうやら俺が来るのを待っていたらしい彼女は、目が合うなり「話があるの」と言った。
マスクから覗く彼女の頰が薄赤く染まっていた。棒立ちになった俺の様子がいつもと違うことに気づく余裕もないほど緊張しているのが、伝わってくる。スクールバッグの持ち手を握る彼女の指に、色が変わるほど力がこめられたのがわかった。
(え……? うそ? まさかこれって?)
告白されるかもしれない期待が、にわかに膨れ上がった。
が━━次の瞬間。もし告白されても自分はどんな言葉も返せないことを思い出し、俺の胸はつまった。息もできないほどの苦しさが襲いかかってくる。
(出てこいっ! 出てこい、俺の声!)
ウンウン心のなかで唸った。全身の力を振り絞るようにして気張ると、頭にドッと血が上ってきた。
彼女のマスクの口元が少し凹んだ。小さく深呼吸をしている。
「松山君のこと、毎朝見かけてずっと気になっていました。友達からでいいんです。私とつきあってくれませんか?」
う~~っ! ううう~っ!
きっと真っ赤になっているに違いない俺は顔中を熱くし、頭が爆発しそうになっても頑張るけれど、やはり言葉は出てこなかった。
(頷くだけじゃ駄目なんだ! ちゃんと返事をしないと!)
見えない何かが……、ひょっとしたら神様のゲンコツか何かが喉に蓋をしている。声が通るのを邪魔している。
いったいどうすればいいのか? いくら神様にお願いしても無駄なのは、ひと晩かけて嫌というほど思い知らされていた。あとはもう、全身に渦巻くこの強い思いに縋るしかなかった。
彼女に好きだって言いたい! それだけ伝えられれば、明日はまたしゃべれなくなってもいいから!
強敵を倒したいと一心に願うヒーローの、その強い気持ちがあわやのピンチで驚異的なパワーを呼び覚ますように、一発逆転を狙うしかなかった。
「あの……ね。返事をもらう前に、聞いてほしいことがあるの」
彼女は告白した後ずっと俯けていた顔を、思い切ったように上げた。
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