第34話 幕間とあるリス獣人の見た光



 私の名前はチコ。

 亜人と呼ばれるリスの獣人なの。


 実は今年で9歳になるんだけど、身体が小さいからか見た目より幼く見られちゃうんだ。

 でも、私は全然気にした事ないよ?

 だってみんな優しいから嫌な事なんて言われなかったもん。


 それと私ね、お家のお手伝いするの好きなんだ。

 みんなの役に立ててるって感じるし、

 なによりみんなが笑ってくれる事が嬉しい。

 パパもママも村のみんなも私に優しく笑ってくれるんだ。

 だから私ね、この村の事大好きなの。



 でも、あの日、私の全部、無くなっちゃった。




 あの日は朝からいい天気だったんだ。

 私はいつものようにパパと白リンゴの収穫を手伝ってたの。


 白リンゴの果樹園はね、村の隅っこの方にあるの。

 村長さんから場所を借りて育ててるんだってパパが言ってた。



 その果樹園で収穫してたんだけどね、村から悲鳴が聞こえたの。

 そしたらパパが、


「魔物が村に入ってきたかもしれないからチコはあそこで隠れてなさい」


 って言ったんだ。

 私は魔物を見た事なかったから凄く怖かった。

 パパもママもみんなも大丈夫か心配で、不安になったの。

 でもパパが優しい顔でね、


「パパとママは大丈夫だから心配しないでいいからね?」


 って言ってくれたの。

 だから私はパパの言葉を信じて果樹園の木の上に隠れたんだ。




 私ね、待ってたの。

 パパが呼びに来るのをずっと待ってたの。

 でもいつまで待っても迎えに来てくれなかったの。


 だから心配で、1人でお家の方へ少しずつ隠れながら帰ったんだ。

 運が良かったのか分からないけど、魔物は見なかったの。


 でもお家に近づく程暑くなってた。

 周りのお家がね、燃えてたの。


 だから私走ったの。

 なんだか嫌な気持ちがして走ったの。


 そしたらね、パパとママがいたの。

 お家の近くで2人で倒れてたの。


 私ね、分からなかったんだ。

 なんでパパとママは地面で仲良く寝てるんだろう?

 周りは燃えて暑いのになんで起きないんだろう?って。


 だからパパとママを起こしに行ったんだ。


「パパ、ママ、どうしたの?なんで、寝てるの?」


 でも私が何を言っても、身体を揺すっても起きてくれなかったの。



 でもね、ホントは分かってた。

 分かってたけど、信じたくなかったんだ。



 パパもママも地面にが出来てたから...

 それに他にも同じように倒れてる人がいっぱいいたから。


「パパぁ、ママぁ、起きて、よぉッ‼寝てないで、起きて、よぉ...」


 いくら揺すってもパパもママも起きないの。

 涙が、止まらなかった。

 怖くて心臓もバクバク鳴ってた。


 それでも、私は返事が聞きたかったの。


「チコが、ズズッ、迎えにきたのッ‼

 だから、グスッ、起きてよ、パパぁッ‼ママぁッ‼」


 でも、パパもママも目を開けてくれなかったんだ。

 



 そこにね、大きい鎧を着た魔物が来たの。

 その手に持ってる斧には赤い水が滴ってた。


 あの魔物がみんなを、パパとママを殺したんだってすぐに分かった。


 私は怖くなって逃げたの。

 パパとママを置いて、怖くて逃げたの。

 


 熱かった。辛かった。苦しかった。

 目も、身体も、心も、何もかも。

 とっても息苦しい場所に感じてしまったの。


 だから走ったの。

 何もかも忘れるくらいに全力で走ったの。



 そんな私の目の前にまた鎧を着た魔物が現れたの。

 その魔物が手に持つ剣で私を斬りつけてきたんだ。


 走ってたからか、たまたま足を斬られただけで済んだけど痛くて、痛くて、悲鳴をあげたんだ。


 斬られた足は凄く痛かった。

 それよりもこの絶望に耐えられなかった。

 だから私の中の心の悲鳴が口から出たんだと思う。



 でもいくら叫んだところでパパもママもみんなも帰ってこないのは分かってた。

 分かってたから私は諦めたの。


 今を生きる事を。


 そこに私の悲鳴を聞いてもう1匹の魔物が現れたの。

 目の前の2匹の魔物は私にどんどん近付いてきたんだ。


 私はこの時死を覚悟したんだ。

 でも、本当は生きていたかった。

 生きていたかったから涙が止まらなかったの。



 そんな私に、どうしようもない私に、救いがあったの。

 涙で何も見えないけど何かが聞こえて、魔物は倒れたんだ。


 そして心に響く綺麗な声が聞こえたの。





「君、大丈夫だった!?」





 私には女神さまに思えたんだ。

 だから、ちゃんと見たくて涙を拭ったの。

 

 そこにはね、やっぱり女神さまがいたの。

 天使様みたいに全身が真っ白だったの。

 小さなお姉ちゃんだったけど、とっても綺麗な人だったの。


 女神のような綺麗なお姉ちゃんは目を閉じて私に魔法を使ってくれたんだ。


 温かい、光の魔法。

 痛みが消えていく、温かい魔法。

 私の身体の傷が、心の不安が癒されていった。


 本当に女神さまかもしれない、なんて思っちゃった。


 そんな私に綺麗なお姉ちゃんは優しく、


「大丈夫?痛くない?」


 って笑顔で聞いてくれたの。

 その笑顔を見て、私の中の絶望はかき消されたんだ。

 だからまだ落ち着かないけどちゃんとお礼を言ったの。


 そしたら笑顔で「良かった」って答えて立ち上がったんだ。


 

 私はそれから立ち上がって、綺麗なお姉ちゃんと商人っぽい服のお兄さんが魔物を倒しながら村を見て回っていくのに着いて行ったんだ。


 商人っぽい服のお兄さんは凄く強い人だった。

 それよりも私はお姉ちゃんが気になったの。


 綺麗なお姉ちゃんはまるで希望の様な人だったんだ。

 この地獄のような村を懸命に走って、怪我人を癒していくの。

 怪我を治した人に心の底から笑顔で心配してくれるの。


 その姿に私はなりたい自分を重ねたの。

 私もあんな風になりたいって。



 お姉ちゃんは多分助けれる人と、助けれない人が分かるみたいで、助けれない人を通り過ぎる度に小さく「ごめんなさい」って言ってたのを私は聞いたの。


 きっと私と同じくらい心が痛いのかもしれないって思ったの。

 それでも、お姉ちゃんは自分に出来る事をする為に走っていたの。

 

 途中、私のパパとママがいる場所を通ったんだ。

 私は心のどこかで期待したんだけど、お姉ちゃんは...の。


 また心が辛くなったんだけど、お姉ちゃんは諦めずに懸命に走っていたの。

 だから、私も前を向くことにしたんだ。


 お姉ちゃんはずっと走ってたんだ。

 多分少しでも助けれる人を救うために。


 自分の事よりも他人の心配を出来る人。

 生きる人に希望を与えてくれる人。

 

 私はお姉ちゃんみたいになりたいって思ったの。

 だから私はパパもママも死んじゃったけど生きようと思ったの。

 村のみんなの笑顔がもう見れないけど頑張ろうと思ったの。

 自分の為に、他人の為に。



 自分に出来る事を頑張ろうと思うの。

 それが私の、


 チコの、パパとママへの恩返しと信じて。

 

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