第26話 ノゾミはこの世界にいる


「ん...ここは?」




 僕はどこか知らない所にいるみたい。

 見えるのは見覚えのない天井?

 それに身体には毛布が掛かっている。

(あれ?僕はいつ寝たんだろう?)


 なんか記憶が曖昧あいまいでよく覚えてない。


 僕は寝起きの身体に鞭を打って、上半身を起こした。


 「ユウッ!?目覚めたのかッ!?大丈夫か!?私が分かるか!?」


 アビゲイルさんが身を乗り出して僕を見てる。

 アビゲイルさん?どうしたんだろう?

 なんでそんなに泣いてるの?


 「どうしたんですか?アビゲイルさん?なんで泣いてるんですか?わッ!?」


 「丸々一週間寝たきりだったんだぞッ‼ちゃんと生きてて...良かったッ‼ズズッ」


 アビゲイルさんが泣きながら僕に抱き着いてきた。


 え、何?僕一週間も寝てたの?

 そういえば全身が痛い気がする。

 筋肉痛?


 それより、


 「生きてて、良かった?何かあったっけ?」


 全然心当たりがない。

 僕に何かあったっけ?ん~?


 不思議に思う僕に、アビゲイルさんが何があったのかを教えてくれた。






 ・・・・・


 「そっか、魔族がパツール村を...」



 なんとなくは思い出せた。

 一週間経ったからかしっかりとは覚えてないんだけど。


 あの時魔族の少年は僕を殺そうとしていた。

 僕は自分の運命に涙した。

 でもルナに励まされた、そんな気がする。

 

 そこからの記憶がなかった。



 だけどアビゲイルさんがその後の話を教えてくれた。





 どうやらあの場にいた全員倒れたらしい。

 かろうじで意識を取り戻した黄色い髪のお兄さんが事の結末を見たという。



 あの場に救世主が現れたらしい。

 それは

 その力は圧倒的で、驚異的。

 魔族は恐れをなして逃げたらしい。

 その後赤髪の勇者は燃え盛る炎をいとも簡単に消してその場を去ったとか。



 パツール村にはオークの姿はなく、残ったのは焼け崩れた建物だけだったらしい。

 黄色い髪のお兄さん達は意識を戻した生き残りと他の生存者と一緒に隣町へと移動してきたのだという。



 そして現在に至る、らしい。



 そうなんだ!?

 勇者が助けてくれたんだ。

 この世界にはゲームのような勇者がいるんだ。

 なんか、凄いッ‼


 人の為に、人を助ける為に勇者はこの世界に実在するんだ。

 この世界が現実のファンタジーな世界だと分かってはいたけどゲームの主人公みたいな勇者がいるとは思わなかった。


 会ってみたい!

 見てみたい!

 きっとカッコイイんだろうな~。


 「アビゲイルさんッ‼いつか勇者さんに会えるかな!?」

 

 僕は勇者に憧れているんだ。

 出来るなら僕が勇者になりたいくらいだけど現実的に無理だと分かっている。

 ならせめて会ってみたい。

 僕の憧れの人を見てみたい。

 

 僕はアビゲイルに期待のまなざしを送った。


 「いや、そんなに目を輝かされてもな。私も会った事ないからな?」


(そっか、残念。

 でも、もしかしたらいつか会えるよね?)

〈...そうだね...会えたらいいね?...〉


(あ、ルナ?

 うん。ありがとう。

 いつもルナに励まされて元気になるよ)

〈...そんなことない...でも元気でよかった...〉



 ガチャッ



 ルナと会話していると目の前の扉が開いた。

 現れたのは黄色い髪のお兄さんだ。


 「お?目ぇ覚めたのか?良かったな、無事で」

 「なッ!?お前ここには絶対に入るなと言っただろうッ‼」


 アビゲイルさんが何故か凄く怒ってる。

 ここまでみんなを守って助けてくれた優しい人なのに。


 僕は黄色い髪のお兄さんが心配してくれたから笑顔で答えた。


 「ありがとうお兄さん。僕は大丈夫です。

 それにお兄さんのおかげで色んな人が助かりました」


 僕は心からお礼を言った。

 助けてくれた事実は変わらないし。



 「ユウッ!?コイツは動けないお前を狙ってここに入って来たんだぞッ!?」

 「ッ誰がンな事するかッ!?看病しに来たに決まってんだろうがッ‼」


 「ウソをつくな!こんな可愛い少女が動けずに寝ていたんだぞッ!?」

 「この子に手ぇ出せる訳ねぇだろうがッ‼現実を見ろ現実をッ‼」


 「動けない少女を攫いに来たんだろうがッ‼これが現実だッ‼」

 「お前馬鹿かッ!?」



 2人は何を言い争っているんだろう?

 なんか微笑ましい感じ。



 「なんか兄妹喧嘩みたい」


 「「はァッ!?」」


 声が重なってる。

 意外と仲良くなってるのかも?



 「ゴホンッ。あー、悪ぃ。こんなトコで。

 ところでお前ユウで合ってるか?」

 「ちょっ、......」


 

 急に黄色い髪のお兄さんが真面目な顔で僕に聞いてきた。

 アビゲイルさんは黄色い髪のお兄さんを警戒している。



 「はい。僕はユウといいますけど?」


 「俺はカインだ。2つ程話がある。

 まずは、勇者からお前に伝言がある」


(え?勇者さんから?僕に?

 会った事も無いのに?) 


 「...ユウの妹?が、魔族の地、にいるらしい」

 「お前ッ‼何をそんなにわかな事を!?

 ユウの妹が何故魔族の地になどッ」

 「うるせぇッ‼横から口挟むなッ‼...名前はノゾミ、か?」


 「え?妹?ノゾミ?のぞみ

 ...ウソッ?本当にのぞみ?」

 

 

(え?本当にのぞみ?この世界にいるの?

 僕がいるこの世界に、本当に、のぞみが?)


 僕の大事な家族。僕の大事な妹。

 もしのぞみなら僕にとっては嬉しい話だよ?



 でも、その話が本当だったなら希は一度...



 僕は涙が出た。止まらなかった。

 だってこの世界にいるということは、...


 本当にこの世界に来てから泣いてばっかりだ。



 でも...希は僕の生きる希望になった。

 は妹を助けないとッ‼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る