第25話 聖女か、鬼か



 ~黄色い髪の青年~



 ッ痛ぅ‼



(あの魔族のガキ殺気と一緒に風魔法乗せやがったなッ?!)

 肩に風の刃による傷が出来ている。


(盾技スキルのおかげでこいつ等に怪我はないが、

 意識は保てなかったか)




 俺は今うつ伏せになって倒れた演技をしている。

 いわゆる死んだフリで様子をうかがっているって事。


 どうにもあの白い嬢ちゃんが気になる。

 アレは普通の人ではない。

 いや、人なんだがというべきか?


 まだ10代前半くらいの少女だろう?

 ならここで意識失ってるガキとさほど変わらねぇ筈なんだよ。



 なのに、なんだ?



 どうしてオークを前にしても泣きださないんだ?

 どうして生きている人の場所が分かるんだ?

 どうして回復魔法が使えるんだ?

 どうして自分の事より他人に笑顔を向けられるんだ?


 なんなんだ?あの少女は?

 おまけにあの見た目だ。


 白。ただただ無垢な白。

 あどけないが女神のような美しく整った優しい顔。

 

 そんな可憐な少女が他人の為に動いている。

 対価も報酬も求めない。

 求めたのは他人を助けるのを手伝ってくれ?

 なんだよそれ。



 他人を救うその姿はまるで...聖女。




 俺が知ってる女も似たような事をしてるが違う。

 あの嬢ちゃんはきっとだ。




 なら俺は守らなくてはならない。

 俺の守りたいモノを守る為にも死なせたらならない。


 俺の計画に協力してくれないにしても世界の為に死なせてはならない。



 この世界にだ。

 

 

(だがあの魔族のガキただ者じゃねぇ...)

 と同じ・・・いやももしかしたら魔族だったのか?


 俺が考えてるうちに事態は加速していた。



 「さぁ、邪魔者はいなくなった。大人しく、死ね」



(はぁッ!?ウソだろッ!?

 あの魔族のガキマジで殺す気だッ‼

 馬鹿みてぇな魔力を垂れ流してやがるッ‼

 アイツ何者なんだよッ!?ただの魔族じゃねぇのかッ!?)


 嬢ちゃんは尻もち着いたまま動こうとしてない?

(クソッあの嬢ちゃん立てねぇのかッ!?)



(どうする?どうする?どうするッ?!)


 俺はこんな所でッ...‼だがあの嬢ちゃんがッ‼クソッ‼



 俺は自身のを天秤にかけたが、あの少女にを置いた。

 駆け出す態勢になりいざ走り出そうとした時、それは起きた。




 「...ユウを...泣かせたな...」



(ッ!?なんだ?嬢ちゃんの雰囲気、感じが違う?

 今までの優しさを感じない。

 感情を感じさせない無機質な声?いやそれでも嬢ちゃんの声だ。

 どうしたんだ?)

 俺はもう少しだけ様子を見ることにして息を殺した。



 「なんだぁッ?やっぱり死にたくないですぅッ、てかぁッ!?」


 「...まずは...ルナの力を少し...」


 言うと同時に嬢ちゃんは大きく息を吸った。

 すると村の炎全てが嬢ちゃんの身体へ吸い込まれるように入っていった。


(なッ!?何をしたんだッ!?)

 「なッ!?テメェなんだその色はッ!?」



 嬢ちゃんがいたその場所にはが立っている。


 いや、嬢ちゃんのなった?



 「シロツキぃ、一体何をしたッ!?」



 燃え盛っていた村がウソの様に静まり返り、炎が消えた。

 もちろん建物は焼き焦げていて灰の匂いも残っている。

 だが熱が、息苦しさが、夢だったかのように消えている。


 多分やったのはあそこに立っている嬢ちゃんだろう。


 「...ユウに与えた絶望...お前に返す...」



 嬢ちゃんは消えた。

 いや、目で追えなかった。


 気付いたら魔族のガキが吹っ飛んで廃屋の壁にめり込んでいた。


 「ッ!?グハァッッ!?な、馬鹿な、なんだその力ぁぁッ‼」


 魔族のガキは血反吐を吐きながらも嬢ちゃんに向かっていく。

 

 「...ルナの手は...いくらでもけがれていい...」


 少女はまた消えた。

 

 「...でもユウの心は...けがさせない...」


 魔族のガキも気付いたら消えていた。


 「...ユウの邪魔は...許さない...」


 気付いたら少女は白い髪に戻っていて広場の真ん中に立っていた。

 

 俺は今何を見ているのか理解できなかった。

 白い嬢ちゃんは間違いなく聖人、聖女だと思えた。

 だが、今の嬢ちゃんは違う。

 無機質な感じとは裏腹にだ。


 自分の事をルナというのに自分の筈のユウに対して怒っている?


(どっちが本当の嬢ちゃんなんだ?)


 疑問に頭を抱えていると上からなにかが落ちてきた。


 「...ッグハッ‼クソックソッッ‼...ハアッハァッ...俺はこんな所でッ、死ねないッ‼シロツキィッ‼テメェに面白れぇ情報くれてやるから俺を見逃せぇッ‼ハァッハァッ。」


 焼け焦げた身体で空から降ってきた魔族のガキはまだしぶとく生きている。

 こんな奴は早く殺した方がいい。

 これまでいくらの人の命を弄んだのか分からない様な奴だ。

(嬢ちゃん、どうした?

 世界の為に今やらなければまた被害が起こるぞ?)


 「...話による...何?...」


 「だッ。アイツはにいるッ‼」


 「...クロツキ...が?...そう、じゃあどっかに行って...」


 「ッ!?後悔しても遅ぇからなッ!?次は必ず殺すッ‼」



 魔族のガキはよろけながらも立ち上がり闇の穴を作り出した。

 きっと転移か何かの魔法だろう。

(お、オイオイッ‼

 なんで逃がすんだッ!?

 今ならまだ俺でも間に合うッ‼)


 「ッ!?じ、嬢ちゃん?ど、どうした?」


 気付けば目の前に嬢ちゃんがいた。

(クソッ逃がしてしまった・・・)


 「...ユウに...って伝えて?...」


 「は?...あっオイッ!?」


 言うだけ言って嬢ちゃんは気を失ってしまった。

 なんなんだこの嬢ちゃんは?

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