第5話 祓い屋見習いと半妖の雪女(5)
「すみません、今、祖父が出かけているもので……」
赤ん坊を抱いた女性は、
蓮は門をくぐり、引き戸になっている玄関を開けようとしたが、鍵がかかっていて、祖父である鏡明は留守のようで、普段鏡明の身の回りの世話をしてる門下生もいない。
蓮は先に坂崎を客間に通すと、そのすぐ隣の部屋が蓮の部屋になっていて、雪乃にはそこで漫画を先に読んでいるように言った。
(どうしよう……私、ここにいたらマズいんじゃ?)
雪乃は帰るタイミングを失ってしまい、仕方がなく、そっと襖を開けて、客間の様子を伺うと、赤ん坊と目があった。
(————あの赤ちゃんに憑いてるやつ……そうとうヤバそうだけど、家の中に入れちゃって大丈夫なのかな?)
雪乃の見立てだと、あの赤ん坊には呪いがかかっている。
それもかなり強い呪詛だ。
雪乃は半妖であるが、何かできるわけではない。
母のように妖術も使えないし、ほとんど人間なのだ。
それでも、普通の人間とは違うことは明らかで、人ならざるモノを見ることはできる。
「それで、えーと、まずはどう言った内容か、お聞かせください」
「先月の……初めのことです。娘が……この子を出産してすぐに、他界しまして————葬儀の後、この子の体に痣が……夜中にうめき声をあげて、苦しんでいるのです。医者に見せても、原因がわからず……」
坂崎は涙ながらに語った。
その間も、赤ん坊の首は人間とは思えない動き方をしながら、雪乃の方をじっと見つめている。
もはや、人間のでもフクロウの稼働域ではない。
360度、首はぐるぐる回る。
縦だけじゃなくて、横にも。
(痣も大変そうだけど、こんなにぐるぐる首が動くんじゃ、気持ち悪いわね————)
「痣ですか……これは確かに、何か悪いモノが憑いていそうですね…………」
「そうでしょう? どうしたものかと困っていたら、こちらを紹介されたのです。祓い屋に頼んだ方がいいと……。こんなに可愛い顔に、こんなにたくさん痣ができてしまって…………死んだ娘に、このままでは顔向けできないわ————」
(……あれ?)
雪乃はあることに気がづいた。
(さっきから、この二人、痣の話しかしていない…………首は?)
そう、首が回って見えているのは、雪乃だけだったのだ。
普通の人間には、呪いの現象としては痣しか見えない。
雪乃は当然、祓い屋見習いである蓮にも、見えているものだと思っていた。
しかし、実際には、蓮は何も見えてはいない。
この祓い屋見習いは、幽霊も妖怪も、何一つ見ることができないのだった。
それに、蓮は、まだ何もできない。
簡単な祓いの術ぐらいしか教えられていない。
本当は、話だけ聞いて、鏡明が戻って来たら伝える予定だった。
ところが、正義感の強い蓮は、どうにか助けなければと思いながら、赤ん坊の顔をじっと見つめて言った。
「何が原因かお調べするので、ご自宅へ伺ってみてもよろしいですか?」
(ちょっと……このまま行って大丈夫なの? 大丈夫なの? この祓い屋…………)
祓い屋に会ったら逃げなきゃならないのに、雪乃は祓い屋として明らかに才能がない蓮が心配になってしまい、勢いよく襖を開ける。
「私も行くわ!!」
蓮と坂崎は驚いて雪乃を見た。
「小泉さん……危険かもしれないんだよ?」
「大丈夫……!! 私、その……怪奇現象に興味があるの……っ!! さっきの、祓い屋って話、私、信じるわ!!」
雪乃がそう言っている間にも、赤ん坊の首はぐるぐる回っているのに、やはり蓮は気づかない。
(このまま一人で行かせて、私のレンレンに何かあったら大変だわ!!)
雪乃は蓮を守る為、坂崎家へついて行くことにした。
下手をしたら、自分が祓われてしまうかもしれないのに————
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