第162話 運もタイミングも悪い

「えっ……トウマ……」


 私は軽く口が飽きっぱなしでトウマの方を見ていたが、トウマも自分の目を疑い何度か瞬きをしていた。

 それからちょっとした沈黙が続いたが、直ぐに私はトウマを引っ張り端へと移動した。


「トウマ、ちょっと私を知らない?」

「いや、えっ? ……へぇ? どう言う状況?」

「あ~説明すると面倒なんだけど、とりあえず私を知らない? あっ、私って言うかクリスね」

「えっクリスなら、後ろの方にいるけど……え?」


 今にトウマは状況が理解出来ず、かなり混乱しているが今私が説明するよりも、先にマリアと合流して入れ替わる方が優先だったのでトウマが教えてくれた方を見た。

 そこには少し遠いが、マリアことクリスの姿を認識出来たが隣にはルークがいた。


「何でルークと一緒にいるのよ……」

「あの、アリス? どう言う事なの?」


 トウマが私に質問して来ていたが、それに対して私は「後で言うから」とだけ答え、ひとまずマリアに自分の存在を知らせる為に軽~くアピールをする。

 だが、一向に私の存在に気付かないのである決断をした。

 あ~もう! どうして気付いてくれないの? ……もうこうなれば突っ込んで、マリアの腕を掴んで一瞬で立ち去る強引技をするしかない!

 私は直ぐにでも入れ替わる事だけを考えていたので、とりあえずマリアと2人きりになれれば何でもいいと思っていた。


「よし、行くぞ!」


 クリスに変装したマリアとルークがこちらに近付いて来た所で、私は一気に走り出しマリア目掛けて一直線に近付いて行く。

 よし、このままマリアの腕を掴めばいける!

 そう思った直後だった、真横から突然ジュリルが現れてぶつかってしまい、私はクリスに変装したマリアとルークの前に倒れてしまう。


「いっててて……」

「誰ですの? 急にぶつかって来たのは?」


 私が顔を上げるとそこには、クリスに変装したマリアとルークがこちらを見ており、真横には尻もちをついたジュリルが怒りつつ私の方を見ていた。


「あっ……これは……その……」

「あれ? 姉さん? どうしたの?」

「へぇ? 姉さん?」


 突然クリスから出た言葉に、私は首を傾げてしまうがすぐにそう言う設定だったと思い出し、クリスの名を呼んだ。


「いや~クリスの姿が見えたから嬉しくなって声を掛けに来たんだけど、周囲を見てなくてぶつかってしまって。ごめんなさい」


 私は自然の流れを作りつつ、ぶつかってしまったジュリルに謝りクリスことマリアの助け舟に乗った。

 そのまま私はマリアに目配せをして、ありがとうと伝えた。


「貴方がクリスのお姉さんですのね。噂には聞いてましたけど、おっちょこちょいなのですね。少しは周囲を見て頂けると嬉しいのですけど」

「本当に申し訳ない。弟に話があってつい……」

「ジュリル、アリス姉さんって言っても俺たちと同学年だから、あまり敬語を使わなくても大丈夫だよ」

「そうでしたの?」


 ジュリルからの問いかけにクリスが頷いて答えた。

 そして私は会話が終わった所で、クリスに話し掛けようとしたがタイミングが悪いのか運が悪いのか、ウィルとマートル、そしてモランがそこに合流して来てしまったのだ。


「ジュリル、いきなり走り出すなよって、ルーク様。と、クリスか……」

「ルーク様、クリス君お久しぶりです。と言っても、そんなに久しぶりでもないですね」

「クリスにルーク様」

「ウィルにマートル、モランも数日ぶり」

「やぁ、皆」


 その光景に私は軽く頭を抱えた。

 あ~何で人が増えるかな~今じゃなくてもいいのに……

 すると、私の話になりクリスが私の事を改めて紹介してくれたので、私は軽く挨拶をした。


「へぇ~クリスの姉か。美人だな」

「その学院生服から、クレイス魔法学院ですか。夏の合同合宿の時は、あまり話す機会がありませんでしたわね」

「確かに言われてみれば、私もなかったな」

「そ、そうでしたね……」


 そうだ、地獄の夏合宿で一応は見てることは見てるんだ。

 たぶんだけど、女子の割合が多かったから人数的に話す機会がなかったんだと思うけど、それで合ってるよねマリア?

 私は少し不安に思いつつも、ウィルたちの反応からしてそれで合っている様なので一安心していた。

 そして私は改めて、クリスに話し掛けようとするが再び運悪く会場にアナウンスが流れ始め、出場する選手たちは控室に集合する様に言い渡されるのだった。

 更に追い打ちを掛ける様に、後方からメイナがやって来るのだった。


「また抜け出して、どこ行くのアリス!」

「ひっ、メイナ!?」


 メイナは周囲にいるルークたちに軽く挨拶した後、私の腕を掴み控室へと引っ張って行く。


「ちょ、ちょっと待ってメイナ! 私は話があるんだけど」

「話ならまた後で出来るから、先に集合よ。もうそろそろ開会式が始まるんだから」

「いや、でも、本当にすぐだからさ」

「ダメなものはダメ。最近そう言う変な所が無くなって来たと思ったら、急に再発するんだから困ったものね」

「ちょっと! メイナ!」


 そのまま私はメイナに連れて行かれてしまい、マリアとの入れ替わりには失敗してしまうのだった。

 そんな姿を見て、ルークはクリスに小声で話し掛けるのだった。


「おい大丈夫なのか? あんたが出るものにあいつをだして」

「はい、問題ありませんよ。それに、私が選ばれたのは今日ではありませんし」

「えっ、それって……」


 するとクリスことマリアは優しくルークに微笑む。

 その後ルークとジュリルたちは選手入口へと向かって行き、クリスははぐれていたトウマと合流し客席へと向かうのであった。

 そして遂に、学院対抗戦が始まるのだった。

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