第117話 顔に出る

「……お願いします。今の俺たちにはヒビキ先輩の力が必要なんです!」


 メイナに対して懸命に頭を下げつつ、お願いするルークにトウマは言葉が出なかったし、そこまでするとは思っておらず驚いていた。

 また、ヒビキもルークの行動に驚いていたが一番はメイナの態度に対して驚いていた。


「(メイナさん……そんなに俺とのデートを楽しみにしてくれてたのか。頑張って口説いたかいがあった……それに引き換え、ルークの野郎は何で俺にこだわる?)」


 ヒビキはメイナの言葉も聞けルークの頼みも断った事から、声を掛けた。


「メイナさ……」

「ヒビキは黙ってて」

「あれ?」


 ルークは未だに頭を下げたままであり、そこにメイナが声を掛ける。


「貴方はそこまでして、どうしてヒビキが必要なの?」

「変わるキッカケをくれた親友を失わない為です。このまま、ただ見過ごす事なんて出来ないんです。手が届くうちに手を掴み、連れ戻したいんです。その為には、ヒビキ先輩の力が必要なんです」

「ルーク……」

「……」


 その言葉にメイナは小さくため息をついた。

 そして、ルークの耳元に顔を寄せて呟いた。


「さすがにここまで聞いて、断るヒビキじゃないわ」

「えっ……」


 メイナはそれだけ言うと、ルークから離れてヒビキの方を向いていた。


「あんな事を言われたら、私は断れないけど~ヒビキはどうするの~」


 少しとぼけた感じで言うメイナを見てヒビキは、ある事を察し片手で頭を抱え深くため息をついた。


「メイナさん。もしかしてさっきのは、俺が断れない様にあえて雰囲気を作ったんですか?」

「ん? さ~てなんのことかな~。それより、ヒビキはどっちをとるの? 私? それとも後輩?」

「……意地悪ですね、メイナさん」


 メイナはそう呟くヒビキを笑顔で見つめていると、そっとヒビキに近付き囁いた。


「私の好みは、頼りになる人よ」


 と囁き離れようとしたメイナを、ヒビキは両手でメイナの両肩を掴みお返しと言わんばかりに、耳元で囁いた。


「俺は本気で貴方の事が好きなんですよ。これだけは、知っといてくださいねメイナさん」

「っ!」


 突然の事に、メイナは頬を赤くしていたが、ルークたちからは表情は見えてはいなかった。

 ヒビキはメイナから手を離して、ポケットからラッピングされた小さい袋を取り出してメイナに手渡した。


「これ、メイナさんに今日のプレゼント。気に入らなかったら捨ててもいいけど、気に入ったら身に付けてくれると嬉しいな」


 メイナが渡された袋を開けると、そこには猫のネックレスが入っていた。


「何で猫?」

「俺が何も知らないで、好きな人にプレゼントを渡すように見える?」

「……店長め」


 メイナは目線を落として、ヒビキに聞こえない声で呟く。

 そしてヒビキはメイナからルークへと視線を向けた。


「おいルーク。今日はメイナさんの為に、仕方なく、本ッッ当に仕方なくお前らに手を貸してやるよ」

「ヒビキ先輩」

「いいか、勘違いするなよ。俺はお前に同情したわけでも、協力したいわけじゃない。好きな人の為に、俺はお前らに手を貸すんだ。それだけは覚えとけよ」


 それを聞いたルークとトウマは頷くと、トウマはルークに近付きこそこそと話しだす。


「ヒビキ先輩の事だから、絶対に嫌がると思ってたけど結果オーライだな」

「まぁな。あの人のお陰でもある」


 とルークはメイナの方に視線を向けると、メイナはその視線に気付き笑顔で微笑んで来ていた。


「おい聞いてるのか、俺はお前に口説かれた訳じゃねぇぞ。そもそも、口説かれる趣味はねぇ!」

「ま、まあまあ。そこらね、ヒビキ先輩。先輩の主張は分かったんで、本当にお願い聞いてくれてありがとうございます」

「おい、どこに行く気だ!」

「ここじゃ、話ずらいんで別の所で話すんで」

「ちょっと待て、押すな! メイナさん! また絶対会いに行って、今日の埋め合わせはするんで!」


 トウマがヒビキをなだめつつ、とりあえず場所を変えて状況を説明しようと背中を押していく。

 そしてルークもその後を付いて行き、最後にメイナに一礼した。

 それをメイナは手を振って見送り、見えなくなると近くに腰を掛けて貰ったネックレスを見つめた。


「案外とチャラいだけじゃないのかもね、彼は……」


 メイナは貰ったネックレスを握り締めて歩き出す。


「まぁ、また私が行きたくなるような口説き文句を言って来たら、考えてあげようかな」


 そう言ってメイナは、少し嬉しそうな表情で足取り軽く収穫祭を周り始めるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「と、言う訳でヒビキ先輩の力を貸して欲しいんです」

「……断る」

「何でですか! 話が違うじゃないですかヒビキ先輩!」


 ヒビキは、表通りから少し外れた裏路地で両腕を組みそっぽを向いた。

 その態度にトウマは肩を落とすと、ルークが代わりに話し出す。


「ヒビキ先輩。どうして力を貸してくれないんですか?」


 するとヒビキはルークの方に視線を向けた。


「俺は、オービンの事が好きじゃない。だから、オービンが関わっている件には関わりたくないだけだ。例え、それが命のピンチだろうがな」

「そ、そんな……」

「……いいんですか? もし兄貴を助けたら、1つ貸しが作れるんですよ兄貴に」

「っ!」


 ルークは今の言葉に反応したヒビキを見逃さなかった。


「兄貴が気に入らないなら、今ここで助けて貸しを作る事でこの後の学院生活で自由にやりたい事が出来るぞ。悪い話じゃないだろ」

「……オービンの野郎に貸しを作るか……」

「おいルーク……」


 トウマの呼びかけに一瞬ルークは振り向くも、すぐにヒビキの方へと視線を戻した。


「で、どうするんですか? 貴方に時間を割いている訳には行かないんで、答えないなら行きますね」


 そう言うとルークはヒビキに背を向けて離れだす。

 まさかの行動にトウマは驚き、ヒビキを見つつルークの名を呼びながら後を追う。


「待てよ、ルーク」


 ヒビキからの呼びかけにルークは足を止める。


「気が変わった。手伝ってやるよ」


 そう言ったヒビキの表情は、何か悪い事を思い付いたような表情をしていたが、ルークも背を向けたまま悪い顔をしていた。

 その両者の顔を見たトウマは、ある事を思っていた。


「(うわ~性格の悪い所が完全に顔に出てるな……)」

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