第80話 競技場と開会宣言

 大運動会前日の今日は、午前中で授業が終了し午後は各自明日に備えるという事になった。

 教員たちは、明日の為に会場の準備や段取りの最終確認などで大忙しであった。

 私はダンデたちに合流する前に、一度タツミ先生に明日の事を相談し、体力的には問題ないと言われ、一応最終調整はしておけと忠告だけ受けダンデたちに合流した。

 それから簡単な組み手や魔力や魔法の確認を軽く行った後、明日の出場順を再確認した。


「ひとまずその順番で出したが、問題ないな?」

「俺は問題ない」

「私も同意見だわ」

「俺もそうだが、結局ルークの奴は一度も来なかったな」

「こない奴はほっといていんだよ、出場順もこっちで決めたし文句を言う資格はあいつには、ないしな」

「どうせ明日は出て来るだろうし、大丈夫だろ」


 ダンデがそう言うと、ロムロスもスバンも頷いた。

 私もそれに関しては心配してはいなかったが、結局の所ルークとは一度も話す事はなかった為、オービンとの事もあり少し気になっていた。


「とりあえず、今日はこれで終わりにしようか」


 ロムロスの言葉に全員が賛成し、流れ解散となったが時刻はまだ昼下がりであり、私は明日の会場の事をほとんど知らなかったので、どこなのか散歩がてら探すことにした。

 私はひとまず学院の案内図がある共有スペースへと向かった。

 するとそこで、トウマとシンリに偶然出くわした。


「あれ、クリスじゃん。どうしたの、こんな所で?」

「いや、明日大運動会だけど、競技場とかどこにあるか知らないなと思って、下見だけでもしようかと思って探してたんだ」

「そう言えば、クリスはまだ見てなかったのか競技場。なら案内してやるよ、俺たちも今日は特訓とか終わってるしよ」


 トウマの言葉にシンリも頷き、私は2人の言葉に甘えて競技場まで案内してもらった。

 ちなみにトウマとは、あの日だけ少しぎこちない感じだったが、次の日からは今まで通りに話せている。

 私はトウマとシンリに、特訓の話や雑談をしながら競技場へと到着した。


「ここが、大運動会の競技場。こんなにおっきいのか?」

「今年は先生たちも気合入ってるし、少し大きくしたんだろ」

「え? 毎年違うの?」


 私の問いかけにシンリが答えてくれた。

 元々競技場は、グラウンド1つ分より大きい楕円形のものであり、天井は解放している状態で毎年少し装飾を変えるくらいだったらしい。

 だが、今年は街への中継や私たち第2学年と第3学年のガチンコバトルが繰り広げられると噂が広まっているので、競技場を大きく改造したらしい。


 競技場自体を2階建てにし、2階には観客スペースを大幅に増やしており、競技スペースについてはグラウンド2つ分に広げていた。

 中央には、大きく正方形で作られた競技スペースがあり、その外側はトラックになっており本格的な大運動会の競技場となっていた。

 トウマが教員に許可を取ってくれ、中へと入り1階部分の競技スペースに足を踏み入れた。


「すっげ~」


 通路を抜けたその先が競技スペースとなっており、そこに出た時には何かの代表選手の様になった気分になった。

 外側のトラック部分に足を踏み入れ、そのまま中央部部へと向かった。

 中央部は全体は芝生になっており、その上に闘技場の様に大きな正方形のスペースがあった。


「広いな、中央の競技スペース」

「でもこれぐらいないと、『バトルロイヤル戦』は出来ないでしょ」

「確かに、あれは年によっては凄いからね」


 トウマとシンリの言葉に私は、余計に『バトルロイヤル戦』が怖くなり、本当にそれに出場しなくて良かったとホッとしていた。


「そう言えば、確かベックスって『バトルロイヤル戦』に出場するんじゃなかった?」


 私はふと、同じ寮生であるベックスの事を思い出した。

 ベックスを一言で言えば、ひ弱で病弱だ。

 特徴は、猫背でよく咳をしている姿を目にし、イベント事は大抵は休んだり、体力がなくなり見学していたりする。

 私も少し話したことがある程度で、ほとんど交流がない人だ。


「そう言えば、ベックスがそんな事言ってたな。大運動会だけは、全員参加だから辛いとかなんとか」


 シンリはベックスとは同室であるので、ベックスとも仲がいいのかと思っていたがそこまで仲がいいと言う感じではない雰囲気がした。


「おいシンリ、同室だろ。もう少し会話して行けよ」

「いや~あんまりベックス自分の事を話さないからさ、話が続かないんだよね~でも、意外と大丈夫だと思うよ」

「本当? 病弱なベックスが『バトルロイヤル戦』とか大丈夫じゃないと思うが」

「クリスの言う事も分かるけど、あいつライラックより成績は上だから、大丈夫でしょ」

「あ~確かにそう言われると、そんな感じするわ」


 おいトウマ! それは、ライラックに失礼だろ!

 私は心の中で、1人で勝手にツッコミを入れたが、シンリの言葉に何故か納得している自分もいた。

 ベックスは授業とかも普通に聞いているし、魔力の授業も難なくこなしているので、勝手に病弱と言うイメージが先行し過ぎているだけなのではと改めて思った。


「まぁ、ベックスもやる時はやる奴だよ、案外さ。たぶんだけど」


 シンリの言葉に私もそうなのかもしれないなと、納得した。

 その後競技場内をぐるっと一周して見学した後、私たちは競技場の外に出た。


「いや~何か凄く興奮した」

「クリスって何でもいい反応するよね~」

「それ分かる! 何というか、紹介し甲斐があるって言うか、楽しいよな」

「そ、そうか?」


 シンリの言葉にトウマが乗っかって話しているのを聞いて、私自身は首を傾げて聞いていた。

 そのまま私たちは寮へと戻り、一緒に夕飯を食べ、トウマがいない間にシャワーで汗を流した。

 私は少し緊張しつつも、明日は大運動会だと気を引き締め直し、今日はいつもより早く就寝に就いた。


 そして遂に、大運動会当日。

 最初のプログラムは開会式の為、各学年が競技場の外に集合し終えると第3学年を先頭に競技場へと入場すると、大きな歓声が響き渡る。

 観客席には、寮生たちの両親たち以外にも大勢の人たちが来ており、競技場の空中には映像で入場の様子が映し出されていた。

 またその映像は、街の特定箇所の空中に魔道具にて映し出されており、街の人たちも注目していた。

 全学年の入場が終わり、各学年事に整列し終わると全生徒を代表して、オービンが前に出て行った。

 そして片手を上げで開会宣言を行った。


「ただいまより、王都メルト魔法学院の大運動会の開会を宣言します!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る