神の視点バイアス・前編 ~人造人間チェックの町~

※今回の話には、フォールアウト4のサブイベントについてのネタバレがございますので、ご注意下さい。

 

 相も変わらずフォールアウト4の二週目(サバイバルモード)をプレイしております。

 瓦礫と倒木を掻き分け、モヒカンや変異動物の襲撃に警戒しつつ、一つの集落を発見しました。

 “コベナント”と名付けられたそこは、戦前は刑務所だったのでしょう。

 高い塀に囲まれ、無人機銃で厳重に武装されており、防備は堅牢そのもの。

 水も食糧も豊富にあり、家も綺麗に修復されて寝床は清潔。住人の統率が取れていて平和そのもの。

 他の居住地が、野ざらしの廃墟に辛うじてバラック小屋らしきもので雨風をしのいでいる現状が大半である中で、数少ない“町”の体裁を保っている土地と言えるでしょう。

 衣食住の余裕からか、余所者に対して排他的と言う事も無く、むしろ、キャラバンや旅人を快く受け入れる為の無料ホテルまであります。

 強いて変わった所があるとすれば、町へ入る際に“安全テスト”なるものを受けなければならない事です。

 これは正解の無い心理テストのようなものなのですが、世紀末状態の荒野で、これだけまともな居住地を守るには、客人の選定もやむを得ない……と、一応納得は出来ます。

 野球をやるとするなら、何処のポジションが良いのか?

 敵意剥き出しにスラングまじりの罵倒を浴びせられた時、何と答えるか?

 など、これで無害な旅人とヒャッハーの区別が本当につくのだろうか? とは思わされますが。

 

 ……はい、まず無政府状態の世界で、ここだけまともな町が成立している事自体が不自然なわけですが。

 それもその筈。ここの住人は、ある計画に生涯を捧げた同志だからです。

 それは自分の利益度外視で、おもてなしの町を維持できる筈です。

 そして、その目的と言うのが、町に立ち寄った人に例の“安全テスト”をかけて、人造人間であるかどうかを判定する事にありました。

 例えば野球のポジションを訊かれた本当の理由は、人造人間であれば「自分が担当するのが一番効率的なポジションに拘るであろう」と言う意図にあります。

 仮にキャッチャーになりたい、と答えた時、いきなり拘束されて拷問を受けた上で「もう一度訊く。野球をするならどのポジションが良いのか?」と尋問されたとします。

 人は、先にキャッチャーと答えたのが何かまずかったのではないか? と考えます。

 しかし、人造人間にはこの思考の修正が利かないとされています。

 また、スラングまじりの罵倒についても「クアンタム・ハーモナイザーをお前にぶちこんでやる」と言うメタファーを額面通りに受け止めてしまうと言う理屈です。

 クアンタム・ハーモナイザーと言うのが何なのかは作中でもわかりませんが、何らかの機器類である事がまず推察されます。

 そして文脈から、ここで言うクアンタム・ハーモナイザーとは、あくまでも比喩でしかない事も人は推察します。

 しかし人造人間の場合、比喩やスラングと、額面通りの言葉を分別するのが苦手であり、実際に作中で拷問を受けていた容疑者は「科学については詳しくないからわからない」と答えています。

 もしもテストの結果、その人が人造人間であると判定された場合……その人物は秘密の施設に連れ去られ、拷問の末に解剖されます。

 解剖の結果“人造人間の部品”が見つかれば、このテストとしては陽性判定と言う事になります。

 ただし、これらの回答はただの人間でも気質や特質次第で充分にあり得る事ですし、野球のポジションの例で言えば意見を翻せば殺されるかも知れない、と深読みする可能性もあります。

(勿論、その為に複数の設問で補強してはいるのでしょうが)

 私の実際の友人にも、こうした暗喩やレトリックを処理するのが苦手なタイプが居り、それは性格の範疇だろうと思います。

 しかし、この友人がコベナントへ行ったら殺される可能性は大いにあり得ます。

 ちなみに、現状でのテストの精度は70パーセント。

 それも、基準となる母数が明かされない中での70パーセントです。

 ここで重要になってくるのが、人造人間の容疑を確定する方法が、殺して部品を見付ける事しかないと言う事実です。

 つまり、テスト単体で陽性判定が出たとしても、結局被疑者を殺害する必要があります。

 これが仮に「テストの判定に関わらず、被疑者を全て殺した」のが母数だった場合、言うまでもなく30パーセントの人が冤罪で殺されている事になります。

 しかし、テストをパスした主人公に何ら危害が加えられていなかった事を鑑みれば「陽性判定の出た被疑者の7割が人造人間だった」と言う意味なのでしょう。

 ……一見して前者よりはマシに思えますが、このパターンだとすると新たな問題が浮上します。

 逆説的に「テストをパスした人の中に人造人間が居る」可能性について全く考慮されていない事です。

 実際、主人公の仲間に出来る人造人間も何人か居り、彼ら彼女らがテストで引っ掛かる事はなく、普通に歓迎されます。 

 ゲームの自由度を優先して作られたと言えばそこまでですが、ある勢力に所属する仲間を、別の敵対勢力の拠点に連れていくと外患誘致として主人公ごと敵対されるイベントが他にもある事から、このコベナントでは仲間がテストに引っ掛からなかったと見るのが妥当でしょう。

 以前ご紹介した、主人公人造人間説のロールプレイとも矛盾しません。

 つまりこの安全テスト、冤罪を出すだけではなく、逆に肝心の人造人間を素通ししてしまう危険も併せ持っているのです。 

 

 とにかく、こうしたテストを何人もの人に試す事でデータを蓄積していき、確実に人造人間を見破る方法の確立が、コベナントの最終目標でした。

 その為に居心地の良い居住地を築き、無償で旅人をもてなす事で、知人づてに聞いたり、噂を聞き付けた更なる客(被験者)が町にやってくると言う寸法です。

 コベナントの人々は、何故そこまでして人造人間を炙り出そうとしているのか?

 この町の住人は全員が、初期型人造人間による暴走事件や、地下研究機関インスティチュートの引き起こした入れ替わり事件で家族を失った、被害者遺族であるからです。

 コベナントの首謀者は幼い頃に家族を皆殺しにされ、人造人間への復讐のために科学者となりました。  

 そして、同じ境遇の人々を募り、被験者をおびき寄せる為の集落を形成。そこで安全テストを考案・現状の精度70パーセントのものにまで発展させたのです。

 テストが完成して100パーセントの精度で人造人間が見分けられれば、家族の仇を討てる・あるいは犠牲者が出なくなる、と言うのが彼らの“理想”だったのです。

  

 ここで真相を暴いた主人公が取り得る選択肢は三つ。

 

・安全テストを黙認する

・住人を殲滅して安全テストを阻止する

・それ以上関り合いにならない

 

 三つ目のは、自分が手を汚さないだけであって黙認と同義でしょうから、実質的に、荷担か殲滅かの二択でしょう。

 更に悩ましいのがこのコベナント、主人公が指導者として抜擢された民兵組織ミニッツメンの支持勢力だったりもします。

 だからと言ってゲーム的にはどちらを選んでも主人公に弊害は無いのですが、正義の味方であるミニッツメンとしても、こんなパラノイアじみた実験に荷担するのか・支持勢力を結果的にとは言え虐殺して求心力を落とすか、と言うジレンマを抱える羽目になります。

 コベナントの所業を糾弾するにしても、こんな世紀末状態の世界では、彼らの罪を審判する法的な定義もありません。

 あいつらが非道な行いをしていたから、と言う論法は逆に通用しません。

 

 個人的な判断としては。

 一週目では、町と敵対して安全テストを阻止する選択をしました。

 今回の二週目では、黙認する選択をしました。

 結果、コベナントとは友好的なまま、世紀末のオアシスはいつでも主人公を歓迎してくれるようになりました。

 ……と言うわけで、本題に入る前に一話費やしてしまったので、判断の根拠も本題の話も、次回に持ち越しとなってしまいました。

 “神の視点バイアス”と言うサブタイトルに立ち返れば、何となく想像が付くかも知れませんが……。

 シンプルな話「我が身に当てはめて考えてみよう」と言った所です。

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