戦略と戦術

 戦略とは、戦争や販売競争で最終的に勝利する為の大局的な方策を言います。

 対して戦術とは、最終目標に向けて生じた任務・現場での具体的な運用を指します。

 つまり戦略で定めた最終目標を、戦術の積み重ねで目指す。

 単純に、戦略は上位目標で戦術は下位目標、と言う認識でも問題ないかと思われます。

 世界征服! が戦略なら、その為に行う「○○襲撃作戦!」が戦術です。

 

 この微妙な違いを念頭に入れておくと「どうせ主役が勝つ」等のマンネリを打開するのに役立つかと思われます。

 戦術での負けと、戦略での負けは必ずしもイコールでは無いからです。

 例えばお盆の商戦でライバル社に負けたとしても、クリスマスや年末年始に勝利し、総合的な売り上げを上回れば、戦略的には勝ったと思って良いでしょう。

 勿論逆もしかりで、クリスマス商戦での勝利が必ずしも戦略的な勝利を意味するとは限りません。

(そして、わかっていてもクリスマスで勝てば「今年は勝ったも同然!」と言うムードで盲目になりがちです)

 

 今度は戦に置き換えてみます。

 例えば戦略で負けた……結果、自国が滅びたとしても、それが主役の死とはなりません。

 また、最終決戦と言う“戦術”において敗北したとしても、それが必ずしも最終的な勝ち負けを決めるわけではないとも言えます。

 よほどの必然性が無い限り、バッドエンドは忌避されるのが事実です。

 しかし一方で、負けは必ずしもバッドエンドを確定させるフラグでも無いとも言えます。

 

 そして、この戦略と戦術のギャップを意識するようになると「勝ち負けの問題ではない結末」「勝利条件は敵を排除するだけでは無い」と言う選択肢が出てくるのではないかと思います。

 最終決戦まで血眼になって求めていた目標は、実は最重要ではない等、主役と読者に戦略の見誤りを起こすようミスリードした後、本当の戦略目標を提示したり。

 戦闘こそあるが、そもそも力で勝てば済む問題で無くしたり。

 これら以外にも可能性は広がると思います。

 

 私が比較的初期に書いて、ネットには公開しなかった作品なのですが、

「最強無敵の少女と冴えない主人公のあてもない旅」と言う話を書いた事があります。

 どれくらい最強無敵かと言うと、あらゆる物理的干渉を遮断する不死性は当然で、その気になり、積極的に攻勢に回れば数時間で世界を根絶やしに出来ます。

 しかし基本的に心は年相応の少女であり、その性質から施設で厳重に管理されていた(正確には大人達が死にもの狂いで毎日説得して外に出ないよう懇願し続けていた)為、いくらか箱入りな部分はある程度です。

 つまり、彼女を味方に付ける事は世界を掌握する事も意味します。

 だから二人旅そのものは絶対に安泰です。

 少女も主人公も、まず殺される事はあり得ないし、正直な所、戦闘の詳細を描写するだけ無駄ですらあったのかも知れません。

 軍事大国の軍勢を一人で相手取りながら、悠々自適に国家元首の所まで真っ直ぐ突き進むと言った、子供の空想じみた現象を真面目に書けたのは、この設定ならではと思いますが。

 また、二人で居る間の主人公の戦力的な成長も全く無意味です。

 ただ、大方察しがつくと思われますが、終盤で少女を奪われた事で、孤立無援となった主人公の真価が試される展開になります。

 しかし二人が求めているものは戦いの勝利や敵の排除ではなく、たまたまコンビを組む羽目になった当初は、何一つ望みすらありません。

 むしろ主人公は、少女が過去に「散歩に出た大災厄」に巻き込まれて父を失っており、当初は仇として憎んですらいますし、その上絶対に勝てない事もわかっているのでなおのことフラストレーションが溜まる一方でした。

 この作品の戦略的なテーマとしては「無自覚かつ無敵の存在とどう接するか・向き合うか」でした。これは、主人公にも、少女本人にも、世界の権力者全てにも共通のテーマでした。

 ただ「二人旅の目的」と言う“戦術”を欠いていた所が冗長で、恐らく読み苦しかったかな? と今となっては思っています。

 後は何だかんだ、(無自覚とは言え)親の仇と信頼関係を結ぶと言う無茶に手を出すのは無謀でした。

 見た目があどけない少女である事が主人公にとっての中盤の苦悩をもたらすのですが、ある程度主人公に感情移入しながらも所詮は他人である読者としては、逆に主人公以上に彼女へのヘイトを抱く構造だったでしょう。

 なお、この少女が最強だった所以は不死身の身体と異次元的な身体能力のみ……つまり物理攻撃一辺倒で第1巻に相当するお話が完結するのですが、そのエピローグで「思い付いてやってみたら攻撃魔法も出来そう」と言う事に気付き、問題がより深刻化した事を目の当たりにした主人公の(コミカルな)絶叫で締め括られています。

 これが一応、次回作と言う戦略に繋がる、最後の最後での“戦術”と言えるでしょうか。そのままエタりましたが。(戦略的な負け)


 一口に「勝ち負けの二元論では無いよ」と言われても、今度は曖昧すぎて何を書けば良いのかがわからなくなります。

 ひとまずは何事も、戦略と戦術に分けてみる事で見えてくるものはあるのでは、と思います。

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