呪文の詠唱

 ファンタジーにおいて、大掛かりな魔法を発する際の呪文詠唱は、中二病要素のマストアイテムでは無いでしょうか。

 私は、テレビゲームの“ヴァルキリープロファイル”シリーズで、呪文詠唱の虜になった口です。

 数ある中でも「これは!」と思わせるものもあれば「ちょっとダサくない?」と思わせるものもあります。

 同じ中二要素なのに、どこで差が出るのでしょうか? ちょっと考えてみました。

 

 わかりやすく、炎の魔法を題材に考えてみます。

 まず、ダサいと感じるように作ってみました。

「紅蓮の炎よ、我が敵を灰塵と化せ!」

 どうでしょう? ちゃんとダサく出来たでしょうか? もっと単純に、

「強大なる炎よ、全てを喰らい尽くせ!」

 でも可でしょうか。

 これらをダサくするために心掛けた事は「とにかく即物的に書く」と言うことでした。

 炎を呼ぶ魔法だから「炎よ!」とするのは、捻りが無いと思います。

 今度は、真面目に考えてみます。

「我、原初の叡智に回帰せし時。贄は昇華を以て言霊へと変じるだろう」

 原初の叡智と言う部分で炎の事を遠回しに言及し、言霊へと変じると言う部分は消し炭になった犠牲者(=贄)の末路を示唆しています。

 身も蓋もないのですが、私に詩才はありません。

 詩や古文に造詣が深ければ、もっと良いものが書けるのでは無いでしょうか。

 とりあえず、私が思うところの「即物的すぎてダサい」の逆を行ってみたら、こんな感じになりました。

 ちなみに「覚醒す」における、隕石を落とす魔法の詠唱。

「未だ見ぬ、無貌無名の異邦者に告ぐ。この目に見えぬ、されど私の望む、破滅の具象に願い乞う。

 祈るものの名も知らぬまま、私は贄を天に捧ぐ。私が立つ、現世と言う贄を。

 虚空より来たりし虚無の回暦者よ。彼の地の墓標となれ。カタストロフィ・エデン」

 はい、ちょっと長過ぎますね。

 コンセプトはさっきの炎魔法と同じです。遠回しな言い方に終始して「この隕石落ちたら世界がやばいくらいだよ」と言わせています。

 これを即物的に書いてみると「我が招きし流星は、世に破滅をもたらさん!」辺りでしょうか。

 一昔前に流行ったノストラダムスの予言も「1999年7月に隕石落ちて地球滅ぶよ」とか即物的に言ってたら、あまり相手にされていなかったのかも知れません。

 

 あとは、一秒未満の隙が生死を分ける戦場で、こんな長口上をさせる理由、それを許してしまう敵についてもフォローしておいた方が良いでしょう。

 詠唱によって自分をトランス状態にして、本来以上の規模の魔法を運用する手法だったり、

 詠唱が完成するまで他の仲間などが、術者を守ったり。

 

 そう考えると、魔法使い系の人物が、知的だったり理屈っぽいキャラクター性を持つ事が多いのも道理なのでしょうか。

 どこかに、高位魔法を「脳筋ヒャッハー!」とか言いながらぶっぱなす魔法使いは居ないのでしょうか。

 

 即物的に書かない。

 これは呪文に限らず、描写からコンセプト決めまで、全てに通じる事だと思います。

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