13.やっぱり3人編成はキツい(3)
「――話が逸れているんだけど、お礼の理由は何なの?」
最初の話題を見失いそうだったので、花実はそう訊ねた。黒檀は軽く頭を下げて言葉を続ける。
「すまん、結論から話さなかったのは俺の過失だな。何が言いたいかと言うと、長兄を少しでも愉しませて貰っている事に礼を言いたかった。何せ、暇だと何をしでかすか分からない御方……。夢中になるモノがあると、こちらとしても非常に助かる」
――なるほどね。黒系は主神に反抗的だから、主神の命令に従って私の召喚に応じた訳じゃないって事か。
意外と可愛い所があるな、とボンヤリそう思った。懐いている感じはまるでないが、考えてみれば烏羽は最初の頃より幾分か丸くなったような気もする。
「でも待って、紫黒は? 同じ黒だけど、薄群青くらい働いてくれるよ」
「いや、紫黒は……。長兄殿が恐いだけだろう。愉しみの邪魔をすれば、どうなるか分かったものではない」
否定は全く出来ない。が、それでも紫黒はかなりプレイヤーに対して肯定的だと思われる。恐らくだが内部好感度が最初から高めに設定されているのではないだろうか。プログラムの事とか、仕様とかは分からないが。
はあ、と唐突に黒檀が盛大な溜息を吐く。
「出来るのであれば、長兄殿の興味が尽き、飽きてから召喚士を始末したかった。お怒りになられるだろうが、こんな辺鄙な村にまで乗り込んで来られてはどうしようもないな」
「なら止めていッスよ。俺は困らないし」
薄群青が呆れたようにそう言ったが、黒檀は薄群青と言葉を交す気はないようだ。しかし、ふと思い付いたように目を見開く。
「ふむ。薄色、お前の言う事にも一理ある。実に良い案だ。召喚士よ、我等と手を組もう。どうせ、術式でこの世界に喚ばれただけなのだろう? 血縁者がいる訳でもなし、別に世界は救わなくて良いのではないだろうか」
「その台詞大丈夫? 誰がこんな台詞書いちゃったの? ゲームをする大義名分が失われるような事を言っちゃ駄目なんじゃ……」
「何だって?」
確かに黒檀の言う事はある意味真理でもある。異世界人だろうが、ゲームのプレイヤーだろうが境遇は似たようなものだ。現実の親兄弟が人質に取られている訳でもなし、プレイする時間が無くなれば世界を救うなどというゲームの趣旨は忘れ去られるくらいに軽いものだろう。
それはそうなのだが、問題は現状において花実がプレイ時間も確保できるプレイヤーであって、別にゲームに飽き飽きしている訳でもないという事だ。この台詞を見られている時点でゲームをしたいという気持ちがある訳で、そのメタ台詞は不味いのではないだろうか。
ともかく、最悪詰んだら黒檀の申し出に乗っかるプレイも良いなと思いつつも否定の言葉を口にする。ここでゲームを放り捨てるのは意味が分からないからだ。
「えーっと、まあ、世界を救う目的でここにいるし。救わなくて良いなんて事は、ないんじゃない?」
「何だそのふわっとした理由は。ならば人間よ、お前は身の危険を感じながらも特に理由はなく、やらなければならないからやる、とそう言いたいのか」
「そうなるのかな……」
「ええ? 命が懸かっているんだぞ。分かった、元の世界へ帰る方法を探そう。帰れないから自暴自棄になっているのではないのか?」
「いやボタン一つで帰宅できるから別に……。あ、まあ強いてゲーム……じゃなくて、ここにいるのかを言うと暇潰しかな。入学まで時間あるし。あ! 時給も発生してるしね」
「愚かなり人間……。正気を疑う理由だ。というかお前、その給金は誰から貰っている? 主神からはそのような構造は聞いていないが……? いやしかし、こうであるからこそ黒を従えてここにいるのか……? 我々と相性は悪く無さそうな思想だ……」
「あとは――」
主サン、と顔色の悪い薄群青に必死の形相で止められた。
「も、もう止めましょう。時間を稼いで頂いて有り難いんスけど、本末転倒になってるッス」
「時間? 稼いでないよ、別に」
「ホントに止めて下さい。俺もぶっちゃけ、主サンがそこまで考えてるとは思ってないんですけど、格好良くまとめようとしてるでしょ。台無しだけど」
そう言いながら薄群青が、烏羽達が争っている方向を指さす。
黒鉄と戦っていた烏羽は完全に手を止め、片手で顔を覆って僅かに肩を揺らしていた。泣いているはずはないので嗤いを噛み殺しているのだろう。
胡乱げな目でそれを見ていた黒檀が、無理矢理咳払いをしてシリアスな雰囲気に引き戻す。
「惜しいな。頭脳はあれだが、やはり我々と来ないか? 長兄殿はきっと喜ばれるだろう」
「えー、私がピンチになった時にもう一度誘ってもらって……」
主サン、と再度薄群青から叱られてしまった。
「困るッス。召喚士は主神の代理……。それが侵略を推奨しちゃうと、あべこべになるじゃないッスか」
「お前達はそればかりだな、青め。他の召喚士を喚べばいい。この娘に拘る必要は無いはずだ」
「いいや、あるッス。烏羽サンを喚べるような召喚士はそうそういない。貴重な存在なんスよ、この人は」
その言葉を受けて、黒檀は不思議そうな顔をする。
「そうそういない? 分からないぞ、試した異世界からの召喚士はそこの娘を加えて2人のみだ。存外と相性が良ければ都守でも容易に喚び出せる可能性は否定できない。はずなのだが、お前は――何に基づいてその結論に至った?」
薄群青のメタ発言が上手い具合に噛み合う状態に陥っているようだ。が、ストーリー上にもう一人召喚士がいるみたいでそれも気になる。黒檀はプレイヤーの存在を知らないので、必然的にその召喚士はストーリー関係者という訳だ。
ただ、何かのラインを越えたのか、ここで薄群青が首を横に振った。
「答えられないッス。というか、説明が難しいんで、無理」
――話が混線してきているような気がしてならない。
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