13.先輩プレイヤー達の教え
***
はたと気付くと、ストーリーの中断地点である宿の自室に戻っていた。烏羽の姿は見当たらないので、彼は彼で自室に放り込まれたようだ。
ゲーム内時間はログアウトしてから1分すら経過していないらしい。外は真っ暗なまま、夜が明ける気配はない。
――ここからどうしたらいいの?
大海原に放り出された気分だ。もしかして、行動を起こさないと先へ進まないのだろうか。しかし、ストーリー上自分達は本物の召喚士か否かを疑われており、迂闊な行動を取る気にはなれない。
というか、いまいちストーリーの進め方が分からないのだが。チャットのメンバー曰く、割と分岐するらしいので気を付けないとすぐにゲームオーバーになってしまうかもしれない。
「うーん……」
一瞬、烏羽に相談する事を考えた。が、すぐにそれを改める。彼は所詮、ゲームのデータに過ぎない。そんな彼が攻略方法を教えてくれるとはとてもじゃないが思えなかった。
奴に相談を持ち掛けるより、恐らくチャットを開いてルームにいる皆様方に指示を仰いだ方が建設的ですらあるだろう。
そもそもチャットはストーリー中も機能しているのか? 試しにスマートフォンのメニュー画面からチャットをタップしてみる。
――あまりにもあっさり入れた。
唖然としつつも、『黒桐ちゃんを支える会』に入る。人数がかなり少ないので、誰かがいるとは思えなかったが念の為覗いてみようと思ったのだ。
『黒桐12:こんばんは』
『青水2:あら!? 黒桐ちゃん、こんな時間にどうしたのかしら?』
『白星1:ストーリーを進めるんじゃなかったのか』
部屋にいるのは上記2人のみのようだ。なかなかに心強い先輩方である。時間もないので、早速相談を書き込んでみた。
『黒桐12:それが、今2話の宿にいるのですが、これってここから進まないのでしょうか? 何かしないと駄目ですかね』
『青水2:2話とか懐かしいわねぇ。召喚士を騙ってると疑われつつも、結局は主導権を握って前に進む感じの話だったわ。でも、黒桐ちゃんの所には烏羽がいるから難易度が勝手に上がっていそうネ』
『白星1:間違いなくそうだろうな。ちなみに、今は夜か? ゲーム内の話だ』
『黒桐12:夜です』
『白星1:君は他の神使達にかなり疑われている方か?』
『黒桐12:そうですね、かなり疑わしい存在だと思われていると思います』
ここで不意に白星1からの返信が途切れた。代わりに青水2が自身の体験を打ち込む。
『青水2:アタシの時は積極的に行動したかしら。うちの子、そこまで疑われない感じの子達だったし』
『黒桐12:やっぱり、ヘイトの溜り方で立ち回りを変えた方がいいですかね。私、不審な行動を取ったら処されそうなんですけど』
『青水2:どうかしら……。根幹はプレイヤーだし、そんな詰みシステムは無いと思うけれど』
話をしていると、それまで沈黙していた白星1が返信を再開する。それは断定的な口調だった。
『白星1:ヘイトの集まり方でストーリー展開が変わるそうだ。僕からの忠告だが、君の場合は大人しくしていた方が良いんじゃないか? 待っていてもイベントは起きると確認済みだし』
『黒桐12:あ、待ってても起きます? じゃあ待とうかな。薄群青に滅茶苦茶疑われてるの、恐すぎなので』
『青水2:黒桐ちゃんの好きなようにロールプレイしていいのよ。結構、こっちの行動もゲーム側に反映されるみたいだし。急な狂人プレイもありっちゃありよネ!』
『白星1:ゲームオーバーにはえげつないペナルティがある事を忘れるな……』
『黒桐12:相談に乗って頂いてありがとうございました。ストーリーに戻ってみます』
『青水2:いってらっしゃーい』
温かく送り出され、チャットの画面を落とす。
何かが起きている間はチャットを頼る事も無いだろうが、如何せんストーリーが全然進まず無駄な時を過ごすのはごめんだった。
落ち着きを取り戻し、さあイベントの発生を待つぞと意気込んだ、次の瞬間。
宿の外、かなり遠くの方から絹を裂いたような悲鳴が響く。一拍おいて、怒号や積んであった荷物が崩れたりするような音、爆発音と明らかに穏やかでは無い物音が立て続けに響き渡る。
流石の花実もボンヤリしている訳には行かず、立ち上がって窓から外を見た。どこで何が起きているのかは大体分かる。遠くの空が赤く輝いていた。チラチラと見える炎――つまり、火事だ。
「このタイミングで、火事……?」
いつ何時、火事になるのかなど誰も分からないものだが、それが今だと言うのはあまりにも狙いすぎたタイミングだろう。不穏な事が起こっているに違いない、という謎の確信まで持ててしまうくらいだ。
――本当に時間でイベントが発生するんだ……。
であれば、これからも下手に動かず現地にいる神使の指示に従う方が正しいという場面が訪れるかもしれない。その場の空気を読んで行動する必要がありそうだ。
意識を飛ばしていると、玄関がコンコンとノックされた。間髪を入れず、聞き覚えのあり過ぎる声が部屋の外から響く。
「召喚士殿、烏羽が参りましたよ。ええ、緊急事態のようです」
続きの言葉があったのか無かったのかは分からない。というのも、カンカンカンという鉄と鉄を打ち鳴らすような音が外から聞こえ始めたからだ。これは人為的に発生させた音だろう。
外を見れば門番の人間が着ていた上着を纏った人物達が、動揺する町民に対し指示を出しているのが伺える。避難誘導が始まっているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます