第92話 一生、ついていきます
「理にかなった、提案だと思います。」
その静寂を破ったのは、ウィルさんだった。
ですよね!と大声で言いたくなる気持ちをおさえて、ちいさくうなずいた。
「王。いかがでしょうか。」
「フッ。」
せっかくウィルさんが話を振ってくれたのに、クソはなぜかそれを鼻で笑った。その態度を鼻で笑いたいくらいなのはこっちなのに。
「僕はね。そもそもそうやって、女がチャラチャラと着飾ることがあまり好きじゃないんですよ。」
は?
もう一回言わせてもらおう。
は???????????
お前、ドレスが今のリオレッドの経済支えてるって知らないの?
は???ならテムライムにも売るなよ。
輸出制限しろよ。
なら根本的に解決するだろ。
は?????????
意味が分からな過ぎて、戸惑う事しか出来なかった。それはきっと多分みんな同じで、その一言以来誰も何も話さなくなった。
「今日だって大事な会議だというのに、お前は…。」
そしてあろうことかその矛先は、私に向けられた。
そうじゃん。こいつ、私のことめちゃくちゃ嫌いだったんじゃん。
「めかしこんできてるが、舞踏会か何かだと思っているのか?これだから女は…。」
はい、意味不明。
今日はこのドレスを見てもらうために着てきたっていうのに、
それを"おめかし"だ?は?
まあ確かにおめかしよ。間違いない。
でもこれは私にとっての"甲冑"なの。
着飾って気持ちを作って勝負をしに来る。
甲冑と同じ意味があるの。
分かる?分からないよね。
っていうかまず何の話?
意味が分からない。
お前今の言葉、数年前死んじゃったばぁばの前でも言える?
ばぁばはおしゃれな人だったから、ドレスも好きだったよね???
おめかししてチャラチャラして、
女が着飾るのは好きじゃないって言えるの?
これだから女はって言えるの????
ってか多分聞いてるよ?
多分今頃どっかでその言葉聞いて泣いてるよ?
「イグニア。」
意味の分からない攻撃に全員が固まっていた時、最初に声を出したのは我が王様だった。王様の声がすごく穏やかだったからか、殺気立っていた私の気持ちまで穏やかになる感覚がした。
「女は家を守り、男は働きに出る。それが当たり前のことなんだと、私も思っていた。」
その概念はきっと狩猟時代から刻み込まれている"当たり前"だ。だから王様がその考えを持っていることは、全くおかしなことではない。
「でも一人一人が、それぞれ得意な能力を持っているはずだ。性別なんてものは関係ない、その人だけの能力が。」
王様は穏やかなトーンのまま淡々と語っていた。その声がスッと心の奥底まで染みわたってきたのは、知らないうちに心に傷がついていたからだろうか。
「能力を持っているのにそれを発揮する場を作らないのは、国の大きな損失だとは思わないか。」
本当に、その通りだ。
男尊女卑や身分の違いに大きく縛られているこの世界では、無駄になっていることがたくさんある。きっとポルレさんだっておじい様に出会っていなければ、"大きな損失"になっていたって違いない。
「いずれ女性も持っている能力を発揮して、働く時代がきっと来る。性別や年齢、身分の違いなんてものは、ただの"肩書"でしかないんだ。」
堂々とすごく未来的な発言をする彼は、本当に立派だった。
元居た世界でもまだ男尊女卑をしている人がいたっていうのに、この世界でこの概念を持つことが出来る彼が本当に輝いて見える気がした。
いつまでも見ていたいくらいの気持ちになって思わず王様を見つめていると、彼は私の方を見てにっこり笑った。
「この子をみていると、私はそう思うんだ。」
私を見て、彼がそんなことを思ってくれるなんて。
泣きそうな気持にすらなって、私は彼と同じように穏やかに笑った。私だけじゃなくてロッタさんやエバンさんも、とても穏やかな顔で笑っていた。
今までだって思っていたけど、私の王様は本当に素晴らしい方だ。これからも忠誠を誓って、彼について行こう。
まるで結婚相手を決めた時みたいなセリフを、心の中で言った。
「ぼ、僕も…。僕も、そう思います。」
次に誰が何を発言するんだろう。
きっと誰しもそう思っていた静寂を割ったのは、予想もしていなかった人物だった。
「リア様は、リ、リオレッドにいらっしゃったときからずっと…。」
相変わらず言葉を何度もつまらせながらも、マージニア様は発言を続けた。彼がこの会議で発言をするのは、これが最初のことだった。
「ず、ずっと、ご活躍されていました。何度もす、救われたと、父も言っておりました。」
やっぱりなよなよはしていたけど、この空気の中で発言をするマージニア様は、今まで見た中で一番堂々として見えた。私は彼がここで何を言い始めるのか、目が離せなくなった。
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