第78話 たくさんの人の想いを乗せて



「皆様、このドレスにお見覚えはあるでしょうか。」



私は今日、勝負服ともいえるコガネムシの糸を使ったドレスを着てきた。よく見てもらうためにその場で立ち上がると、グレッグさんだけじゃなくて会議室にいる全員が、頭にたくさんハテナを付けて私を見ていた。



「お披露目会の…ドレスだろうか。」



誰よりも早く王様が気が付いて言ってくれた。私はさすが!と思いながら、「はい、そうです」と答えた。



「このドレスを作っている糸は、コガネムシヤマネコから採集したものです。もちろんリオレッドでもルミエラスでも作られていない、テムライムが生み出した素晴らしい技術と言えます。」



ドレスをまだ近くで見たことがない数人の大臣たちは、口をそろえて"確かに美しい"と言った。私は自分で作ったものでもないのに、"でしょ?"と心の中で言いながら、ゆっくりと椅子に座り直した。



「こちらですが、10,000円で購入させていただきました。」



元の世界の物価で言うと、200万円程度の値段となる。一着に200万もかけるなんて前の世界の私では考えられない。どう考えても正気じゃない。

よく考えてしまってはもう一生きれなくなりそうな気がするから、私はこれが"1万円なんだ"って言い聞かせることにしている。



「このドレスですが、購入希望の方がたくさんいらっしゃいます。ですが作れる量が少ないため、今はたくさんの奥様が購入待ちをされている状態なんです。」

「つまり、そのドレスをリオレッドに売り出すということかな?」



核心をなかなか話さない私に、しびれを切らした王様が聞いた。私は王様の目をしっかりと見て、にっこり笑ってみせた。



「そうなんですが、少々違います。」



私の言葉を聞いた王様は、さらに頭にはてなを浮かべた。王様だけじゃなくて多くの大臣たちも、ポカンとした顔でこちらを見ていた。




「その"糸を採取する方法"を、リオレッドに売りましょう。」



そんな大臣たちを置き去りにして、私は堂々と言った。でもその言葉を聞いてからも、みんなしばらく動かないまま何も言わなかった。



「それではリオレッドでも作られてしまうようになるのではないか?」



最初に口を開いたのは、やっぱり王様だった。

それは最初に私が持った考えと同じだったから、"ですよね"って気持ちを込めて「そうだと思います」と言った。



「私も最初はそう思い、ドレス自体を売ればいいと考えていました。ですが国内の生産も追いついていない今、それはあまり現実的な案ではありません。」



でもよくよく考えてみれば、購入待ちがいるような人気の製品を、海外に売り出して売上を上げるなんて現実的ではない。それに今の状況では大量に生産することも出来ないから、状況を改善するのにも時間がかかってしまう。



「それにこの糸を生み出してくれるコガネムシヤマネコという虫は、もともとリオレッドに多く生息しています。なのでいずれは、糸を採取する技術自体をリオレッドが生み出すでしょう。」



ポルレさんに話を聞いて分かったけど、コガネムシはリオレッド原産の虫なんだったら、リオレッドでもっと研究が進んでいてもおかしくない。エバンさんが言った通り、いずれかは"独自"の物でなくなるのは明白なことだ。



「もしそうなってしまえば、数年後また同じ状況が引き起こされることになるのではないかと考えたんです。方法を発見される前に、技術を売ってしまいましょう。」





私はこの会議に参加する前に、キャロルさんにこの話をしてきた。

私が勝手に話を進めようとしているけど、そもそもこの技術を編み出したのはキャロルさんだし、拒否されてしまえば元も子もない。


国のためとはいえ苦労して生み出したものを売ってしまいたいというなんて、私は本当に薄情なやつだ。



「私達のものだけにするには、もったいないです。それに私たちの力では今以上にたくさん作る事も出来ず…。歯がゆい思いをしてたんです。」



私のそんな考えとは反対に、キャロルさんはそんなことを言ってくれた。半分泣きそうになりながら話を聞いていると、キャロルさんは続けて言った。



「リア様には、私達最大のピンチを何度も救っていただいています。あなたのご提案を拒否するなんて、そんな考えは私にはありません。」



そんな風に言ってくれるキャロルさんのためにも、私は今回絶対に失敗できない。そんな強い気持ちを込めて、私はそのまま強い言葉で言った。

たくさんの人の想いを乗せているおかげか、今回の自分はやっぱり一味違う感じがする。まだみんな訳が分からないという顔をしていたけど、折れることなくそのまま話を続けることにした。


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